第12話 春一番を待ちわびて
あれから何時間たったんだろう。私と里紗は子どものように泣いた。泣き疲れてそのまま眠り、気がつけば朝だった。私が目を覚ましたとき、里紗はまだ眠っていた。長時間のフライトで疲れていたところに追い討ちをかけるような話。そりゃあ疲れるのは当たり前だ。
私は里紗が寝ている間にシャワーを浴びて、朝食の準備をした。トーストにオムレツにヨーグルト。それに昨日買っておいたプリン。里紗は和食がいいのかもしれないが、材料がなかった。
「里紗、朝だよ?ごはん食べる?」
「うーん。食べる。」
「じゃあ起きて。おはよう。」
「おはよー。あぁ!!あのプリンじゃん!」
「昨日買っておいたんだけど、寝ちゃったから。」
「めっちゃ久しぶりだぁ!!ありがとう。さすか湊!!」
朝からテンションが高いのは変わっていない。里紗のそういうところに助けられる。起きたばっかりの里紗はトーストにかぶりついた。
「ヒロはどう思ってんだろう?昔からイマイチわかんないんだよね。ヒロの考えてること。」
「それはあたしにもわからないよ。タケちゃんだってわからないんじゃない?」
「タケは分かり易すぎるんだけど。ってかあいつ上手く行ったのかなぁ?」
「何が?」
「プロポーズ。」
「あぁ!!忘れてた。ってか何も言ってこないよ?予告だけ知らせてくれたけど..。」
「あんな感じだけどさぁ、肝心なところは決められないからダメだったんじゃない?それか、サプライズ考えて、歯の浮くようなロマンチックな言葉並べて愛想尽かされたりして。」
里紗って一応、タケちゃんの元カノだよね。毒吐きすぎじゃない?笑えないジョークすぎる。私の顔が引きつっていく。
「ジョークだよジョーク。アメリカンジョーク。」
「ブラックすぎるって...。」
すると私の電話が鳴った。
「ん?タケちゃんだ。もしもし?」
「里紗っていつ着く?」
「今あたしの前にいるけど?」
「はぁ?まじで!あいつ俺のメールも電話も出ねぇんだけど!!」
「変わろうか?」
「いや、いい。俺も今そっち帰ってるところ。明日いつものところに6時でいいよな?里紗にも言っといて。」
「うん。わかった。」
電話を切って、里紗に聞いた。
「タケちゃん怒ってたよ。里紗がメールも電話も返さないって。」
「あぁー忘れてたわぁ。タイミング悪いからさぁ。タケって時差の計算できないから非常識な時間とかに電話かかってくるし、メールも忘れちゃうんだよね。」
「とりあえず、明日いつものところに6時ね。遅れちゃダメだよ。ここは日本だからね。」
「わかってます。必ず時間どうりに行くよ。日本はうるさいなぁ。」
朝ごはんを食べ終わる里紗はそそくさと帰って行った。
家のベッドで寝たいそうだ。きっと時差ボケしてるんだろうなぁって思いながら見送った。
翌日になり、今日はあの4人で久しぶりに会う。そして今日で激動の1年が終わる。今年は本当にいろいろあった。
自分でも知らなかった感情や、考え方、仲間にも出会った。
そして、浩之への気持ちを再認識した。
たくさん泣いた。たくさん笑った。たくさん怒った。たくさん悲しかった。
そして、たくさんたくさん裏切った。私が傷ついた以上に傷つけた。
早生まれのあたしは来年24歳だ。他のメンバーは25歳だけど。
私たちはもう、いい大人だ。ちゃんと人生と向き合わなければいけない。
年の終わりにそんなことを考えていた。
もうすぐ待ち合わせの時間だ。少し早くついてしまった。そう思っていると、浩之がやってきた。
「久しぶり。元気だった?」
「3週間前に会ったよ?久しぶりじゃない。」
「あの時は全然話せなかったから。ってか、あの勉強会から話してないじゃん。」
「そうだね。まぁ仕事だから仕方ないよね。」
そんな話をしていたら、タケちゃんが時間どうりにやってきた。
「お前ら早いな!もしかして二人で会ってた?」
笑いながらタケちゃんは茶化す。
「会ってねぇわ。今来たんだよ。」
「へぇーおもんねぇな。」
「タケちゃんは今日何してたの?」
「俺?実家でこき使われてた。久しぶりに帰ったっていうのに大掃除させられたよ。」
「なんかタケの実家らしいな。」
「ほんと何も変わんねぇよ。親も妹も。そういえば里紗は?」
「まだ来てない。」
「あいつも全然変わんねぇな。あの遅刻ぐせは治らないんだろうな。」
「でも、タケは菅野のそういう無邪気なところが好きだったんじゃなのか?まぁ一目惚れってところもあったけど。」
「ヒロ。お前に言われたくねぇよ。なんでこいつなの?誰よりもバカなのに。それにドジだし、鈍いし、見た目だけのちんちくりんだぞ?!」
ん?里紗から私になった?おかしくない?ってちんちくりん...。
「俺は、なんでだろう?なんで湊だったんだろう?」
「お前、やっぱりまだ思い出せないのか?」
「うん。断片的に少しだけだけど蘇る時はあるんだけど。」
「そうか。まぁ、一つ俺から言えるのは、お前はこのちんちくりんが大好きだったんだよ。」
「ちょっと!!さっきから黙って聞いてれば。失礼にもほどがあるわ。ちんちくりん言うな。この筋肉バカ!!」
タケちゃんは転職してから筋肉マンになっていた。警察学校で鍛えていたのがやめられないそうだ。前まではスマートだったのに。
「ごめん!!遅れちゃった。」
里紗がやって来た。15分遅刻した。
「里紗。やっぱりやったな。ってか俺のこと無視してるだろ!!」
「別に。タケが非常識なだけ。時差の勉強でもしなさいよバカ。」
不思議だ。何年も4人で会っていないのに一瞬であの頃に戻ったような気がした。
「ヒロ。大丈夫なの?もうどこも痛くない?後遺症とかないの?」
「あぁ、体は大丈夫。何もないよ。」
「本当に?あのトラックの運転手見つけたらあたしが捻り潰してあげるから。」
「やめとけ。里紗、殺人犯になるぞ?」
「誰も殺さないわ!捻り潰す。」
「だから、お前に捻り潰されたら死ぬわ...。」
「タケ。あんた先に潰そうか?」
「ごめんなさい。」
そしてみんなで笑った。あぁ、高校時代にタイムスリップしてる。楽しかったあの頃に。
そして、近くの居酒屋に行った。
この4人で飲むのは初めてだ。積もる話がたくさんある。
「そういえばタケって結婚すんの?」
里紗がおもむろに聞き出した。
「あぁ、するよ。」
「何、振られたんじゃないの?」
「振られてねぇわ!プロポーズ失敗とかシャレになんねぇよ。」
「どうやってしたの?」
「そりゃ王道よ。フレンチのいいとこ行って、コースの最後に指輪だけ皿に乗せてもらった。そんで、結婚してくれって言った。」
「それだけ?」
「それだけって、十分だろ!?」
「歯の浮くような言葉言ったんでしょ?」
「言ってねぇよ。でも、俺は運命を信じるよ。お前との運命を。運命だったら何があっても何度でも巡り会える。俺が何度でも巡り会うのは、巡り会いたいと思うのは美希だけだ。って言った。」
「やっぱりね。クサいなぁ。」
「里紗、お前、そんなこと言ってると自分の時どうすんだよ。」
「いいの。だって向こうの人はそんなの普通だもん。」
「ん?彼氏いるの?」
「いるわよ?!なにそれタケ!!あたしだっているわよ。ほら」
そう言ってケータイを見せる。端正な顔立ちの白人男性が写っていた。
「誰?もしかして向こうの人?」
「もしかしなくてもアメリカ人よ。ブライアン。」
「えぇー!あたし聞いてないんだけど。」
「言う暇なかったじゃん。」
「そりゃそうだけど...。」
ブライアンさん。優しそうな雰囲気が写メからでもわかる。その写メを見る里紗も幸せそうだ。
「ブライアンが湊に会いたがってたわ。」
「え?あたしに?」
「昔、雨の中2回もこけたでしょ?その話したら爆笑しちゃって。それから湊に会いたいってうるさいの。」
前言撤回。ブライアン、私はあなたに会いたくないです。
「そんなことあったなぁ。あれは俺の人生できっと後にも先にもないくらい面白かった。」
「ねぇ、面白かったよねぇ。あたしも見たことないよ。」
本当にやだ。私の汚点なのに。
「あの時のヒロもすごいと思ったけど。絶対笑いたかったはずなのに湊のこと抱きしめちゃって。」
「いや、ヒロは笑ってたよ。顔面崩壊してたもん。ってか吹いたよな?!」
「そんなことあったんだな。」
「ヒロ、あれだけは思い出しな。勿体無い。あんなに面白かったのに。」
「ちょっと待て、浩之あの時笑ったの?!信じられない。あたし、あの時から意識し始めたのに...。」
「いや、どうだったかなぁ?」
「笑った。ってか吹いた。俺は聞いた!」
「最悪。あの時のときめき返して。」
「タケ、記憶違いじゃない?」
「違わない。」
「ほら!!タケちゃんも言ってんじゃん。」
「もう、拗ねんなって。なぁ?」
そしてまた私の頭を撫でて慰める。
「ヒロ、湊の頭撫でんの本当に好きだね。」
「え?そう?」
「昔から何かあるたびに湊の頭撫でるの。もしかして無意識?」
「まぁ、特に意識はしてないよ。」
「記憶はなくても、勝手に体が覚えてるってことなのかなぁ。」
「そうだ。あの場所に行って見ないか?」
急にタケちゃんがある提案をあげた。
「あの場所って?」
「俺らが出会った場所だよ!!」
「え?高校ってこと?」
「そう!!今から行ってみようぜ!!」
「ダメでしょ?!絶対捕まる。」
「いけるいける。今日は大晦日だ。誰もいないよ。大丈夫。」
「タケちゃん、警察官がそんなことしていいの?」
「お前、それ言うなよ。でも、何か思い出すかも。」
「何かあったらどうすんだよ。俺のせいでタケに何かあったら絶対嫌なんだけど。」
「そん時はそん時。ヒロのせいじゃない。なるようになるさ。よし!!そうと決めたら行くぞ!!」
そしてタケちゃんは勢いよく立ち上がった。
本気らしい。
「ヒロ、大丈夫だ。俺が、俺らが思い出させてやるよ。」
そう告げると颯爽とお会計を頼んだ。
そうして、私たちの母校についた。
「どうやって入るの?」
校門にはカメラがついている。
「それはここから入るんだよ!」
校門ではなく、ブロック塀をよじ登ると言うことだった。
「無理でしょ!登れないし、降りれないじゃん。」
里紗がタケちゃんに訴える。
「大丈夫。俺とヒロが先に登って、お前らを引き上げる。その後俺らが降りて、お前らを抱きとめてやるから。」
「えぇ...。本当にすんの?」
「ここまで来て帰るとかありえないから。」
タケちゃんの決意は固い。そしてタケちゃんが登りだした。もう、猿にしか見えない。
「よし、ヒロ来い!!」
登り切ったタケちゃんは浩之を呼んだ。そして浩之も何かを決意したかのように登り始めた。
登り切った浩之とタケちゃんはハイタッチをして喜んでいる。
「次!里紗来い!!」
「マジで...。最近の日本人クレイジー。」
そう呟いて里紗も登り始めた。最後らへんはタケちゃんとヒロにひきあげられていた。
「最後、湊。お前は気をつけろよ。ドジなんだから。」
「こう見えても運動神経はいい方なんだけど...。」
そして私も登った。届きもしないのに浩之が手を伸ばしている。
私はその手を掴みたくて一生懸命登った。そして、私の右手が浩之の手を掴んだ。
「湊、左手!!」
タケちゃんがそう言うまで忘れていた。左手を伸ばしてタケちゃんの手をとると二人が引き上げてくれた。
「よし。じゃあ飛び降りるぞ。」
「え?マジですか?これ下手したら骨折,,,。」
「大丈夫。草生えてるし。」
バカな言葉を残してタケちゃんが飛び降りた。
「意外と大丈夫!!」
そう笑うタケちゃんが本当のサルに見えたことは私の中だけにしまい込もうと思った。そしてヒロも飛び降りた。
「里紗、湊、さあ来い。」
両手いっぱいに手を広げたタケちゃんが叫ぶ。
「抱きとめられなかったらタケ、どつきまわす!!」
里紗はそう叫んでタケちゃんの胸に飛び込んだ。
タケちゃんはちゃんと里紗を抱きとめたが勢い付いて後ろにしりもちをついた。
「里紗、怖えわ。勢いもすげぇな。」
「タケが言い出したんでしょ?!」
また言い争っている。私はどうすんのよ。
「湊、ほら、おいで?」
浩之が両手を私に伸ばす。その姿に私は泣きそうになった。あぁ、この人の胸に飛び込めるのは私だけ。もう離さないで。思い出さなくていいから、私のこと離さないで。
そう思ったら自然と浩之の胸に飛び込んでいた。浩之はちゃんと抱きとめてくれた。
「湊?怖かった?」
「え?」
「泣いてる。」
私の頬を親指でなぞる。
「もう、私を離さないで。」
「え?どした?」
「お前ら何イチャイチャしてんの?早く行くぞ!!」
そうタケちゃんが私たちを呼ぶ。
「ほら、早く行こう?」
浩之の大きな手が、優しく私の頭をまた撫でた。
「そうだ。教室行ってみよう!!」
タケちゃんが私たちが3年生の時に使っていた教室に向かった。でも、やはり鍵がかかっている。
「マジかぁ!!鍵つけてんなよ。」
いや、付けるだろ。
「入れないんじゃ意味ないじゃん。」
里紗も少し機嫌が悪い。
「まぁ、しょうがないな。」
浩之も残念そうだ。
そうだ!中庭!!私と浩之が初めて出会った場所は中庭だ。あそこなら鍵はついてない。
「ねぇ、中庭行こう?」
「え?なんで?」
「いいから。あたしは中庭に行きたい。」
そう言うと、タケちゃんも賛成してくれた。
「湊が言うなら中庭に行こう。」
そして私たちは中庭に向かった。
「ねぇ、ちょっとだけあたしと浩之だけにしてくれる?」
「なんで?」
「いいから。お願い。里紗とタケちゃんは向こうにいて。」
「タケ、あっち行ってよう。湊がこれだけ言ってるんだから任せてみよう。」
「わかった。終わったら呼んで。」
二人は少し離れたサブグラウンドまで行ってくれた。
「よし、じゃあ浩之はそこのベンチに座って。」
「え?何すんの?」
「いいから!早く座って。」
そう言うと浩之は渋々座った。
私は、初めて来たときのように、中庭からサブグラウンド、本校舎とぐるぐる回った。そして3週目。あの時はここで浩之が私に声をかけてくれた。
「ねぇ。さっきから何してるの?」
願いを込めて、中庭からサブグラウンドに向かおうとした時に、とうとう聞きたかったあの声が聞こえた。
「教室を探してるの。」
「何年何組の?」
「1年2組。」
「それならそこ真っ直ぐ行ったとこ右側の渡り廊下渡った先の階段で2階に行けばわかるはず。」
「うん。ありがとう。」
あの時と同じだ。これでも、浩之は何も思い出せないのかな?私にとって最後の望みを賭けた。そして振り向いて浩之を見た。
「浩之?二人のところに行こ?」
浩之は私のことを見て、何も言わない。少し様子がおかしい。私の声が聞こえていないかのようだった。
「ねぇ?大丈夫?どこか痛い?気分悪い?ねぇ、聞こえてるの?」
私は浩之に駆け寄った。浩之はさっきまで私がいたところをずっと見ている。
「何か言って?あたしを見て。どうしたの?!」
だんだんあたしの声も大きくなってくる。それでも何も言わずに浩之は一点ばっかり見つめている。
すると浩之は頭を抱えて、急に大きな声で叫び出した。
「うあぁぁぁ!!あぁぁぁぁ!!!」
私は驚きすぎて、どうすることもできない。でも、何かしないといけないんじゃないかと思い、浩之を抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫だよ。落ち着いて、あたしはずっといるから。」
「湊、俺、ごめん...。」
「いいよ?謝んなくて。」
「ごめん。本当にごめん。俺、俺、思い出したかも。」
「何を?」
「全部...。」
「え?全部?!あたしのこと全部?」
「うん。俺、やっと湊のこと、思い出せた。点と点が線で繋がったんだ。」
「あたし、浩之のそばにいてもいいの?」
「湊じゃないと嫌だ。俺には湊が必要だった。今までも、これからも。もう、手放さない。」
そして私のことを今までで一番力強く抱きしめた。
「あたしがしてきたことは、消せないよ?」
「いいよ。消さなくて。湊の全部、まとめて俺が受け止めるよ。」
「好き、大好き...。」
「俺は、愛してるよ。」
言い切った直後に浩之の顔が私の顔に近づいて、唇が触れ合った。
「ちょっと!!なんであんたたちキスしてんの?!」
「どうなってそうなった!?」
「なんでそこにいるの?!」
「なんでって、ヒロの叫び声が聞こえて、驚いてこっち来たら急に抱きしめあって、キスまでして...。」
「話し声、全然聞こえねぇし。」
「俺、思い出した。さっき、湊と一番最初に出会った時とリンクしたんだ。その時に全てが繋がった。どれだけ俺にとって大事だったのか、やっと思い出せたんだ。」
「そっか。湊も良かったね。これからはヒロに思いっきり幸せにしてもらいな。ねぇ、ヒロ?」
「分かってるよ。湊を幸せにしてみせる。この場所に誓うよ。」
「ヒロの誓いは分かったけどさぁ、もうすぐ年越すよ?」
タケちゃんの一言で、みんな中庭の時計を見上げた。
「え?もう?あと3分じゃん!!」
「まぁ、俺ららしいけど。」
「どうする?年越し何する?」
「ジャンプ?!」
タケちゃんと里紗が話しているけれど、私は年越しなんてどうでもいい。
この1年の最後に私を思い出してくれたことが嬉しすぎて、夢の中にいるようで、ふわふわとどこかへ飛んでいきそうだ。
「ねぇ湊、聞いてる?」
里紗が声をかけて来たが、聞いてはいない。
「里紗、カウントダウン!」
「OK!5・4・3・2・1Happy New Year!!」
「明けましておめでとう。今年はいい年になるぞー!!」
タケちゃんが叫ぶ。彼は今年、結婚する。門出の年だ。
「あたしも、いい年にするぞー!!」
里紗はニューヨークで一人で頑張っている。誰よりも強く、たくましいのかもしれない。
「俺は、もう今年はいい年だぞー!!」
浩之にとったら去年は災難続きだった。そんな年に比べたらすでに今年はいい年なのだろう。
「あたしは、普通な年にするぞー!!」
「は?意味わかんねえ。」
「湊って欲とかないの?」
「普通がどれだけ素晴らしいかが分かったの。そんな1日1日を過ごせば、いい1年だったって言えるでしょ?」
「湊らしいっちゃらしいな。じゃあそろそろ帰るか。」
タケちゃんが、入って来た塀の方へ向かう。
「えぇ!!やっぱりあっちから帰るの?!」
里紗は文句を言いながら後ろをついていく。
「湊、今年は二人で普通の毎日を過ごそう。」
そう言って浩之は右手を私に差し出した。もちろん私はその手を取った。
「そうだね。普通っていう当たり前が一番素晴らしいよね。」
そういうと、浩之は繋いでいる手の力を強くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます