おかあさん くもがあんなところにあるよ

小さな 小さな 指が差す先で

小さな 小さな 雲のかたまりが

低く 低く とどまっている

いまにも 雨が降りそうで 降らない

そんな鈍色の空の下

淡い灰色のその雲は 迷子のように落ちている


あのクレーン車のクレーンのところ くもにとどくかな

さぁ どうだろう ちょっと長さが足りないかな

じゃぁ じゃぁ はしご車はとどくかな

そうだね

梯子車なら 届くかもしれないね

こたえた瞬間

きみとわたしの頭のなかの世界が ぱぁっと広がった

梯子車に乗って 雲に触れ

もくもくとした 手触りを楽しむ

ひとちぎり ちぎった雲を 食べてみる 

きみの きらきらした目が きゅうっと上がった頬が

満足そうに息をついたから

わたしも うれしくなった


きみがこの世に生きた 数年間は

わたしがお母さんになった 数年間

まだ

あの雲のように すぐに迷子になるきみと 同じ

わたしもすぐに 迷子になる お母さん

まよってばかり

きみの手を握ったまま たちどまってばかり

だけど

わたしはいつだって きみと一緒に

梯子車で雲まで行けるし 雲を食べることだってできるんだから


だから

今日も歩こうと思う きみの瞳から 逃げずに

こんな わたしだけれど

こんな お母さんだけれど

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