第89話 EとFの戯言⑤


E「あー、これもいいな」


F「……」


E「いや、こっちが目立たんか……」


F「君、」


E「うーん、けど、デザイン的には……」


F「なあ、君、」


E「うわぁっ! びっくりした!」


F「先程から話しかけていたぞ」


E「そ、そうか。てか、映画見てたんじゃねぇの?」


F「今終わったぞ。……何を読んでいるのかい?」


E「べ、別に何でもねぇよ」


F「ただのファッション誌じゃないか」


E「そ、そうだよ」


F「声が裏返っているのだが」


E「気のせいだろ」


F「紙面にあった、シークレットブーツ特集とは一体何だ?」


E「見えてんじゃねぇか、おっさん!」


F「君、本を叩きつけるな」


E「ああー、知られたくなかった……」


F「その身長、コンプレックスなのか」


E「……たりめぇだよ。ヒラで一番低いんだ。モテるわけねぇじゃん」


F「そうか、モテたいのか」


E「おっさんは良いよな。背、高いし、年取っててもダンディ? って感じだし。若い時はもっとモテたんだろ」


F「うーむ。あまりそうは感じなかったのだが」


E「バレンタイン、いくつもらった?」


F「地元は田舎の方で、そのような習慣はまだ根付いていなかったが……ひとつもらった覚えがあるな」


E「十分だろ。羨ましいし、妬ましい」


F「しかしな君、恋愛は確かに素晴らしいが、ただそれだけが人生の全てだという考えは、さもしいのではないか?」


E「……かなり言うな、おっさん。けどな、こっちも言わせてもらうけど」


F「ん? なんだね?」


E「おっさんも、オールバックにしたり髭を整えたりで、かっこつけてんじゃねぇか」


F「ああ。それは認めよう。しかし、これは女性に良く思われるためではないぞ。私自身のスタイルを保つために行っていることだ」


E「……」


F「疑いの目を向けるな。そもそも、こんなところで女性に目を気にするわけがないだろう」


E「まあ、確かにそうだな」


F「ところで、雑誌の袋とじを開けてほしいのだが」


E「ん? 袋とじ?」


F「ああ。綺麗に開けたいので、鋏を使ってほしい」


E「おお、そうかそうか。やっぱおっさんもオスだな」


F「なぜそんなに嬉しそうなんだ。ほら」


E「……なんだこれ、『海の宝石、ウミウシ特集』?」


F「今回の肝入りの特集だ」


E「なんでそんなもんを袋とじにしてんだ!」


F「……なぜ怒る?」


E「……いや、期待した俺の方が馬鹿だったわ。ハサミとってくる」


F「うむ。頼んだぞ」



























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