第7話 「三階駐車場が空いています」


 北風が容赦無く吹きつける中、三階に続くスロープを背に、駐車場に入ってくる車を一台ずつさばいていく。

 ダウンジャケットを着ていても、寒いものは寒い。


 夜の中、ヘッドライトを灯した長い車の列に向かって、棒を持った腕をぐるぐるさせたり、両手を出して制止させたり、新年を迎えたのに、やってることはいつもと変わらない。


 いや、別に嫌ではないし、仕事を入れたのは自分だから、あまり文句も言ってはいけないとは分かっているけど、そろそろ寒さと疲れでへばってくるタイミングだ。

 それに加えて、じりじり進むしかない車に苛立ってクラクションを鳴らしてくるお客さんもいるので、心も折れそう。


 でも仕方ない。まだ交代の時間が来ない。もうちょっと頑張らなくちゃいけない。

 ぼんやりと頭の隅でそう考えながら働いていると、車の列の中に信じられないものを見た。


 象だ。生きた本物の象が、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。

 その灰色の背中には、渋谷で歩いているような、お洒落な若い女性が乗っている。


 女性が象の背中をぺちぺちと叩くと、象が少しだけ歩を進める。

 首元にランタンをぶら下げた象は、鼻を嬉しそうに揺らしている。


 そうして、とうとうその象が目の前に来た。

 柵などを隔てずに、至近距離で見上げる象の大きさに圧倒されて、指示を出すのも忘れて突っ立っていると、象の背中の女性が心から楽しんでいるような笑みで尋ねた。


「すみません、駐車場はどこがありますか?」

「あ、三階、三階の駐車場が空いています」

「ありがとうございます」


 はっとしてそう案内すると、女性は爽やかな笑みを残して、象を進めた。


 三階に続くスロープを登っていく象の背中にもランタンが乗せられ、尻尾の方にはしめ縄がくくりつけられている。

 最近しめ縄を車に付ける人も減ってきているのに、感心だなーと妙な感想を抱いた。


 スロープを力強く登る象に見とれていると、背後の車の列の中から鋭いクラクションの音が響いた。


 慌てて前を向き、再び前列の車からさばいていく。

 しかしその車の中は、三人の家族連れが乗っていたのだが、こんな普通のショッピングモールで象を見るなんて思っていなかった様子で、まだ興奮が冷めていないようだった。


 その気持ち分かるなーと苦笑しつつ、正月からいいもの見れたことに晴れ晴れとした気持ちで、その後も仕事を続けた。








































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