《02-02》

「実は何のクラブか解らないんだ」

 

 呆れるふたりに、菜留は昨日放課後の顛末を伝えた。

 

「つまり、その素敵な先輩と入部の約束をしたってわけか」

「でも、クラブ名を聞くの忘れちゃって」

「どこか抜けてるんだよな菜留は」

 

 快活に笑う司に比べ、志穂はぷっと頬を膨らませて黙り込んでいる。

 

「で、その先輩の名前くらいは解るか? 三年の先輩達に聞いてみるけど」

「うん。姫堂先輩って言うんだけど」

 

 その苗字に司の表情が強張る。

 不機嫌そうだった志穂の顔も驚きに変わっていた。

 

「どうしたの、ふたりとも」

「姫堂って姫堂 沙々子だろ。姫堂 剛憲(ひめどう ごうけん)の孫娘だよ」

「ひめどうごうけん?」

「もう、たまにはニュースくらい見なさいよ。参議院議員の姫堂 剛憲。当選五回、前の内閣で防衛大臣まで勤めた政界の大立者。息子は藤見野の市会議員までやってるってのに」

「派閥の領袖で圧倒的な存在感を持つセンセイだぜ。色々と黒い噂もあるけどな」

 

 ふたりの言葉には悪意とまではいかないまでも、不快感が滲んでいた。

 

「菜留、悪いこと言わないからさ、姫堂先輩なんかに関るのは止めた方がいいよ」

「大丈夫だよ。姫堂先輩は素敵な人だよ。話してて楽しいし」

 

 菜留の反論に志穂と司は顔を見合わせる。

 アイコンタクトで発言者を決定。

 僅かに座り直した志穂が「あのね」と切り出す。

 

「姫堂先輩って、あまり評判が良くないの。陸上部で同じクラスの先輩がいるんだけど、権力者の孫ってのを笠に着てやりたい放題だって。反対する相手がいたら私は姫堂の孫だ、文句あるのかって、睨みつけてくるんだって」

「信じられないよ。気さくでいい先輩だったし」

「ホントだってば。メドゥサって呼ばれているくらいなんだから」

「メドゥサ?」

 

 聞きなれない単語を繰り返す菜留に、司が端的に説明する。

 

「ヨーロッパの神話に登場する化け物だ。髪の毛が蛇でさ、睨んだ相手を石にしてしまうって化け物。メジャーどころだからな、小説とかにも出てくるだろ」

「そういうファンタジーっぽいのは読まないんだ。僕が好きなのはミステリィだから」

「とにかく、そんな先輩なんかに関っちゃダメだからね。解った?」

「そうはいかないよ。入部するって約束しちゃったし」

「菜留!」

 

 思わず声を荒げる志穂。

 

 

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