第5話 対を成すプレゼント
トノサはギルドへと辿り着く。バーンは、もうギルドメンバーと馴染んでいる。いや、異常なぐらい主人公ギルドが、バーンを歓迎しているように見える。ノラさんも例外ではない。僕が気にし過ぎているのか?
黒板に『ノラの主人』帰還と書かれている。バーンはギルドと縁があるのか? 僕はそのことに、踏み込み過ぎない方がいいだろう。
泥だらけで汚れているトノサを、ヨムコが洗浄してくれる。いつものヨムコの行動パターンと違うぞ。ヨムコははっきりと言った。
「トノサはもう池の中ではないよ。頑張った。あとロウヘイ、これ受け取ってね。
僕はとりあえず、ヨムコから受け取った物を確認する。『カエルマッサージ』と、箱には書いてある。説明書には、人間には効果は薄いと。これ、何に使うのだろう? というか、カエルってマッサージが必要ではないような…。
ヨムコは得意げに続ける。
「観光名所『歌の国』に、あったんだよ、カエルたちが山に登ると、疲れるよね。ということで、ロウヘイはヨムコさんを大切にしようと誓うのであった」
まあ、ヨムコからの大切な贈り物だから、トノサの倉庫に保管しよう。
僕はカメラのフィルムをヨムコに渡す。
「お返しだ、ヨムコ。このプレゼントに感激したヨムコは、ロウヘイくんを大切にしようと誓うのであった」
ヨムコは、説明書を読みながら答える。
「もう、その乗りはいいから。でもプレゼントは嬉しいよ、ロウヘイ。えっ、私が山に登っている? ヘエ、外の世界は新鮮だ。私には無理だから、体験させてくれたんだね、ロウヘイ」
僕は本気で言う。
「本命の品は、下にある」
ヨムコは決意した。
「下って山から落ちるよ! って、これ体験しているだけだね。えっ、これは『虹色のカエル』だ! しかも、山にいる。作り物だけど、池から山へ登ったんだね。作り物? 虹色のカエル? ありがとう、ロウヘイ。私には虹色のたくさんの可能性が、才能たちが眠っているって、ロウヘイ言ってる。その可能性は、すねて何もしないヨムコさんには、開かれないってことだよね。私は、頑張ると誓った! 何を頑張ればいいかはわかんないけど」
「まあ、無理に思い詰めるなってことだ、ヨムコ」
と僕は補足する。
ノラさんは呟いていた。
「これが、池野様の言っていた『対をなすプレゼント』。100年以上前の主人公トラップでは、実を結ぶことはなかった…か」
ノラさんはそう言うと、空を眺めた。
その頃テスの本部では、大きな動きを見せていた。テスのリーダーであるドントは言う。
「長老オリースよ、血迷ったか。かつて凄まじい戦果を上げたオリースだが、今のリーダーは私だよ。戦力をすべて排除し、平和の象徴とされる『歌の国』を制圧しろだと? そんなことをすれば、テスという組織は信用ガタ落ちだ」
コイルはドントをなだめる。
「話をとりあえず聞こう、ドント」
テスという国営組織は主に、カザン国と双璧をなす大国『トンボ国』の治安を守り続けた。その成果は大きく、テスは組織として拡大していった。
長老オリースは続けて話を進める。
「カッカッカッ、歌の国が平和の象徴とは笑わせる。歌の国は、世界最大の軍事力を隠し持つ。それは『ブラッドオークション』のヒントとなった能力『黒板』、かつては『コックバーン』と呼ばれていたもの。つまり、黒板とは、特殊なまな板だ。ブラッドのやり取りを行っていたのは歌の国だ。伝説の料理人『オアシス』は『主人公』が発見した『池の楽園』を制圧した。そして、テスが動くことはない」
それでもドントは納得しない。
「つまり、テスは動かず、テスと友好を持つ国や組織に歌の国を調査させ、必要あらば制圧させるというのか! それが世界最高の組織テスのやることか」
コイルはまたドントをなだめる。
「ドントは真面目なんだよ。綺麗ごとだけで、テスのいう組織は存続できない。現に、ブラッドオークションを主力としている『コレクター』を解決できず、テスの地位は低下気味なんだよ」
オリースは天を仰ぐ。
「歌の国のオアシスと呼ばれた『池野』よ。借りを返す時は近い。『ノラたち』は元気かい? 『今度の主人公』は、伝説にある主人公の器かい? トラップに引っ掛かるマヌケを主人公と呼ぶ」
オリースにマヌケと呼ばれる主人公ロウヘイの物語は、繋がっている。主人公とヒロインの、対になるものとは?
とりあえずロウヘイは、語りべへと戻る。僕は思う。プレゼント交換をヨムコとしたのだが、何が変化したかは実感がない。
ノラさんはバーンを、明らかに特別扱いだ。
「ご主人様、お気をつけて」
「ノラさん、俺と別の人物を勘違いしていないか」
と、バーンも違和感があるようだ。
ノラさんは言い換える。
「ご主人様と呼ばれるのは嫌ですか? なら、バーン様、『チョーク』の補充をして参ります」
バーンも少し勘違いをする。
「チョークの補充って、ああそのチョークか。チョークさんは今頃俺を、どう思っているだろう? 仕留め損なったとか…」
コレクターの中でも、最も影響力を持つ人物の名はチョークだ。黒板にチョーク、何かあるのか? 考え過ぎだろうな。
主人公ギルド兵の一人が報告する。
「ミドリの国は、女王の意向により、コレクターとの友好関係を築こうとしている」
ノラさんは呆れる。
「コレクターが友好関係? 個人を尊重する組織に、それは無駄だろう」
バーンは、僕に質問をする。
「ミドリ女王とシオン王子は、ロウヘイの友人だったよな。なら、どう考える? 止めるか」
僕も考える。
「女王ミドリが、また暴走したのだろうか」
バーンは、コレクターの構成を言う。
「普通に考えれば、コレクターとの友好は無謀だ。ミドリ女王は、コレクターの構成を知らないはずだ。しかし、効率を考えれば不可能とは言えないぞ。コレクターには、個人重視とはいえ派閥がある。最も支持されているのがチョークさんだ。だが、支持率の低い派閥に絞れば、有効かもしれないぞ、ロウヘイ」
僕は言う。
「じゃあ僕は、女王ミドリかシオンに、それを伝えにいく。必要があれば協力しよう」
バーンも首肯く。
「俺も、ロウヘイの友人に挨拶にいこう」
しかし、ノラさんとトメさんは止める。
「ミドリの国と友好関係が少しあるが、はっきり言ってリスクの方がでかい」
「はい。私トメも協力しかねますよ」
だがバーンは…。
「俺が上手くやる。黒板は別の人間と間違われるなと言っているよ」
「解りました。ギルド兵はバーン様をお守りするのだ」
と、ノラさん。ノラさんは、何に固執しているのだろう?
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