第18話『対キマイラ戦~侵攻~』
翌日、早朝に田畑地帯へと行き、コボルトだけを掃討して一旦家に戻る。
そして、耐熱系装備で全身を固めた敏樹は三輪自転車に
運転を重視するため盾は手首から先が自由になるフライパン盾を装備。
漂白剤入り水鉄砲を右手に持つ。
前のカゴには火炎瓶を十本。
後ろのカゴには液体燃料入りの高圧洗浄機と、満タンの液体燃料缶を積んである。
高圧洗浄機は倒れないようゴム紐でしっかりと固定し、万が一の引火を防ぐために石膏ボードの端切れを使って簡易なフタを作っておいた。
あと、小さめのバックパックに休憩時用のスポーツドリンクと、空の火炎瓶を五本入れて背負う。
「おーっし!! もういっちょおーっし!!」
気合を入れ、いざ出発。
田畑地帯にはコボルトがいないので、自転車を疾走させる。
近づくゴブリンやオークは水鉄砲で牽制しておく。
1分とかからず田畑地帯を抜けた敏樹は、池の
いよいよリザードマンとの初戦闘だ。
といっても、一方的な蹂躙になる予定なのだが。
敏樹は水鉄砲を肩にかけて手放し、高圧洗浄機のスイッチを入れてノズルを持った。
自転車に跨ったまま、ゆっくりと近づいていく。
三輪自転車を選ぶ利用として、敏樹は積載量のみを重視していたが、こうやって歩くよりゆっくりと進んでも左手でハンドルさえ持っておけば転ぶことはない、というのは想定外のメリットだった。
リザードマンの方も俊樹に気づいたようだが、少し警戒しながら距離を詰めてくる。
そして彼我の距離が十メートルを切ったあたりで、敏樹は高圧洗浄機のトリガーを引いた。
液体燃料が勢い良く噴射され、リザードマンが燃料まみれになる。
水ではない正体不明を液体をかけられたリザードマンは混乱し、その後徐々に動きが遅くなっていった。
(お、気化熱か?)
変温動物であるトカゲをベースにしているリザードマンは、寒さに弱いのかもしれない。
揮発性の高い液体燃料は、気化するごとに表面の温度を奪っていく。
体表にくまなく液体燃料を浴びたリザードマンは、おそらくものすごい勢いで体温を奪われているのだろう。
一旦散布をやめてノズルを自転車のハンドルに引っ掛けた敏樹は、カゴから火炎瓶を取り、ポケットに入れていたライターオイルを瓶の口に詰めた布にかける。
布は一度液体燃料に浸しているが、空気に触れている部分は燃料が気化しているだろう。
そして充分にオイルを吸った布に、着火ライターで火をつけた。
(慎重に……)
投擲が苦手な敏樹にとって、十メートル程度の距離を投げるには、下手投げが最適だろうと思われる。
水入りのペットボトルで事前に練習しておいた。
昨日は自転車に跨ったままで投げる練習を繰り返し、ある程度の精度で目標近くに落とすことは出来るようになっている。
火のついた瓶を手に、落ち着いてすくい上げるように放り出す。
敏樹の手から離れた火炎瓶は、ゆっくりと放物線を描き、見事リザードマンの足元に落ちた。
「いよっし!!」
ガシャン!! という音と共に瓶が割れ、火種の火が割れた瓶から漏れ出た燃料に引火した。
そしてリザードマンの足元に広がった液体燃料を伝い、瞬時に全身を炎が包み込んだ。
「キシャアアアア!!」
炎に包まれ、のたうち回るリザードマン。
これが通常の生物であれば、火傷より前に周辺の酸素が燃え尽きることで起こる酸欠で意識を失い、そのまま窒息死するはずだが、さて、魔物というのは呼吸に酸素を要するのだろうか。
ひとしきり暴れまわったリザードマンは、思ったより早く倒れ伏し、動きを止めたかと思うと消滅した。
死因が窒息なのか、火傷によるものなのかはわからなかったが、倒せれば問題ないだろう。
(そっか、死ねば消えるのか)
地面に燃え広がった炎も、程なく消えた。
(あ、もしかしてアスファルトが熱くなってんじゃ?)
もし燃え広がった液体燃料によって地面が熱せられていたら、自転車のタイヤが溶けてしまうおそれがある。
そうなると、アスファルトが冷えるのを待つ必要があるのだが……。
「あれ?」
燃えていた辺りの手前まで進み、自転車を降りて道路を触ったが、アスファルトは全く熱を持っていなかった。
(そっか、干渉できないのか!!)
除草剤や漂白剤が土壌を汚染しないように、たとえ道路の表面で液体燃料が燃えようが、あくまで燃えるのは燃料だけ。
その下の地面には一切影響はないようだった。
これなら、火が消えさえすれば問題ない。
その後池沿いの県道を進み、数体のリザードマンと遭遇したが、同じように焼き殺していった。
そして国道沿いにある葬祭場の、ちょうど裏手に到達する。
この葬祭場は国道と県道をまたがるような敷地を持っており、その敷地内が安全地帯であることは確認している。
(火炎瓶は空き瓶の分を除いて残り七本、タンクの液体燃料は半分ぐらいか)
とりあえず液体燃料の缶からタンクへ燃料を補充しておく。
500ミリリットル入りスポーツドリンクを半分を飲んで一息つき、敷地内を国道側へ向かう。
(さて、ここからが本番だ)
ここからガソリンスタンドまで三五〇メートル。
国道上には魔物がうようよいるはずだ。
国道側の境界に立ち、顔出す。
国道には以前見たように、かなりの数の魔物がいた。
しかし、あのときはかなりパニクっていたようで、実際より多くいるように見えた、というか、かなり遠くにいる魔物まで近くにいるように見えていた、というべきか。
よくみれば十メートルあたりに二~三体程度ずつ配置されているようだ。
とはいえ、広い範囲で見ればかなりの数になるが。
単純計算で百体程度になる。
それらを殲滅し、一時的に国道を制圧する必要があった。
幸い顔を出したすぐ近くに魔物はおらず、一番近いもので五メートル程度は離れているだろうか。
ゴブリン、コボルト、オーク、リザードマン、他にもスケルトンや人型ネズミのウェアラット、狼や熊のような魔物、小型の竜のようなものもいる。
ただ幸いなことに飛行系の魔物はいないようだった。
まずは手近にいる数体の魔物に燃料をかけ、手早く火炎瓶を投げる。
そして魔物に火が燃え移ったのを確認し、安全地帯に逃げ込んだ。
(果報は寝て待て、ってね)
文字通り寝て待つ訳にはいかないが、敏樹は自転車のサドルに腰掛け、スマートフォンをいじって時間を潰す。
焦りは禁物だ。
五分程度で連続してポイントが増加し、国道の敵が焼け死んだことがわかった。
高圧洗浄機のホースが延長分と合わせて十五メートル。
そこからの射程距離が十メートル足らず。
つまり、葬祭場の敷地の境界線から二十五メートル範囲の魔物は掃討出来ることになる。
むろん、バッテリータイプのものなので敷地外に持ち出すことも可能だし、敏樹本人が安全地帯から出ていればたとえ、敷地内に高圧洗浄機本体があったとしても危害を加えられるのだが、一応安全マージンの基準として敷地外には出さないようにしている。
進行方向はもちろんだが、念のため逆方向の魔物も届く範囲で掃討しておく。
作業としては、魔物に燃料をかける→その近くに火炎瓶を投げて火をつける→魔物が死ぬまで待つ。
この繰り返しだ。
ちょっとでも危険を感じたら、一旦安全地帯に戻ることにし、慎重に国道を制圧していく。
葬祭場の近くには魔物がいなくなったのを確認し、国道を渡った斜向いのカーディーラーへ入る。
この時点で火炎瓶は空き瓶だったものも含め、残り二本。
液体燃料燃料の減りも意外と早く、追加で持ってきた缶が半分程度になっている。
さらに、高圧洗浄機のバッテリーも残りわずかだ。
(まさか10分しか
それに関しては商品ページにちゃんと書いていたので、それを見逃した敏樹のミスだろう。
とはいえ、実際液体燃料を散布する時間はそれほど長くない。
経過時間の大半は、魔物に火をつけてからの待ち時間だ。
すでに二十体程度の魔物を倒して五万ポイントほど稼いでいる。
この調子で行けばポイントが底をつくこともあるまいと思い、予備バッテリーを三つと液体燃料の18リットル缶を二つに瓶入り天然水、計五万ポイント程度の品物をTundraで注文した。
その後、バッテリーが尽きるまで魔物の掃討を進め、なんとか100メートルほど進んだところにある成人向け書店まで進むことが出来た。
このまま一旦帰って通常装備に切り替え、安全地帯を背にちまちまと魔物を倒していくという選択肢もないではないが、初めての戦術で心身ともに疲れが出たので、まだ昼過ぎだがこの日は帰って休むことにした。
翌日、早朝に起き、まずは田畑地帯のコボルトを通常装備で掃討する。
昨日倒した個体はまだ復活しないが、それ以前に倒したものが数体復活しているのだ。
コボルトを片付けた敏樹は、昨日と同じ焼き討ちスタイルに着替えて自転車で疾走する。
昨日全滅させたリザードマンはまだ復活していないので、池の畔も気にせず疾走し、葬祭場の敷地を経由して国道へ出る。
一旦葬祭場で自転車を降り、顔だけだして国道の様子を見る。
そして成人向け書店辺りまでは魔物がいないことを確認できたので、そのまま自転車で成人向け書店の敷地へ。
そこを拠点に、昨日と同じ要領でじわじわと国道を制圧していく。
幸い、この近辺にはこの焼き討ち作戦で倒せない魔物はいないらしい。
二時間ほどかけて100メートルほど進み、業務マートの敷地に入ることが出来た。
その時点で高圧洗浄機のバッテリーが切れる。
ここで一旦来た道を通って自宅へと戻る。
軽くシャワーを浴び、昼にはまだ早いが食事を取った。
そうこうしている内にTundraから荷物が届く。
バッテリーを交換し、高圧洗浄機へ液体燃料を補充し、火炎瓶を新たに作成。
予備バッテリーを持ち、再び業務マートへ。
あとはそのまま同じ要領で国道を制圧し、昼を少し回った頃にはガソリンスタンドまでの道がひらけた。
再び帰宅し、今度は20リットルのガソリン携行缶と、元々家にあった18リットルの灯油用ポリタンクを前後のカゴに乗せ、ガソリンスタンドへ向けて三輪自転車を走らせる。
魔物のいない国道を通って、無事ガソリンスタンドへ到着。
灯油の方は問題なく給油できた。
(さて、問題はガソリンの給油だ)
セルフのガソリンスタンドでの給油は、車にのみ可能と法律で定められている。
携行缶等、車以外への給油は資格を持った従業員が行わなければならない。
これに関して、敏樹はネットで調べてみたのだが、店員に頼めばオーケーな場合と、頼んでも断られる場合があるらしい。
法律的にどちらが正しいのか不明だが、ここはもう頼んでみるしかあるまい。
「すいませーん、携行缶に給油お願いします!! ハイオク満タンで!!」
呼びかけてしばらくすると、ポイントは減ったが、しばらく待ってもノズルが動いたり、携行缶の蓋が開いたりはしなかった。
(お?)
しかし、携行缶を持ち上げてみると、ずっしりと重みを感じることが出来た。
どうやらすでに給油が終わっていたらしい。
携行缶の蓋を開けてみると、ガソリン特有の匂いが敏樹の鼻をついた。
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