第3話 ノラは主人を待つ

一方、その頃の主人公ギルドでは。

トメさんはノラさんに忠告を「『池野料理長』は、もういないのです。『彼』は池野料理長ではありません」

ギルドの斬り込み隊長、トメさんの意見を聞いたノラさんは言う。

「池野主人が亡くなったことぐらい、私は理解しているよ。だが、その『ブラッド』は生きている」

その話に、ヨムコも興味を示す。

「ふーん、ノラさんは池野さんという人を今でも慕っているんだね」

トメさんは更に続ける。

「主人公トラップは、100年以上失敗し続けていますよね。池野様の時も成功せず、主人公ギルドの評判は低下し、忘れ去られた」

ノラさんはかつて成功した主人公を、池野元料理長から聞かされただけであった。 ヨムコはこのムードを、どうにかしたいと思。

再びロウヘイの物語に戻る。

さすがギルドの選んだ通行ルートだぜ。厄介な敵などに、ほとんど遭遇しない。と思っていたら、コレクターの兵士に囲まれていた。油断はしてはいけないな。20人ぐらいマシンがいるのか。

待てよ。コイツら様子がおかしい。とても生きた人間には見えない。誰かに操られているとでもいうのか? 取り敢えず応戦するしかない。

リーダー格と思われる青年は、元気一杯だ。

「ちっ、もう見破りやがった。俺の名はバーンだ。チョークさんから頂いた兵士を使う」

僕は確認をとる。

「バーン? こいつ『エンペラー』のブラッド使いだ」

エンペラーのブラッドは、免疫の少ない人物を従わせることができるらしい。

だけど、兵士たちはバーンに従っているように見えない。ということは、バーンは慕われていないということだ。

エンペラーのブラッドは、20以上のレベルを底上げする、トップクラスのスキルだ。ギルド兵も確認する。

「エンペラーのブラッドは、最強のパイロットと言われた『オアシス』も持っていたらしい。オアシスは、御伽ばなしで、実在の人物ではないという説が有力だが。オアシスは30万の兵を操ったという」

エンペラーのブラッドの恐いところは、兵士の信頼が厚いほど、本人も強化されるところだ。しかし、バーンとかいうヤツは信頼されていないため、強くないのではないか? 宝の持ち腐れってヤツ。

行くぞ、トノサ! バーンの目的などどうでもいい。カエルソードと包丁ソードがぶつかる。ここは互角か。僕は距離を取り、ミサイルを広範囲に展開させる。そしてここで、カエルハンマーを叩き込む。

バーンは悔しそうに言う。

「従わせた兵など要らなかった。エンペラーのブラッドなどどうでもよかった。だが、コレクターの兵士長として、退くわけにはいかない」

バーンは本当は、対等の仲間が欲しいのではないか? どうでもいいけど。

さあ、決着だ。スノーブ町まで近いハズだぞ。ここでシオンとクサリのパワーを、僕は使う。 この能力が、主人公のブラッドの価値の高さだろう。バーンを追い詰めたぞ。

ところがこの時、地面が崩れる。僕とバーンは、池へ落下する。トノサが水陸両用マシンで助かったぜ。ところがバーンの事態は深刻だ。まあ、放っておいていいや。目的地へと急ごう。

バーンのマシンは動きづらそうだ。バーンは辺りを見回す。

「この池を俺は知っている? ロウヘイ、キサマを俺の部下にしてやってもいい」

僕は呆れる。

「素直に助けてくれって言えよ」

「ふん」

僕とバーンの友好度が、少し上がった。

「俺のマシン『クロスミ』が、水中対応出来ないとは知らなかった」

「それぐらい知っとけ」

と、僕。

ここで、久しぶりにヨムコからメールが届く。『黒板』を確かめて、と書いてある。しかし、僕には意味がわからん。

僕がバーンにカエルの山の本を渡すと、彼は凄く驚いていた。

「山ガエルを知っているか、ロウヘイ。火山地域に生息するカエルらしいが、池から旅をしたとは聞かない。しかし、山ガエルは山から生まれただろうか?」

バーンは考え込んでいる。僕とバーンの出会いが、主人公トラップの『核』であることなど、この時の僕は理解していなかった。ノラさんに仕組まれたことだった。

僕とバーンは休憩をとりながら、雑談している。

「ギルド長ノラか。俺の知っている限り、ノラさんには本名がない。『池の楽園』から、この世界に迷い込んだ人間の総称を、『ノラ』と言う。池の楽園とは、かつて主人公と名乗る者が発見した、謎の空間らしい」

「詳しいな、バーン」

と、僕はかなり驚いていた。

バーンは更に言う。

「それは、俺のもう一つのブラッド『黒板』に書かれていた。黒板とは何か、自分でもよく解っていないんだがな。俺の頭の中には、幼い少女との記憶があるし。まあ、憶測をいくら言っても意味はない。ここを出るぞ、ロウヘイ」

「ああ」

ここで僕は、ヨムコのメールを思い出す。黒板を確かめろ、と書かれていた気がする。これで確かめたことになるのだろうか? そもそもギルドが黒板の知識を持っていたのは何故? それよりも、目的地へと進んだ方が良さそうだ。

僕とバーンは、スノーブ町の近くまでたどり着いた。ここで、バーンのマシンクロスミは歩みを止める。

「ロウヘイは、何も俺に聞かないんだな」

「何のことだ?」

と、僕は言う。

バーンは決心して言う。

「俺はチョークさんに見捨てられた。つまり、帰るところがないのさ。それを察して何も言わない他人に、友人の証を渡す。『体感カメラ』という技術だ。受け取れ、ロウヘイ」

「そこまでして友人が欲しいか、バーン」

「本当はロウヘイも、友人が欲しいハズだ」

と、僕とバーンは二人で笑った。

体感カメラの使いどころは何処かな? それは、カメラで撮った場所に、少しだけ居る ように感じる技術だ。高度な技術だが、穴は多いらしい。使い時は気を付けよう。

ちらほらとスノーブガエルが見つかる。こいつらは山にはいないんだよな。その時、スノーブ町の近くに、『コレクター』の兵士たちが集まっていた。

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