ことば

ひとりでいたときは 言葉は無心に吐き出すものでした

生まれた言葉たちを ただじっと飼うことができずに

夢中になって 空に放ちました

言葉たちは そのままただ舞い上がり 消えていきました


あのひとに出会って 言葉は美しい糸になりました

生まれた言葉たちに 熱い熱い思いをのせて

一生懸命 あのひとに放ちました

言葉たちは しなやかに強かに わたしとあのひとを結んでいきました


あなたが 奇跡のようにあらわれてから

ようやく わたしは知りました

わたしは言葉ひとつで 虹色の魂に

一生消えないほどの 傷を負わせることができる

わたしは言葉ひとつで あふれんばかりの輝きを

粉々に 打ち砕くことができる


あなたの むきだしの命を抱きながら

いくつも いくつも 言葉をのみこむ

それをあなたに渡すときには いつもとても怖いのです


たくさんでなくていい

あなたを優しく包みつづける言葉を

美しくなくていい

あなたを守りつづける言葉を

わたしは たったひとこと いつかあなたに渡したい

そのためにこうして 言葉を探している日々なのだと

今はそう 思うのです

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る