第3話 夢の終わり、そして始まり
砂漠の真ん中、砂が山のように盛り上がっている上で、一人の女が立っていた。
夏の陽炎のようなその女の背中に、
振り返った女は、ぼんやりとした様子で視線を漂わせていたが、男に気付くと微笑みを浮かべた。
――何をしているのだ
――夢を 見ていました
男の問いに、女は煙草の煙のように、ふわふわとした煙のような答えを吐き出した。
夢? と男は眉を顰める。
いくら女が肌を隠しているとはいえ、太陽が照りつける中、立ったまま寝ていたとは、到底考えられなかった。
――嘘をつくな
――いいえ 本当の 事ですよ
女が魅惑的な笑みを作り、男はしばしそれに見とれる。
――あなたは夢を見たことが無いのですね
――馬鹿言え 夢なら何度も見た
――本物の 夢 ですよ
女の真っ赤な唇が、ゆっくりと動く。蝶の羽ばたきのように、瞬きをする。
――本物の夢は 自分を失うのです
――夢の中に 自分が溶けてしまうのです
――それが夢だと気付かぬまま どこからどこまでが自分か分からぬまま 夢の中を漂うのです
語り終えて、ほうと女は生暖かい息を出した。
――本当にそのような夢があるのか
男はますます不機嫌そうな顔をして、女に訊いた。
――ありますよ
――ほら、
女は男の後ろ、青く光る空を指差すと、男はそちらを向いた。
そして、私と目が合った。
……はっと目覚めると、部屋の中はまだ真っ暗だった。
まぶたの裏に真昼の砂漠の光を感じつつ、手探りで枕元の携帯電話を探し出し、開く。時刻は夜中の三時だった。
あの夢は一体何だったのだろう。ベッドの定位置について、ふと思う。
あの二人は、異国の者だろうか。それとも、異世界の住民だろうか。過去の人物という可能性もある。
答えの確認しようがないことを、取り留めもなく考えている内に、再び睡魔が襲ってきた。
目を閉じると、私の輪郭がほどけて、夢と混じっていくのを感じた。
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