第13話 日が射すほうへ

 あの後、タケちゃんと里紗と別れた。浩之が、私を家まで送ってくれている。一歩一歩進むと同時に帰りたくないと思ってしまう。言葉もだんだん少なくなる。そして、私の住むマンションに着いた。

 「じゃあ、家に着いたら電話するから。」

浩之はそう言って手を離す。私はまだ一緒にいたくて、帰りたくなかった。でも、そんなこと言えない。

 「分かった。待ってる。気をつけてね。」

浩之は頷くと、一人来た道を戻っていく。私はその後ろ姿をずっと見ていたけれど、やっぱりまだ一緒にいたい。思った時には彼を追いかけていた。

振り返った浩之に私は思いっきり抱きついた。

 「湊?どうした?」

 「一緒にいたい。離れたくない。帰らないで...。」

 「俺も、湊と一緒にいたいよ。」

そしてそのまま、一緒に私の家まで帰った。

その日の夜は、シングルベットに二人抱き合って眠りについた。

 翌日は、お互いに実家に帰ることになっていた。でも、やっぱり離れたくなくて、一緒にいたくて、一度くっついた磁石がなかなか離れないように、私たちも離れそうにない。そして結局、お互いの実家に顔を出すことにした。

今日は私の実家に行く。学生の頃、浩之は何度かうちに来たことがあった。私の両親も浩之のことはよく知っていた。

 私の実家に着くと、とりあえず私だけ家に入った。

 「ただいま。お母さん、今日お客さん「みなとぉー!!おせぇよ。今何時だと思ってんだ?」

私が、お母さんに浩之を連れて来たことを報告しようとしたらリビングからキッチンに来た兄に話を切られた。

そう、私には10歳離れた兄の翔太がいる。私が中学生の頃に大手新聞社に就職し、家を出て行った。現在は海外勤務で世界各地を飛び回っている。もう最後にあったのは、まだ学生の頃だった。

 「お兄ちゃん、なんでいるの?!」

 「ここ兄ちゃんの実家。居たらだめなのかよ。ってかお前、正月早々なにこの時間。もう昼だぞ?普通、朝一で来るだろ...。」

 「しょうがないじゃん。久しぶりに帰って来てうるさいなぁ。」

 「翔太、もういいから。湊、お客さんってなに?」

 「あ!!今日、浩之連れて来たんだけど...。」

お母さんは驚きのあまり固まった。それもそうだ、経緯は知っているから。

 「お母さん。浩之、元に戻った!昨日、里紗とタケちゃんとあたしたちで一緒に高校忍び込んで、初めてあった場所に行ったら急に思い出して!!」

 「そう、それは良かった。本当に。それで浩之くんはどこにいるの?」

 「呼んで来てもいい?」

 「もちろん。」

 「なぁ、浩之って誰?」

お母さんはリビングにいるお父さんの元に走って行った。

訳のわかってないお兄ちゃんはほっておいて、私は浩之を呼びに行った。

 「お邪魔します。ご無沙汰してます。」

浩之とリビングに行ったら、両親は喜んでくれた。

 「浩之くん、元気そうで良かったよ。」

お父さんが浩之に笑いかけてくれた。浩之も、それで少し緊張がほぐれたように見えた。

 「事故にあったって聞いた時はどうなるかと思ったけど、本当に良かった。」

お母さんは少し涙ぐんでいた。

 「本当にご心配おかけしました。もう大丈夫です。」

和やかな空気が流れていた。ただ、今日は何も知らないお兄ちゃんがいた。

 「なぁ、俺なんも分からないんだけど。とりあえず君だれ?」

 「お兄ちゃん。ちょっと黙っててくれる?」

 「え?兄ちゃんだけ仲間ハズレにする?!湊はそんな子だったっけ?昔は可愛かったのに。」

 「お兄さん。湊さんとお付き合いさせていただいてます、中村浩之です。よろしくお願いします。」

 「浩之くん、湊とより戻してくれたの?!」

お母さんは驚きのあまり声が大きくなる。

 「湊が、よりを戻してくれました。あの時、湊を突き放したのは俺ですから。」

 「湊は、また君を困らせるかもしれないよ?浩之くんはそれでもいいのかい?」

お父さんは少し心配そうに聞く。

 「今まで、困らされたと思ったことはありません。あの時の俺は、ただの自己満足でした。カッコつけて湊の背中を押したつもりになってました。結局、それに耐えられなかったのは俺自身でした。もう1度、湊さんとお付き合いを許していただけませんか?」

 「許すも何も、ねぇ?」

そう言ってお父さんの方を見た。

 「そうだな。浩之くん、湊のことよろしく頼みます。」

ようやく浩之が満面の笑みを見せた。

 「小さい頃は翔ちゃん翔ちゃんってずっと兄ちゃんの後ついて来て可愛かった湊が彼氏連れてくるなんて。いつの間に大人になっちゃったの?」

お兄ちゃんは私の目線までかがんで、まるで子供をあやすように話しかけた。

 「お兄ちゃんが帰ってこないからだよ。もう5年以上会ってなかったんだけど。」

 「兄ちゃんは湊のことずっと考えてたよ?アメリカだってヨーロッパだって戦場に行ったって。」

 「絶対うそ。忘れてたくせに。」

私がちょっとふてくされたように言うと、お兄ちゃんは浩之の前に立った。その顔は少し怖かったけど、目は少し潤んでいた。

 「兄ちゃんは湊が思ってるよりシスコンだよ。誰が面倒見たと思ってんの?オムツだってお風呂だって添い寝だってしてあげた。一緒に遊んだし、勉強も見てあげた。母さんも親父も仕事でいなかったからずっと一緒にいた。歳が離れてるからかな?生まれた時からうちに宝物がやって来たと思ってた。だから、そこの君。湊の事泣かせたらどこにいたって殴りに行ってやる。いいか?こいつは俺の大切な妹だ。遊びとか付き合うぐらいとか思ってるなら手を引け。」

 「ちょっとお兄ちゃん!!「湊は黙ってろ!」

今まで何しても怒られたことがなかった。叱る時だって優しかった。大きな声なんて出されたことなかった。今、初めて怒鳴られた。驚きを隠しきれなかった。

 「俺は、将来のことも考えたいと思ってます。すぐとは言えませんが。もう、この手離したくないんです。一度、すでに泣かせてしまいました。いや、二度。1回目は別れを告げた日。2回目は事故で湊の記憶を無くしてしまった時。なのに、湊はまた俺を選んでくれました。だから、俺の役目はこの笑顔を守ることです。お兄さんの大切な妹さんを俺に任せてください。必ず後悔はさせません。」

浩之はお兄ちゃんの目をまっすぐに見据え、はっきりと言った。

 「翔太、大丈夫。あなたが湊を思ってることは私たちもわかってる。浩之くんならあなたの大切な妹を任せたって大丈夫。高校生の時からこの子は彼しか見えてないわ。ここで翔太が反対したって強情で頑固娘に嫌われるだけよ?ねぇ湊。」

 「あたし、もう子供じゃないよ?もうすぐ24歳になるんだよ?大好きなお兄ちゃんに反対されたくないよ。」

 「翔太、いい機会だな。そろそろ妹離れしたらどうだ?お前が出て行った頃の12歳の湊はもう一人の女性として成長したんだよ。」

 「わかった。ただし、健全なお付き合いをしろよ。」

 「お兄ちゃん!!何言ってんの?!」

 「湊、お前こそ何言ってんの?お前はまだ若い。いいか、手を出すなとは言わない。ただ、でき婚なんて絶対許さないからな。それをわきまえておけよ。」

 「最悪。なんてこと言うの?!たまに帰って来たと思ったら...もう帰ってこなくていいよ。」

 「湊、いいから。お兄さんの言うことは正論だよ。お兄さん、約束します。」

 「よし。じゃあ浩之くん、一緒に飲もう!君の知らない湊を教えてやるよ。だから、俺の知らない湊の事教えてくれる?」

 「はい。お願いします。」

そしてそそくさと浩之を連れて自分の部屋に行こうとするお兄ちゃん。

 「ちょっと!!本当に意味わかんないんだけど。」

そんな私の叫ぶ声が聞こえていないように二人で去って行った。

 そこから何時間経ったんだろうか。たまにすごい笑い声が聞こえる。

もういやな予感しかしない。

 「お父さん。あの二人止めて来て。」

 「翔太は無理だろ。あいつなりに浩之くんを受け入れようとしてるんだよ。」

 「お兄ちゃんってあんな人だった?」

 「あいつはいろんなものを見て来たんだよ。それこそ悲惨な現場に行ったこともある。湊には言ってないけれど危険な目にもあってる。だからこそ家族を思う気持ちは誰よりも強くなった。5年前のこと覚えてるか?」

 「5年前?最後に会った時?」

 「そう、あいつ長期で中東の内戦の取材に行くことになったんだ。いつ帰ってこれるかも、もう帰ってこれないかもしれないって俺らには言った。でも、湊には言うなって口止めされたんだ。母さんは泣いて翔太を止めたけどあいつは聞かなかった。この平和な国で生まれ育って、戦争を知らない国民に少しでも悲惨な事実を届けたいって。湊のような若い人にも知ってほしい。少しでも関心を持って考えてほしいって。昔から正義感の塊のようなやつだったからな。あっちに行ってから、小さい子や若い女性が泣いてたり、傷ついたりしたら湊に重なって見えるらしく、その時は連絡して来てお前のことばかり聞くんだ。元気にしてるのか?って。」

 「お兄ちゃん、あたしには何も連絡してこなかったのに...。」

 「それは出来なかっただけだ。あいつは、12歳のお前が泣きながら翔ちゃん行かないでって泣きながら止める姿が忘れられないんだよ。」

私は、お父さんのその言葉に衝撃を受けた。私はあの日、ずっと泣いていた。大好きな翔ちゃんがいなくなるなんて考えたこと無かった。大学生になっても暇さえあれば一緒にいてくれていた翔ちゃんが帰ってこなくなる。その事実を受け入れられなかった。そんなあたしを置いていけないと翔ちゃんはなかなか出ていけなかったのを、お父さんが私を抱え、お母さんがいいから早く行きなさいと翔ちゃんを家から追い出したんだ。

 「お前が行きたかった大学に反対したのは、翔太が危険なところに行ったりしていたから、母さんが家から出したく無かったんだよ。翔太は男だけど、ただでさえ娘のお前に何かあったら母さんも父さんも翔太だって耐えられなかった。お前はうちの箱入り娘だよ。生まれた時から我が家のお姫様だ。」

私がそんなに愛されて育ったなんて知らなかった。お兄ちゃんが出て行ってから、一人の時間も多くなり、ずっと寂しかった。両親にも、お兄ちゃんにも見放されたって思って中学、高校時代を過ごした。進路だって反対されまくって正直家族が疎ましく思った時もあった。両親たちにとって、あたしは邪魔な存在なんだろうって思って、家を出ることしか考えてこなかった。実家に私の場所はないんじゃないかって思うこともあった。お兄ちゃんがそんな仕事をしてるとも思っていなかった。海外で自由にしてるんだって思ってた。全て私の思い違いだった。

 「お兄ちゃんのところ行ってくる。」

お兄ちゃんの部屋まで行くと、浩之は酔って眠っていた。

 「お兄ちゃん。浩之にばっかり飲ませたでしょ。」

 「いや、兄ちゃんが強いだけだな。」

私は浩之に布団をかけ、お兄ちゃんの横に座った。

 「翔ちゃん。ごめんね。」

 「どうした?急に。」

 「なんとなく。ってかお父さんに全部聞いた。」

 「はぁ?親父言うなって言ったのに...。」

 「私、翔ちゃんに見放されたって思ってた。だから距離を置くためにお兄ちゃんて呼び出したし、携帯の番号だって教えなかった。でも翔ちゃんはいつも私のこと心配してくれてたんだね。さっき、もう帰ってこなくていいって言ってごめんなさい。翔ちゃんはあたしの自慢のお兄ちゃんだよ。」

 「湊、全部浩之から聞いたよ。大変だったな。辛かったな。よく頑張ったな。お前こそ俺の自慢の妹だよ。」

 「翔ちゃん、大好き。これで仲直り?」

私は、お兄ちゃんに抱きついた。昔、やんちゃして叱られ謝った後に慰めてくれた。その時は、いつも抱きついて離れなかった頃のように。

 「あぁ、仲直り。翔ちゃんも湊を置いて行った。ごめん。」

昔からいつも、自分は悪くないのに「翔ちゃんもごめん。」って謝って背中をさすってくれた。その時のように今日も謝るお兄ちゃん。

昔にタイムスリップしたかのような時間だった。

 「今度、翔ちゃんのところに遊びに行っていい?」

 「いいよ。いつでもおいで。」

 「今、どこにいるの?」

 「今はニューヨークの支局にいるよ。」

 「ニューヨーク!!行く!!絶対いく!!」

里紗のいるニューヨーク。なんてラッキーなのっと言うとお兄ちゃんはちょっとショックを受けていた。

 「なんだよ。俺に会いに来るんじゃないのかよ。友達の方がいいのかよ。」

 「え?ちゃんと翔ちゃんに会いにいくよ?」

 「はぁ、まぁいいか。12年ぶりに仲直りしたしな。」

そうお兄ちゃんは笑った。


 浩之を起こして、私たちは実家を出た。そして浩之の実家に向かった。

私が一緒に行くと、浩之の両親も、お兄さんもお兄さんの奥さんも姪っ子も甥っ子も勢ぞろいしていた。

そして私をけ受け入れてくれた。お母さんは泣いていた。

私たちは両家族公認の仲になった。一年の初めにいい出発だった。

その日は浩之の実家に泊まり、朝ごはんまでご馳走になって、私の家に帰ってきた。

二人で何することもなく、テレビを見たり、ご飯を作ったり、雑誌を見たり、一緒に寝たり、ただただ一緒に過ごした。

 翌日も、そう過ごすはずだった。

朝、寝ているとインターホンが鳴った。浩之は気付かずに寝ている。誰かなっと思って出ると、まさかの人物がいた。お兄ちゃんだ。お兄ちゃんを招き入れると、ソファに座った。

 「湊、兄ちゃん今から帰るから。」

 「え?そうなんだ。気をつけてね。」

 「その前に、湊に言わないといけないことがある。」

そうお兄ちゃんが真剣な顔で言う。

 「何?改まっちゃって。」

 「俺は、いつどうなるかわからない。テロにだって合うかもしれない。内戦の銃弾に当たるかもしれない。もしかしたら誰かに殺されるかもしれない。でも、今の仕事は俺の天職だって思ってる。辞めるつもりはない。もし、何かあったら、湊が父さんと母さんを支えてやってくれ。もう大人なんだろ?湊にならできるだろ?」

 「何それ、永遠の別れじゃないんだから。」

 「俺は、いつも別れる時は最後かもしれないと思ってる。もう父さんに聞いたんだろ?だから、もし俺がいなくなったら湊に後のことを任せる。きっと母さんは泣き崩れる。父さんは母さんを支えるのに手一杯になる。だから、湊に後のことをお願いしにきたんだよ。あの二人は年々、歳をとるにつれて精神的にも弱くなってる。俺は久しぶりに帰ってきてそれを痛感したよ。あんなに背中が小さく見えたことはなかった。さっき実家を出る時、母さんに泣かれたよ。まぁ、毎回泣かれるんだけど。でも、それを支える父さんも小さく見えた。何が何でも帰って来るつもりだけど、どうなるかなんて誰にもわからない。だから、湊、二人を頼むよ。」

何も言えなかった。いつもこんな決意をしていたなんて知らなかった。

 「翔ちゃんのお願い聞いてくれるよな?浩之!!お前そこにいるんだろ!?入ってこいよ。」

浩之はずっとリビングの入り口のドアの前にいたようだった。

 「お前も聞いてただろ?この前も言ったけど、湊のこと頼んだぞ。」

 「はい。わかってます。湊のことは俺が支えますから。」

 「湊?翔ちゃんのお願い聞いてくれるよな?お前には浩之がいるんだろ?」

私は決意を固めた。

 「わかった。翔ちゃんは心置きなく頑張って。何かあったらあたしに任せて。」

そう泣きたいのを無理に笑って答えた。

 「よし!!それでこそ俺の自慢の妹だよ。ありがとう。さぁ俺はもう行くよ。」

立ち上がったお兄ちゃんはそそくさと玄関に向かう。そして振り返って言った。

 「浩之。そう言えばお前なんでここにいる?何もしてねぇだろうな。」

そう言って寝室を軽く覗く。

 「何もしてませんって。ただ一緒に寝ただけ...。」

 「そうか。それならいいんだ。まぁそれでも百歩譲ってるんだけどな。」

 「お兄ちゃん。もういいから。」

そしてお兄ちゃんは浩之に耳打ちした。

 「じゃあ行って来るよ。元気でな。」

そう言って出て行った。私は玄関のドアを開けて笑って行ってらっしゃいと叫ぶとお兄ちゃんは両手を振って行ってきますと叫び返した。

 「ねぇ、お兄ちゃんなんて言ったの?」

ドアを閉めて浩之に聞いた。すると顔を真っ赤にして浩之が答えた。

 「それは俺と翔太さんの秘密だよ。」

それから何回も聞いたけれど何も答えてくれなかった。

 

 この年末年始はいろんなことが起き、とても忙しかった気がするけれど、とても充実してとても幸せだった。

仕事初めはとても忙しかった。でも、みんなそれぞれの休みがあった。仕事はこなして行くが、それぞれに休み中の話をする。

 「湊ちゃんは休み楽しかった?」

急に小春さん聞いてきたので、端的に報告した。

 「大晦日の日、浩之があたしのことを思い出してくれました。そして受け入れてくれました。元日にお互いの実家に挨拶しに行きました。それからずっと一緒にいました。」

 「えぇ!!どういうこと!?何があったの?!」

麻実さんが驚いて大きな声出して小春さんに怒られる。

 「話せば長くなるんで、また後で。」

それからみんな少しモヤモヤしながら仕事をしていた。

 休憩時間はみんな私の話を聞いてくれた。

話すとみんな喜んでくれた。ただ一人、砂羽さんはおかしなところに食いついた。

 「湊ちゃんってお兄ちゃんいたんだね。」

 「いましたけど。今ニューヨークにいるんで5年ぶりくらいに会いましたけど。基本、転勤族なんで世界中飛び回ってます。」

 「何してる人?」

 「新聞社で記者してますよ。もう34歳です。結婚どころか彼女もいないんじゃないですかね?」

 「どんな人?」

 「優しくて、勉強できて、そこそこ運動神経も良くて、正義感が強いかな?」

 「湊ちゃんってブラコン?」

麻実さんが私にニヤニヤしながら聞いて来る。

 「違いますよ!昔は確かにそうだったかも。両親が共働きだったから、時間があれば、ずっと一緒にいてくれました。高校生や大学生になってからも時間を作ってくれてました。でも小学校を卒業するときに就職して出て行きました。それからは仕事に生きてますよ。」

 「じゃあブラコンとシスコンの兄妹なんだね。中村くんも大変そうだなぁ。」

麻実さんとちーちゃんが頷きながら言う。

 「浩之はもう打ち解けたみたいですよ?最初はどうなることかと思いましたけど。」

みんなで話していると、電話が鳴った。今話題の人、お兄ちゃんだった。

 「もしもし?どうしたの?」

 「湊?!俺、仕事用のUSB忘れたかも。すぐ国際郵便で送って。」

 「えぇ?!どこに忘れたの?」

 「部屋かなぁ?湊の部屋落ちてなかった?」

 「うちにはなかったよ?しょうがないなぁ。いい歳して忘れ物とかやめなよ。翔ちゃん、あんだけカッコよく帰って行ったのにダサ。」

そう言って、一方的に電話を切った。

 「どうしたの?トラブル?」

砂羽さんが心配そうに聞いてくれた。

 「お兄ちゃんが実家に仕事で使うもの忘れたみたいです。国際郵便で送れって言うんですよ!!」

 「やっぱり仲いいんだね。お兄ちゃんのことをちゃん付けてなかなか呼べないよ。」

私は不意に出た翔ちゃんって言葉が急に恥ずかしくなって、何も言い返せなくなった。


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