「その言葉だけで、生きていけると思った」映画『天使のいる図書館』

 知り合いの女優さんが出ているので、先日観に行った、『天使のいる図書館』

 この女優さんが出ている番組や映画は大体「観てよかった!」と思うのだが、この映画はよかった以上に、かなり泣けた。

 タイトルに挙げたセリフは、香川京子さん演じる芦高礼子が教え子である田中草一郎(演じたのは森本レオ)への恋を断ち、東京へ嫁ぐため駅へ向かうシーンで流れる台詞なのだが、これがとにかく泣ける。

 言葉にするのは難しいが、嫁ぐというのはこういうことだと強く感じたのだ。

 ”好き”だけでは結婚できない。しかしこの時代、結婚はできるかできないかより、するものだった。まして、礼子さんが嫁ぐ場所は東京。あまりにも遠い場所。

 わたしの足がこの地の土を踏むことは二度とない。

 そんな不退転の決意を支えたのが、生涯ただ一度の恋。

 

 わたしを愛してくれた人がいた。それだけでわたしは生きていける――。


 嫁ぐ女性というのは、多かれ少なかれ礼子さんと同じ決意と痛みを抱いて誰かの妻になっている気がする。明日からは生きていく場所も名前も、ともに生きる人さえ変えて生きていく。今までの自分を否定するわけではないけれど、それは自分が一度死んだような、自分の一部を殺すかのような、どこかしらそれまでの自分ではいられないような気持ちになるのが女にとっての結婚というものではないだろうか。


 映画の主軸はあくまでも小芝風花ちゃん演じる吉井さくらの成長物語なのだが、さくらちゃんの成長が今から伸びようとする木なら、礼子さんの物語は木の根に染み渡る水の物語。

 泣けるところはあっても、悲しいとは思わない。

 

 ここまでベタ褒めだったこの映画。

 唯一の不満は、上映館と上映期間が限られているところか。

 

 

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