湧きいづるもの

無償の愛

そんなもの あるのかよ

そう思っていたけれど

それは突然

ふらりと ぼくのそばにあらわれてしまって

頬杖ついて ふと きみを眺めて

ああ こういうのを いうのかもなぁ

なんて

恥ずかしくて とても口には出せないことを いま思っている


5月なのに 今日は寒いね

コーヒーふたつの 昼下がり

そう言って ぼくの肩にかけてくれた ブランケット

きみは 色違いのやつに包まれて

さっきから 雑誌のページをめくってる

ときどき ふっと笑いながら

ねぇ あのね って 読んでいるところを 話し出す

ぼくの返事なんて いつも

へぇ とか ふぅん とかに

すごいね だの おもしろいね だのが 付くだけなのに

この時間がとても楽しいと きみは言う

 

自分がこの世に 生まれたわけなんて

考えたこともない

いまだって そうだけど

きみが ふっと笑うたびに

そうやって 雑誌を読んで 聞いて聞いてって 言うたびに

コーヒーのカップを ふたり同時に傾けるたびに

ぼくは ふと

無償の愛ってのを 想うんだよ


深い森の 泉のように

とめどなく湧きだす心があるならば

それはきっと きみがぼくにくれるもの

惜しみなく ぼくにくれるもの

ぼくの中に 湧き出たものも

真っ先に

ぜんぶ きみに 流れていくのだろう


見返りを求めない 愛は

見返りを求めずに 流れ合う

与えているなんて おもいもせずに

ただ 湧き出でて

あふれて 満たす


ぼくが 頬杖をついて

きみを眺める

ほんの ほんの 一瞬のあいだに

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