第17話 北風と太陽
今年もまたやって来た大晦日。今年で3回目。私たちにとって恒例行事となったあの場所に行く日。きっといつまでも続いて行くんだと信じて疑わなくなった。今日はなぜか、浩之は用事があると言って11時に現地集合でと言い残し、お昼過ぎに出て行った。
どこで何をするのかは全く言わなかった。私もそこまで気にすることもなかった。
そして11時、私はあの場所に着いた。すでに浩之も着いていた。
「ごめんね?待った?」
「いや、全然。」
ん?私の顔を見ようとしない。様子がおかしい。確かにそんなに話すような人でもない。それでも今日の朝から変だった。何を言っても、聞いても気のない返事しかしなかった。
「何かあった?」
「いや...。」
絶対何かあるでしょ!?っと普段なら言うんだろうけど、私も何も言えなかった。
何を話せばいいのかわからず、30分ほど無言が続く。
もしかして、私、とうとう愛想つかされた?もしかして他に誰かいる?だからお昼ごろ出て行ったんだ。もしそうなら、受け入れるしかないのかな?そんなことしか考えられなくなってくる。
この沈黙に耐えられなくなって来た。
帰ろうか?そう声をかけた。
え?っと驚く浩之は捨てられた子犬のような顔をしている。
「今日、変だよ?朝から様子おかしいし、なんならあたし実家に帰るよ?」
「ちょっと待って!違うんだよ。俺、湊に今日言わなきゃいけないことがあって...。」
「そっか。でも言わないで。わかってる。正直まだ浩之の幸せ願えないけど、あたしが出てくから...。」
「は?何言ってんの?」
「え?そっちこそ!!別れたいんでしょ?」
「違うって。でも、そんなふうに思わせてたんだな。ごめん。俺がこんなんだから。」
「じゃあ何?」
「初めてここで湊と会って、俺は正直一目惚れした。道に迷ってぐるぐる回る湊がおかしくて、ずっと見てた。初めて自分から女の子に声をかけた。ありがとうと笑う笑顔に心臓を鷲掴みされたような気分だった。教室に行ったら隣に座ってた時は運命だって思った。タケに言ったらあいつ笑いながら初恋だなって言ったんだ。それまで知らなかった感情が芽生えたんだ。それが恋だった。それまでは、確かに告白だってされてたけど、女の子に対してなんの感情も持たなかった。
何人も傷つけたと思う。湊に出会って、仲良くなって、その感情がどんどん大きくなった。告白しようと思ったけど、振られるのが怖くなった。それまでは自分が振った子たちが泣いていたのを見ても何も思わなかったのに、その時にわかったんだ。どれだけ傷ついていたかが。傷つくのが怖かった俺は、湊の一番近くにいれるだけでいいって思ったけど、独占欲だけはセーブできなかった。笑うだろ?思いも伝えられない俺が、独占欲だけ撒き散らすなんて。お前に近づく男を片っ端から影で遠ざけてた。卒業する時も言えなかった。これで終わりかもしれないと思ってた時に湊が言ってくれたね。好きだったって。すっごい嬉しくて、一人で舞い上がった。付き合ってからは別れるなんて考えたこともなかった。湊は、大好きな俺の彼女。そう思うと幸せすぎて、四六時中離したくなかった。でも、湊には夢を叶えて欲しかった。就職する時、俺に言えなかったのは俺が邪魔してるって勝手に思って一方的に別れを告げた。背中を押したつもりだった。ずっと連絡してくる湊の電話を取れば、行くなと言ってしまうから言えなかった。
もし、俺が大学を卒業して、湊が受け入れてくれるならもう一度告白しようって思ってたら、事故にあった。湊の記憶がなくなったのに、ずっとそばにいてくれた。記憶が戻ってから、あの時手を離してしまったことに何度も後悔した。無駄に傷つけただけだって思ったから。それで決めたんだ。湊を傷つけた以上に幸せにするんだって。泣かせた以上に笑顔にするんだって。俺の初恋は愛に変わったんだよ。それは全て湊のおかげだよ。湊が愛を教えてくれた。優しさをくれた。幸せをくれた。一生一緒にいたいって思った。だからこれだけは俺が言わないといけないって思った...。」
言葉に詰まる浩之は、顔だけではなく耳まで真っ赤にして俯いた。
そして、何かを決意したように私の目をまっすぐに見た。
「俺は湊の全てが欲しい。湊には俺の全てを捧げる。俺と結婚してください。」
「はい。あたしの全てをもらってください。あたしは浩之の全てをもらいます。」
「本当に?」
「本当だよ。」
そして浩之は、右の膝を地面につけて、私の左手を取った。
「一緒に幸せな家族を作ろう。俺の命を懸けてでも守り抜くよ。」
そう言って私の左手の薬指に指輪をはめてくれた。
その指輪は、浩之の心のように暖かく、キラキラと光っていた。
そのまま一緒に家に帰った。いつもと何も変わらない事なのに、ドキドキして、緊張した。私はこの人と夫婦になるんだって思うだけで恥ずかしく、むずかゆくなる。何を話せばいいのか、どう接したらいいのか、まるで初めてデートをした時のように分からなくなった。
家についてもこの気持ちは変わらなかった。特に何かが変わるわけでもないのに少しよそよそしくなる。
そしてこの今にも舞い上がりそうな気持ちは抑えられなかった。
そして里紗に報告も兼ねてメールをした。
するとすぐにフェイスタイムが鳴った。
「メール見たよ!おめでとう。やっとだね。本当に良かった。」
興奮した里紗は私が話す前に話し出した。
「ってあんた一人?ヒロは?」
「今テレビ見てるけど?」
「はぁ?普通一緒に出るでしょうよ...。」
「浩之ちょっと嫌そうなんだけど。」
そういうと里紗は少し怒っている。確かにフェイスタイムが鳴った時、うわぁーと言ってダイニングテーブルからソファーに逃げた。私はそのままケータイを持って浩之の隣に座った。
「里紗、怒ってるよ。」
そう言って強引にケータイを手渡した。
「ヒロ!!何が嫌なわけ?せっかくおめでとうって言おうと思ったのに。」
「だって菅野うるさいんだもん。」
「はぁ?!湊!!やっぱりやめときな。」
私は浩之にもたれかかり、肩に頭を乗せて言った。
「やめないよ?あたし、今世界一幸せだもん。」
「って事で、湊は俺がもらいますんで、菅野は口出さなでくださーい。」
そう笑っていう浩之は少し悪い顔をしていた。
「何それー!!ちょっと腹たつんですけど...。でも本当、昔からヒロは何にも変わってないねぇ。湊にしか優しくない。」
「そんな事ないよ。ねぇ?」
「そんな事あるんだよ。湊は何もわかってないよ。ヒロはねぇ、湊に好かれるためのアピールだよ。私や他の子にはドSなんだから。学校中みんな知ってるよ?後輩達からなんて影でドS王子って言われてたんだから...。」
「菅野!!それは言うなよ...。今まで隠してたんだから!!」
「私をあしらった罰よ。ってかいつまでも猫かぶってんじゃないよ。夫婦になるんでしょうが。本当にもう。いつまでも手のかかる事で。」
知らなかった。私は誰にでも優しい浩之しか知らない。その優しさにヤキモチ焼いたことは数知れない。驚きのあまり、豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔で二人のやりとりを聞いていた。
「湊?大丈夫?全然動かなくなったけど?」
「ちょっと待って...。私今までずっと知らなかった。ただの王子じゃなかったの?!」
「私とタケが湊に知られないようにどれだけ尽力したことか。あんたたち本当に私たちに感謝しなさいよ。このお嬢とドS王子!!」
「えぇ?お嬢って何?!聞いたことないんだけど?!」
「あんたの影のあだ名よ。誰にでも優しい天真爛漫な箱入り娘のあんたは現実にいなさそうだからついたあだ名がお嬢様。そのお嬢様を守るのがそこのドS王子。どこのドラマだよ...。すぐに傷つく湊に知られないように守ってたのは私とタケなのに。まるで私たちは召使いよ。」
「なんかすごい嫌なんだけど。できたら知りたくなかった。」
「そうでしょうね。まぁ、ヒロはお嬢様を守る騎士にでもなりたかったんでしょうけど?」
「違うわ!!菅野、もう切るぞ。」
「ちょっと待て!最後に!!ヒロ、湊のこと泣かすんじゃないよ。もしなんかあったらすぐに殴りに行ってやる。いいね?」
「わかってるよ。菅野に言われなくてもわかってる。湊のことは俺に任せて。お嬢様は俺が一生守りますよ?」
「湊も、何かあったらすぐに言うんだよ?私は湊の味方だからね。」
「うん。ありがとう。」
「じゃあ、絶対幸せになるんだよ!あんたたちなら大丈夫。結婚式楽しみにしてるからねー!!」
そう言い残した里紗はフェイスタイムを切った。
「なんか菅野って嵐みたいなやつだな。」
「そうだね...。私何も知らなかったんだね。」
「この際だから言うけど、俺は知ってたよ。すごい大変だった。常にアンテナ張って湊のこと少しでも気になってるやつ潰しにかかってたし、タケも菅野も手伝ってくれた。そうしてたらいつの間にかそんなあだ名がついてたんだよなぁ...。」
「何それー!!今更だけどすごい恥ずかしいじゃん。」
「いいの。その結果が今なんだから。ほら、明日はみんなに報告しに行くんだから早く寝るよ。」
「うん...。」
私にとっては確かにずっと王子様だった。みんなに優しくて、カッコよくて、爽やかで、なんでも出来た浩之は、私には勿体無いくらいの人だった。
浩之にとって私は、もしかしたら浩之という箱に入ったお嬢様だったのかなぁ?
そうだとしたら、私は出るつもりは全くなかった。
そんなこと思ってたらなかなか寝付けなかった。
翌日、あまり眠れなかった私は朝早くに目が覚めた。
浩之は隣で幸せそうに寝ている。私は彼の頬をツンツンと突いてみたけれど、全く目を覚まさない。少し楽しくなってきた私は、頬にキスをした。すると、少し唸って反対側を向いてしまった。それはそれで少し腹が立つ。もう一度頬にキスをした。すると、再びこっちを向いた浩之は、目をつむったまま言った。
「起こす時はちゃんとここにしてくださいね。お嬢様?」
そして、私の頭の後ろに伸ばし、引き寄せてキスをした。
「起きてたの?!」
「さっき起きた。」
それから何度もキスをしてくる浩之。少しだけドS王子と言われてた理由がわかった気がした。
だんだんエスカレートする浩之に、私はストップをかけた。
少し不機嫌そうになんで?という彼に、今日はお兄ちゃん来てるんだって。と告げると、少し残念そうに言った。
「マジで...。なんで?聞いてないんだけど。」
「早く行かないとまた怒られるよ?」
「しょうがないなぁ。翔太さんには勝てないよなぁ。じゃあ帰って来てからしよ?」
「はいはい。帰ってこれたらね?」
私はベッドから出て、クローゼットに向かった。後ろでは浩之が絶対すぐ帰るからな!もう行きたくねぇ...。とベットの中でうつ伏せになり出てこようとしない。
「早くしないと今日はもう何もしないからね。」
そういい残して私は寝室を出た。
それから浩之は驚くほど早く準備をして、一緒に私の実家に向かった。
家に着くと、急に浩之が緊張し始めた。
「俺、大丈夫かな?怒られないよな?嫌われないよね?」
「今更何言ってんの?誰に怒られるの?嫌われるの?」
「お父さんやお母さん。ってか翔太さん。」
「お兄ちゃんでしょ?大丈夫。あたし必殺技持ってるから!!」
私は玄関の扉を開けて、浩之を押し込んだ。
「さあ、早く行きましょう?あたしの王子様。」
リビングに向かうと両親とお兄ちゃんがいた。
「明けましておめでとうございます。お父さん、お母さん、お兄さん。」
「おめでとう。どうしちゃったの?浩之くんよそよそしくなって?こっちきて座ったら?」
「いえ。あの、来て早々なんですけど、湊さんのお父さん、お母さん、お兄さん。僕に、湊さんをください。」
私の隣で、フローリングに正座をして頭をさげる浩之を驚いた様子で見ている3人と私。早速すぎて頭が追いつかないが、自然と体が動いて彼の隣で一緒に正座をして頭を下げた。
誰も何も言わない。私は思わず頭を上げた。お母さんとお兄ちゃんは二人してお父さんを見る。当のお父さんは、目を見開いて固まっていた。
その間も、浩之はずっと頭を下げたままだ。よく見ると少し手が震えていた。
「お父さん、何か言ってあげたら?」
固まったお父さんに、お母さんが肩を揺らした。
「浩之くん、頭を上げて。」
お母さんの一言で、ハッとしたお父さんが言った。そして、顔を上げた浩之に向かって続けて言う。
「浩之くん。こんなこと親が言うのはおかしいと思うかもしれないけれど、この子は昔から、穏やかで、優しくて、人の気持ちも分かり、面倒見もいい。学校の先生からはそう言われてた。でも、家ではわがままで、頑固で、怒られたらすぐ泣いて翔太に抱きついて逃げる。甘えん坊で、天然で、ドジは踏むし、おっちょこちょいで早とちり。でも、私たち家族にとってはいつも太陽のように暖かく、みんなを笑顔にさせてくれたのはこの子なんだよ。親バカだと笑われるかもしれないが、私と妻にとっては目に入れても痛くないほど可愛くて、大切な娘なんだ。」
そして私の方を見たお父さんと目があった。普段何も言わないお父さんの気持ちを初めて聞いたかもしれない。いつまでも泣き虫な私は今にも泣きそうだ。
「僕と湊が初めて出会った時、湊は学校の中庭で迷子になっていました。天然でおっちょこちょいなところを見て、僕は一目惚れをしたんです。それから、雨が降っている時、僕の目の前で2回も連続で滑ってこけたんです。1回目に助けようと手を伸ばしたら、頑固な湊は僕の手を取らずに走り出して、3歩目でまたこけました。もう一度手を伸ばしても手を取ろうとしない湊は本当にわがままを言う駄々っ子みたいでした。でも、そんなドジ踏む湊が愛おしいと思うようになりました。それからたくさんの時間を過ごして、その気持ち膨らんでいくばかりです。僕にとって湊は最初で最後、自分の命より大切にしたいと思えた人です。」
「そうか、浩之くん本当にありがとう。湊、結婚すると言うことはお前はもう新村ではなくなるんだ。お前は中村の家の人になる。その意味分かるだろ?嫁に行くとはそう言うことだ。何があっても浩之くんを支え、浩之くんのご両親のことも支えるんだ。覚悟は出来てるな?」
「はい。覚悟してます。」
そう言って私を見るお父さんの目は、私の心までを見抜かんとするほど鋭い。
でも、その瞳の中は送り出す娘にエールを送ってくれているようだった。
そして私の言葉を聞くと、急に立ち上がって、浩之の目の前に正座して頭を下げた。
「浩之くん。不束者で至らない娘ですが、どうぞ末長くよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。」
浩之も、お父さんに向かって頭を下げた。
黙って話を聞いていたお母さんは、お父さんの隣に座って浩之に頭を下げた。
「お父さん、お母さん。あたしのこと産んでくれてありがとう。おかげてこんなに素敵な人に出会えました。本当にありがとうございました。」
「湊、あなたはいつまでも私たちの娘よ。いつでも帰って来なさい。」
優しく抱きしめてくれるお母さんの温もりは、いつも私を安心させてくれる。
私もいつか母親になるかもしれない。私はお母さんのような母親になりたい。
浩之と二人ような夫婦になりたい。この時、強くそう思った。
「翔ちゃんも、ありがとね。いつも一緒にいてくれて。いつもあたしの味方になってくれて、いつもあたしのこと一番に考えてくれて、いつもあたしのこと守ってくれて。」
「何言ってんの。当たり前だろ?俺はお前のお兄ちゃんだ。いつまでもお前のお兄ちゃんだよ。寂しくなったらいつでも翔ちゃんのところにおいで。」
「お兄ちゃんこそ何言ってんの?早く彼女作って結婚しなよ。お父さんとお母さんのことよろしくね?」
「分かってるよ。俺なんか本気出したら彼女の一人や二人余裕だわ。まぁ、日本に帰ってくるまでは湊に任せるからな。浩之も、父さんと母さんのこと頼んだぞ。」
「翔太さんの留守は俺が預かります。」
「よし!じゃあ弟よ、今日は飲み明かそうか。」
「ダメだよ!!夜には、浩之の家族にも挨拶しに行くんだから。」
「なんだよー。浩之、これからお前も大変だな...。」
残念がるお兄ちゃんを無視して私は、お母さんが用意してくれていたおせちにありついた。
そして、みんなで話しながら飲んでいた。浩之は、お兄ちゃんに潰されないように気を使うそぶり見せて、お兄ちゃんにお酒を注ぎ続けた結果、お兄ちゃんだけが潰れてソファーで寝てしまった。起こしてもなかなか起きないので、お父さんが「翔太はもうほっといて、浩之くんの家に挨拶しに行って来なさい。」と行ってくれた。そして私たちは浩之の実家に向かった。
浩之の実家では、私が緊張する番だった。
いつも通りに、いつものように迎えてくれた浩之の家族。しかし、私はそわそわするばかり。
「どうしよ、反対されたら...。」
「なんで?どうした?反対されるわけないだろ?」
呆れたように私を見下げる浩之の余裕な笑みが、今の私には嫌な感じに思える。
「わかんないよ?」
「大丈夫だって。うちの親は湊が大好きだよ?分かってるでしょ?」
「えぇ...。もう帰りたい。ってかやっぱりやめる?」
私はもう何がなんだかわからないくらい緊張していた。やはり普段とは気持ちが違う。こそこそ小声で話していたが、私のやめる発言により浩之が大きな声で怒った。
「はぁ?何言ってんの?!やめねぇよ!!」
その声に驚いたのは私だけではない。お父さんもお兄さんも、義姉さんもその場にいた人みんな驚いた。
「浩之、落ち着きなさい。湊ちゃんがびっくりしてるじゃないか。」
お父さんが浩之を宥めようとする。
「湊、いいか?絶対大丈夫だから。お前は俺の隣にいればいいんだよ。」
私にそう言い切って、キッチンにいたお母さんを呼んだ。
「父さん、母さん。大事な話があるんだ。俺、湊と結婚しようと思ってる。今朝、湊のご両親にはちゃんと挨拶して来たし、承諾ももらった。父さんと母さんにも俺らの結婚を認めてください。お願いします。」
「そうか、やっとか。母さんの読みは当たったな。」
「そうね。毎年いい知らせを持って来てくれるから、今年は結婚するんじゃないかと思ってたのよ。」
二人は優しい笑顔で喜んでくれた。
「湊ちゃんは浩之でいいのかな?私たちは湊ちゃんが来てくれるなんてとても嬉しいことだけど、湊ちゃんの気持ちはどうかな?本当はまだ迷ってる?」
お父さんは私に問いかける。きっとさっきの事を気にしてるんだろう。
「迷ってません。私は浩之と生涯を共にしたいと思っています。」
「でもさっき...。」
「あれは私が悪いんです。緊張しすぎて、帰りたくなっちゃって...。」
「緊張なんてする事ないのよ?いつかうちに嫁に来て欲しいってずっと思ってた。浩之には湊ちゃんしかいないって思ってた。ここもあなたの家になるのよ?」
「ありがとうございます。私、不束者ですが、よろしくお願い致します。」
「私たちはずっと娘のように思っていたよ。こちらこそよろしく。浩之、分かってるな?これから家族を作るんだ。お前が大黒柱なんだ。頑張れよ。踏ん張れよ。」
「分かってる。俺の覚悟見ててよ。兄貴より幸せになるよ。」
「ヒロ、お前本当に負けず嫌いだな。俺よりって無理に決まってんだろ。言っとくけど、お前の想像以上に俺は幸せだぞ?」
そう言って浩之の肩を軽く殴った。
「って事で、色々決まったらまた連絡するから。じゃあ、今日は帰るから。」
「えぇ!!もう帰るの?何か予定でもあるわけ?」
驚くお母さんに浩之が続ける。
「あるんだよ。湊との約束が、なぁ?」
もしかして今朝のこと?それにしても早すぎやしませんか?
「いやいや。なんのこと?まだ来たばっかり...。」
「話はもう終わったんだから。早く帰って朝の続きを」
「朝の続き?何かしてたの?もっとゆっくりしていけばいいのに。」
お母さんもお父さんも訳がわからないだろう。
「そうだよ浩之。まだいいじゃん。」
「よくない。早く帰るぞ。母さんも父さんも早く見たいだろ?」
「何を?」
「何ってそりゃあ、俺らのこ「分かった。言わないで。帰るから...。」
「じゃあ俺ら帰るから。」
私が帰ると言った途端、満面の笑みを見せた浩之は、私の手を掴んで立ち上がった。
「何かわかんないけど、気をつけてね。仲良くするのよ?今度はゆっくりしていきなさい。」
「分かってる。仲良くって、帰ったらちゃんと仲良くするよ。なぁ?」
「バカ。そういう意味じゃない。お母さん、お父さん、すいません。今度はゆっくり来ます。」
そして私は浩之に強引に連れ去られた。
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