第14話 坊主頭に関する雑談


C「それが、私、ずっと勘違いしていたけれど、四組の富川先生だったの」


B「へえ、そうだったんだ。こういう話聞くと、部活に入ればよかったかなーと思っちゃうね。こうして、放課後に早く帰れるのが一番好きだけど。ねえ」


A「……」


B「ねえ、聞いてた?」


A「え? 何?」


C「なんだか今日、ずっとぼんやりしてるね」


A「そう見える?」


B「見える見える」


C「どうしたの?」


A「……これ、誰にも話さないでね」


B「うん」


C「誓う誓う」


A「昨日、私、コンビニに行こうって夕方歩いてたんだけど」


B「うん」


A「道路の反対側で坪内さんが見えて、」


C「普通じゃん」


B「家、近かったからね」


A「まあ、それはそうだけど、一人じゃなかったの」


C「お?」


B「もしかして、男の子と一緒?」


A「うん」


C「あー、やっぱいたんだ」


B「坪内さん、美人だから、彼氏の一人や二人、いない方が可笑しいよねー」


C「ねえ、今まで噂にならなかった方が可笑しいよねー」


A「あー、彼氏かもしれないけれど、」


C「どんな子?」


B「同じ高校?」


A「知らない子で、何というか、坊主だった」


C「……坪内さん、意外な趣味してるんだ。お坊さんと結婚できたんだっけ?」


B「いや、坊主頭だったってことでしょ」


A「うん。そう」


B「野球部?」


A「さあ。私服だったから」


C「坊主頭ってさ、」


A「うん」


C「どんな感じの?」


A「うん?」


C「坊主頭って一言で言っても、色んなパターンがあるでしょ?」


B「例えば、どういうの?」


C「カツオくんみたいのとか、ガリガリ君みたいのとか、エグザイルみたいのとか」


B「あー、なんとなく分かった。エグザイルみたいなのって、例えとしては古い気がするけど」


C「で、で、坪内さんと一緒にいた男の人って、どんなタイプの坊主頭だった?」


A「うーん……ガリガリ君タイプ、かな……」


B「ちょっと伸びている感じか」


A「というよりも、ガリガリ君みたいな頭部っていうのかな……」


B「ん?」


C「ええ? 本当に?」


A「うん。ガリガリ君」


B「いや、人間じゃありえないでしょ、あの頭部」


C「見間違いじゃない?」


A「ガリガリ君だったよ。誰がどう見てもガリガリ君。ザ・ガリガリ君」


B「……なんかガリガリ君が何なのか分からなくなってきた」


C「ガリガリ君食べたい」


A「だから私、余計にびっくりして。え! 坪内さん、そんな人がタイプだったの!? って」


B「ガリガリ君みたいな頭にびっくりしてたからじゃあないんだね」


C「でも、その人が坪内さんの彼氏だとは、限らないんじゃない?」


A「あ、そっか。親戚とか、いとことかかもしれないんだね」


B「今日はなんか冴えてるね」


C「でへへ」


B「でへへ?」


A「あ、ちょっとあれ見て」


C「ん?」


B「あ、坪内さん」


A「噂をすればだね」


C「どうする?」


B「どうするって?」


C「今がガリガリ君(仮)の正体を訊くチャンスだけど」


B「いや、そう言われても」


A「そうだねえ」


C「二人とも、気にならないの?」


A「気になるけれど、何というか、ねえ」


B「私たちレベルが、坪内さんに話し掛けるのは、ちょっと勇気がいるっていうか」


C「えー。坪内さんも、そんなこと気にしないよ」


B「うーん」


A「そうかもしれないのは分かるけど」


C「ちょっと、私、訊いてくる!」


B「え? あ、ちょっと、」


A「行っちゃったねえ」


B「変に行動的だね」


A「うん。あ、話してる」


B「戻ってきた」


A「おかえりー」


C「ただいまー」


B「それで、分かった?」


C「うん。ばっちし」


A「坪内さん、なんて?」


C「坪内さんはー、ソーダ味が好きって」


A「……?」


B「え、どういうこと?」


C「好きなガリガリ君の味のこと」


A「あ、ああー」


C「やっぱり王道が一番だって」


B「へえ、なんか勝手に、梨味が好きそうだと思っていた」


A「私もソーダ味が好きだから、話しが合いそう」


C「ね、王道が一番だよね」


B「……ちょっと待って、ガリガリ君の話じゃないでしょ?」


C「ん??」


A「あれ、そうだっけ」


B「何であんたまで忘れてるのよ。坪内さんと一緒にいたガリガリ君(仮)の正体はどうなったの?」


A「あ」


C「それ訊くのは忘れた」


B「やっぱり」


A「まあ、もう有耶無耶にした方がいいんじゃない?」


B「そうだね。坪内さんが正直に教えてくれるとは限らないし」


C「そうだね。これ以上調べるのは諦めるよ」


A(そう言って、明日も訊きそう)


B(明日も言い出しそうだし、すっぱり忘れていそうでもある)


C(明日、忘れたふりをして訊いてみよう)

































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