第11話 無限エレベーター
夜中の三時に目が覚めた。
頭がずきずきと痛むのは、飲み過ぎてしまったからだ。
喉の渇きを覚え、足元がふらつきながらもベッドから立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。
僅かなカーテンの隙間からは外の青い光が差し込んで、室内をうすらぼんやり照らしていた。
一人暮らし用の冷蔵庫を開けると、オレンジ色の光が溢れ出してくる。
しかしその中は殆どが空で、尽きかけの調味料が侘しく並んでいるだけであった。
私は自分の不摂生を呪い、仕方なくコンビニにミネラルウォーターを買いに行くことにした。
リュックサックを無造作に背負い、無理矢理靴を足に捻じ込み、寄りかかるようにドアを押して外に出る。
早速迎えてくれた夜風に目をしばしばさせる。
外が見えるマンションの廊下で、ドアの鍵を閉めて、ふらふらしながら歩きだした。
灰色コンクリート剥き出しの廊下で、響くのは私の足音だけだ。
辿り着いたエレベーターの前、ジジジと音を立てる蛍光灯の下で降りるボタンを押した。
ボタンがオレンジに光る。
ごうんと音を立てて、エレベーターの四角い箱がこちらに上がっていくのが聞こえた。
頭は働かず、目は完全に閉じていて、体が勝手に左へと傾くのを何度も修正しながら到着を待つ。
エレベーターが止まり、そのドアが開き切る直前に、半目を開けた私はそのまま乗り込もうと足を半歩踏み出したが、そのままの態勢で思わずのけ反った。
エレベーター内は人でいっぱいだった。
あの独特の沈黙を我慢していたのだろう、真顔になった人々が、ぞろぞろと降りていく。
もちろん私は半歩戻り、彼らが下りるのを待つことにした。
降りてくるのは……スーツ姿の男性、サングラスを掛けた女性、学生服の少年、ランドセルを背負った少女、杖を突く老人、帽子を被った老女……本当に多種多様な人々だった。
半分寝たままの脳みそで、その光景を眺めていたが、私はやっと可笑しい事に気付いた。
このエレベーターの許容体重を超えた人数が、今もこの中から降りてきている。
目を丸くしたまま、その降りてくる人々を見つめ続けていた。
中には、コック姿のアジア人の男性、荘厳なドレスを着た西洋人の女性、野球のユニフォームを着たアフリカ系の男性など、このマンションでは見たことのない人の姿まで見えていた。
明らかに、この階の部屋数よりも多くの人間が下りている、いや、その前に彼らはどこに行くのか、私は混乱する状態でも、その疑問に行き着いた。
勢いよく後ろを振り返った。
だが、そこには誰もいなかった。
一瞬どこかのドアが閉まるような気がしたが、それも定かではない。
そして、エレベーターの方に目を移すと、降りようとする人たちもいなくなり、丁度エレベーターのドアが閉まろうとしている所だった。
今、ボタンを押せばまだ間に合うことはなんとなく分かっていたが、もはやエレベーターに乗ろうとは思わなかった。
呑み過ぎて、幻覚が見えたのかもしれないと、微かに痛む頭の右側を押さえて、これからはお酒を控えようと決意して、エレベーター横の階段を降り始めた。
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