第17話『対キマイラ戦~準備~』
車がない。
これは非常にマズい。
近所のゴブリンを中心に狩りつつ
しかしこの状況で近所以外に出歩けず家に引きこもっていたのでは、遠からず精神を病んでしまうに違いない。
なにより、それでは進展がない。
この先何があるのか、どうすればいいのか相変わらず分からないままだが、しかし分からないなりにも行動範囲を広げていけば新たな発見なり進展があるかもしれない。
(実際ボスキャラも出たわけだしな)
あのキマイラは、この状況に置いてようやく現れた大きな変化だといえるだろう。
あれを倒すことでなにか進展があるかもしれない。
無論、キマイラの隙をついて車だけ取り戻す、という選択肢がないわけでもないが……
(あの野郎はぶっ倒す!!)
敏樹はやる気になっていた。
はっきり言って勝ち目は薄い。
実力差は絶望的で、先程死ぬ寸前までは二度と会いたくないと思っていた。
しかし、いざ死んでみると、装備一式は駄目になったものの、結果としてはポイント半減という、いつもと同じものだった。
そう、負けてしまえば相手がゴブリンだろうとキマイラだろうと結果はあまり変わらないのだ。
そう思うと、なんとなくやれそうな気がしてくるのだった。
それに、いくら後回しにしたところで敏樹の身体能力が劇的に上がるわけでもなければ魔法やスキルを覚えるわけでもない。
どうせ倒すとなると知恵を絞って倒すしかないのだ。
もちろんポイントを貯めて何か革新的な攻撃手段を得られる可能性がないわけではないが、どうせ死んでもポイントが半減するだけなので、今やれることはやってみるべきだろう。
それでどうしてもダメなら後回しにすればいい。
その日はとりあえず休養とした。
そして翌日、予備の装備一式を身に着け、除草剤入りの噴霧器を持って外へ出た。
こんな事もあろうかと、マンドラゴラの場所をチェックし、枯らさずにキープしておいたのだ。
いつもの装備に除草剤を担いでいる状態で少し動きづらかったが、慎重に行動すれば問題なく進行できた。
ゴブリンやオークはこちらが逃げれば追いつけないので、コボルトだけ誘い出して先に倒しておく。
そうやって魔物たちの隙を突きつつ、十株のマンドラゴラに除草剤をかけた。
少し頑張って神社が見えるところまで行ったところ、キマイラは境内戻っているようで、姿が見えなかった。
(ありゃ? 車取り戻せんじゃね?)
そう思って近づいていくと、敷地まであと十メートルぐらいの所でキマイラが駆け下りてきた。
「うほほーい!!」
妙にハイテンションになり、意味不明な叫び声を上げつつとりあえず全力で逃げる。
背中に若干熱を感じたのでブレスを吐かれたのだろうが、なんとか逃げ延びることが出来たようだ。
五十メートルほど走って振り返ると、キマイラは恨めしそうにこっちを見ていた。
どうやら敵認定されたらしく、敷地に入る少し前の段階で感知されるらしい。
やはり車を取り戻すにはキマイラを倒すしかないようだ。
マンドラゴラが枯れてポイントが入るまでは作戦タイムだ。
一応日に一~二時間ほどは狩りを行い、近所のゴブリンやコボルトを倒しつつ、多少なりともポイントは稼いでおく。
ただし、危険なのでオークは相手にしない。
(あのブレスが厄介だなぁ……)
近接戦闘のみならなんとかかいくぐって車にたどり着けるかもしれない。
何度か死ぬだろうが。
しかしあのブレスはどうにもならなそうだ。
(あのブレスを逆手に取るか? そうなると必要になるのは……)
ネットの海を巡回し、有効な手段を考えていく。
数日間、調べに調べ、考えに考え抜いてなんとか使えそうな戦術が練り上がった。
そしてTundraを見ながら、使えそうなものをカートに入れていく。
(おおう、10万以上行くのか……。マンドラゴラ残しといて正解だったな)
マンドラゴラのポイントが入った後、早速注文を確定。
届くまでの間に出来ることをしておく。
ガレージの物置から、以前リフォーム用に買って使い切らなかった石膏ボードとベニヤ板を出してくる。
どちらも910×1820ミリという一般的な大きさのもので、石膏ボードは厚さが9ミリ、ベニヤ板は12ミリのものだ。
それぞれ五枚ずつある。
一枚のベニヤ板を二枚の石膏ボードで挟み、簡易の防火壁を作成。
(これがホントの
両面から短めのビスを適当に打って、バラけないようにしておいた。
出来ればベニヤ板は使いたくないが、石膏ボードはいくら重ねた所で脆いので、別の素材で補強することは必須なのだ。
これで炎を防げるとは思わないが、この影に隠れれば輻射熱はある程度防げるはずだ。
翌日、届いた荷物を確認する。
まず移動用に三輪自転車を購入した。
神社まで約六百メートル。
徒歩八分の距離だが、フル装備で歩くには少々しんどい。
さらに今回の作戦では結構な機材を運ぶことになるので、代替の移動手段は欲しいと思い用意した。
大下家には一応折りたたみ自転車があるのだが、荷運びには適していないし、今回の作戦には二台の自転車が必要になる予定だ。
次に耐熱シート。
難燃性のシートを昨日作った防火壁に巻きつけ、さらに耐熱性を高める。
他にも色々使えそうなので、複数種類の大きさのシートを数枚購入している。
タンク式高圧洗浄機と延長ホース。
これが今回の作戦の鍵になる。
これはタンク内に水をため、バッテリー駆動で散水するタイプのものだ。
普通の高圧洗浄機の半分ぐらいの水圧しか出ないが、今回は洗浄が目的ではなく散布が目的なので問題ない。
重要なのはできるだけ遠くへ、広く散布することなのだ。
キャンプ用の液体燃料。
絶対やっちゃいけないことだけど、高圧洗浄機でこいつをばらまく。
そんなことをすれば高圧洗浄機はすぐ壊れるだろうが、そこは気にしないことにしておく。
とりあえず18リットル缶を二つ買っておいた。
瓶入り天然水330ミリリットル×24
必要なのは瓶だけ。
水は母が使ってるスーパーでの水汲み用ボトルがいくつかあるので、その中に移し、おいおい飲んでいけばいいだろう。
そう、今さらながら火炎瓶を作るのだ。
と言ってもこれはあくまで点火用だが。
あとは耐熱のヘルメット、マスク、グローブ、ゴーグル、そして靴。
耐熱服は高かったので見合わせた。
防刃パーカーに耐火性があるので、あとは腰に耐熱シートを巻いておけば下半身も問題ないだろう。
他にも色々購入したが、取り急ぎ必要なのはこれぐらいだろうか。
この装備でキマイラを倒す……わけではない。
(正直言って、キマイラを倒すには足りないんだよな、文字通り火力が)
なので、次はガソリンスタンドを目指す。
もちろん、ガソリン用携行缶(20リットル)も購入済みだ。
この日は水の瓶を空け、火炎瓶の口に詰める布を準備したあと、近所の田畑地帯を巡回し、コボルトとゴブリンだけを倒した。
車無しでオークと戦うのは危険だろう、ということで、上手く避けながら。
いつもの田畑地帯をまっすぐ進み、突き当りを右に曲がると神社が見えてくる。
厳密に言えば、右に曲がった道を百メートルほど進んで左に曲がると、さらに百メートル程先に神社があるのだ。
そして田畑地帯を抜けた突き当りを左に曲がると池のほとりの道に出て、少し進めば国道裏の県道に行き当たる。
ここを北西に進んでガソリンスタンドを目指す。
ガソリンスタンドへ行くためには最終的に国道へ出なくてはならないが、あの魔物の群れがいる国道は安全地帯を有効活用しつつ効率的に進む必要があるだろう。
念のため池のほとりの道を下見しておく。
もしかすると水棲の魔物が出るのではないか、との恐れがあり、池の近くは避けていたのだが、少なくとも道路を歩いている分には、池の中から襲ってくる魔物はいないようだった。
しかし、道路上には新たな敵、リザードマンが現れた。
見るからに硬そうな皮膚を持った、二足歩行のトカゲの魔物だ。
遠目に見て不利と悟った敏樹は、一旦家に帰ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます