《02-04》
※ ※ ※
放課後。
菜留は美術準備室に向かっていた。
美術準備室は東校舎一階、北側の端っこ。
三年生の棟という事もあり、やや緊張した面持ちで足早に向かう。
藤見野は部活が盛んだ。
だが、その活動規模や実績によって待遇の差は大きい。
体育系で多くの部員を抱える野球部やサッカー部は、校舎の隣の敷地にある部室棟に部室を与えられる。
しかし部員が少なく活動内容が微妙なクラブ、主として弱小文化部を指す、は部室がもらえず、特別教室のいくつかを部室として使用している。
五月の末には、ここ数年中止されていた『新歓祭(しんかんさい)』がある。
新歓祭は放課後、体育館に新入生を集めて行われるイベント。
そこで各クラブの代表者が活動説明を行うのだ。
言うなれば部活の勧誘会だが、盛り上がりは小規模な文化祭と言った風情。
模擬店を出すクラブまである。
この時期、各クラブは活気付いていた。
新歓祭の準備を進めつつ、早めの部員獲得に精を出している。
東校舎に部室がある文化部達も例外ではない。
菜留も視聴覚室を拠点としている映画研究会や、被服室を根城にしているコスプレ研究会に捕まって勧誘を受けた。
しかし、美術準備室に向かっている事を告げると、クモの子を散らすように逃げてしまった。
志穂から聞いた噂の類が広範囲に浸透しているのだろう。
「あれ? 菜留っちじゃん」
呼び止められた。
目を向けると、クラスメイトが美術室の窓から顔を出していた。
淀橋 真希乃(よどばし まきの)。美術部員。
目尻の上がった猫を思わせる瞳と、右側を大きなリボンで括ったサイドテールがトレードマークの少女だ。
「帰宅部の菜留っちが、放課後にわざわざこんなとこまで来るということは」
ここで切って、数秒間溜める。
彼女なりの演出。
「ずばり! 美術部の見学でしょ。びしぃっ!」
律儀に効果音を添えて、菜留に指を突きつける。
「残念ながらハズレだよ」
「はうわぁ! 一生の不覚なりぃ! がっくり頂きました!」
大袈裟に頭を抱えてみせる。
常に騒がしいのが彼女のスタイルなのだ。
「ま、んなわけないって思ってたんだけどね。菜留っちは絵がへたっぴだもん」
「淀橋さんと比べると誰でも下手になっちゃうよ」
真希乃は県主催の絵画コンクールで何度も受賞している実力者。
去年は全国規模のコンクールで見事に入選している。
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