第23話 epilogue 陽だまりに包まれて
あれからもうすぐ10年が経つ...。
長いようで短い年月で、毎日を忙しなく過ごしている。
朝6時にセットしたアラームの音で目を覚まし、朝食の準備をする。そして2人の子どもたちを起こす...。
その名のごとく二人は成長している。優月は優しく、怒ったりもせず穏やかな男の子で、陽奏は天真爛漫なおてんば娘。優月は陽奏に振り回させる日々だ。
そんな二人があたしのお腹にやって来てくれたのは、壮絶な1ヶ月が起きる少し前だったみたいで、よく流産もせずに細胞が2つに分かれてくれたなぁと思う。
あたしが二人に気づいたのは、浩之が退院する少し前だった。
浩之は目を覚ましてから、身体機能の後遺症は見られず目を覚ましてから2ヶ月で退院した。あたしはその頃、毎日病院へ通いリハビリに励む彼に会いに行っていた。ある日、あたしの異変に気づいたのは浩之のお母さんだった。
風邪の症状はないのに微熱が続き、身体がだるいとは思っていた。眠たくてうとうとすることも多く、極め付けは嘔気だった。彼のご飯の時間が耐えられなかった。自分のご飯も食べられず、お母さんからランチを誘われても理由をつけて行かなかった。数日そんなことが続き、あたしを心配してなのか、彼の主治医にあたしの話をした。
そんな事を知らないあたしは、その日も彼の回診の時間に付き合っていた。
浩之の診察が終わると先生は、あたしに体温計を渡した。そして見たことのない女医さんを呼んだ。
「湊ちゃん。浩之くんとの赤ちゃんできたんじゃない?」彼の主治医の先生はあたしと浩之の前でそう告げた。それも浩之にもわかりやすい言葉を選んだ。
失語症の彼は理解するのに時間がかかったり、単語がわからなくなるので難しい言葉を続けて話すことはできない。なので先生は子供と接するときのように彼に話しかける。
驚いて言葉を失うあたしに、浩之が先に言葉を発した。
「赤ちゃん?」すると先生は優しく「そうだよ。浩之くんと湊ちゃんの子どもだよ。」
女医さんと看護師さんが病室に入って来た時、看護師さんはエコーを持って来ていた。
「浩之くん。湊ちゃんとベット変わってくれる?」と先生が言うと、ベットから起き上がった。言われた通り、あたしはベットに横たわった。
女医さんがお腹にエコーをあて始め、おめでとうございます、妊娠2ヶ月ですね。とあたしに微笑んだ。
そして言葉を続け、双子ですよ。っとモニターを指差した。
「浩之くん、赤ちゃん2人だって!おめでとう。」と言うと彼はあたしのお腹をさすって呟いた。
「湊と俺の子ども...。」そう言うと彼は涙を流した。
「俺がパパでいいの?」とあたしのお腹に向かって言った。その一言にみんな口を紡いだ。そんな中、彼のお母さんが口を開いた。
「浩之、知ってる?赤ちゃんはパパとママを選んでくるの。あなたと湊ちゃんがいいの。」
「俺がパパでいいの?」と次はあたしに聞く。
「パパは浩之だけだよ。優しくて、強くて、たくましい、かっこいい。だから選ばれたんだよ。あたしは、浩之と育てたい。」
ゆっくり、彼にも分かるように伝えたつもりだ。すると彼はあたしを抱きしめ泣いた。
あの日から、彼との新しい関係が始まった。
そして現在、浩之のために起きたらすぐにいろんなことが分かるようにと家中がメモの紙で埋め尽くされている。子ども達の名前、一日のスケジュール、家具や家電の使い方...
子どもたちを起こした後、あたしは彼を起こしに行く。
「ヒロ朝だよ?」そう言って身体を揺らすと目を覚ます彼。
「おはよう。優月と陽奏が待ってるよ?」っと言うと
「おはよう」と返してくれる彼は、優月と陽奏のことは覚えていない。
そう、リセットされている。
「ゆずき?ひなた?」っと聞き返すのも毎日の日課。
「あたしたちの宝物、優月は男の子で陽奏は女の子。9歳だよ。」
そっか...っと呟き身体を起こす彼に、あたし達家族のアルバムを手渡す。
あたし達が夫婦になった日の写真、出産時の写真、子どもたちの誕生日の家族写真をまとめた写真にメモをつけて直ぐにわかるようにメモも書いているアルバム。
それを見た彼は、リビングにやってくる。
そこで、やっと朝ご飯。みんなで一緒に食べる。これも日課。
「ママ、学校終わったらパパと一緒に迎えに来て」っと急に陽奏が言い出した。
「えっ?なんで?ゆずと一緒に帰ってきなよ。」っと答えると、
「いやだ。ママとパパに来て欲しいの。」っと譲らない陽奏。
「ぼく、ひなと「ゆず!だめだよ」ごめん...。」
優月が何か言い出しそうになったところを、大きな声で止める陽奏に驚いたあたしと浩之。
「ひなた?ケンカはだめ。
Rainy 中原 みなみ @nkgw373
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