《02-03》

「落ち着け、志穂。俺らが知ってるのは噂だからな。信憑性は微妙だろ」

「それはそうかも知れないけど。でも」

「部活の選択は個人の自由。俺達がどうこう言うもんじゃないさ」

 

 正論だ。

 元々、直情タイプの志穂は弁の立つ人間ではない。

 反論に困ってしまう。

 

「心配してくるのは嬉しいけど。もう決めたことだから」

 

 申し訳無さそうに告げる菜留。

 

 そんな彼に志穂は矛を収めるしかなかった。

 不機嫌に頬を膨らませながらではあるが。

 

「で、姫堂先輩のクラブってどこか知ってる?」

「知らないわよ」

「ウマ研だ。顧問は学校一の美人教師、秋野先生だぞ。部室は美術準備室だったかな」

「ちょっと、司」

 

 非難の声を上げる志穂をちらりとも見ずに、言葉を続ける。

 

「放課後はバタバタするからな。昼休みの内に了承印を貰って来いよ」

 

 提出する入部届けには、担任か顧問の了承印が必要だ。

 

「そうだね。そうするよ」

 

 食べ終わったお弁当をしまい、菜留が席を立った。

 

 教室から菜留が出たのを確認して、志穂が司の耳を掴んで乱暴に引き寄せる。

 

「痛たた! マジ痛いって!」

「ちょっと、教えるなんてどういうつもりなの。ちゃんと説明しなさいよ」

「だから、部活は個人の自由だって。あっ! 痛っ!」

 

 志穂がぐぐっと容赦なく耳を捻り上げる。

 

「解った解った。ちゃんと説明するから」

「ったく、納得できなかったら、こんなんじゃ済まないわよ」

 

 仕方なく志穂が手を離した。

 

「やれやれ酷い目にあった。女子がか弱い男子に暴力を振るうんじゃないよ」

「バカ言ってないで、早く説明しなさいよ」

「菜留が部活に入るって言ってるんだ。俺達に邪魔する権利はないよ」

「姫堂先輩のクラブなのよ。あの先輩は……」

「噂だからな。かなり悪い方向に脚色されていると思うぜ」

「でも」

「菜留は抜けたとこもあるけどな。ちゃんと相手を見れる。実際に会ったあいつが、いい先輩だって言ってるんだぜ。間違いないさ」

「そりゃそうかもしれないけど。だからって」

「お前が嫌がってるのは、姫堂先輩が女だからだろ」

 

 志穂が言葉に詰まる。

 その反応は彼女の心情を雄弁に語っていた。

 

「言っとくけどな。菜留には菜留の気持ちがあるんだよ。解るか? つまりだな……」

 

 司の声は途中から届いていなかった。

 

 志穂はぐっと拳を握って自分に言い聞かせる。

 

「きっと菜留は騙されてるんだ。私がなんとかしないと」

 

 

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