第46話 祝福
僕には、生まれた時から見守ってくれている人がいる。
正確には、プラチナ色の長い髪にサファイヤのような青い瞳を持ち、いつも白いドレスを着て、背中に純白の羽が生えている、人じゃない女性だ。
彼女は偶然、僕が生まれる瞬間に立ち会い、それからずっと、暇を見つけてはストーキング、本人曰く加護を僕にしていた。
僕が物心つく頃には彼女の姿が見えていて、時々お喋りをした。それを見た両親は、僕にはイマジナリーフレンドがいるのだと解釈してくれたようだった。
成長するにつれて流石に分別を覚えた僕は、人がいる前で彼女と話すことを避けるようになった。
しかし、度を越えたかまってちゃんな彼女は、それがどうも面白くないらしく、僕にへんてこなものを投げつけるという謎の嫌がらせを始めた。
例えば、北海道の雪原の中でセミの抜け殻を投げてきたり、お花見の最中にナンテンの赤い実を投げてきたり。
ただ、これは弊害ばかりではなかった。
八月の大学構内で、彼女の投げたイガグリを背中に受けてうずくまっていた僕に、「どうしましたか?」と声をかけてくれたのが、後に僕の妻となる女性だった。
彼女に結婚することを告げると一瞬ぽかんとした後、
「おめでとう」
とだけ言った。
その心から嬉しそうな、どこか寂しそうな笑顔を見た時、僕は彼女がさんざん言っていた「加護」の本当の意味を知った。
△
これが彼女との別れになるかと思ったが、彼女は結婚式から息子の誕生まで立ち会って、初めて息子を抱いた僕の隣で、僕よりも大声で泣きじゃくっていた。
ただ、その頃にはあの悪戯をしなくなっていた。
息子が生まれてから五カ月目、僕は妻を家に休ませ、息子と二人きりで散歩に出かけた。
息子に色んなものを見せたくて、僕は調子に乗ってあちこち歩きまわり、ふと見ると、太陽は沈み、辺りは暗くなり始めていた。
慌てて家に帰る途中、横断歩道で足止めを喰らっていると、ベビーカーの中の息子のお腹の上に、ピンク色の花びらが落ちた。
見上げると彼女が僕の頭上に浮いていて、両手いっぱいの花びらを僕と息子に落としていた。
「この子が生まれた頃にはもう散っていたからね」
「ありがとう」
花びらが舞い上がる中で、彼女はドレスの裾を持ち上げてお辞儀した。
彼女が「あっ」と声を上げる。視線を辿ると、息子が彼女の方を見詰めていた。
「見えているのかしら」
「そうかも」
秋の宵、鼻の下に花弁が落ちたのを「へくち」と息子が吹き飛ばした。
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