《02-01》

【2】

《四月十七日(火)》


 昼休み。藤見野高校に給食制度はない。

 弁当か食堂かの二択になるのが必然となる。

 比率的には前者が六割。

 教室で気の合うメンバーで集まって食べるのが主流だ。

 

「ちょっと、それどういうこと?」

「随分と急な話だな。何かあったのか?」

 

 菜留の報告にふたりの反応は似たような感じになった。

 

 先に声を上げたのは、菜留の対面に座っていた駒中 志穂(こまなか しほ)だ。

 

 志穂は健康的な小麦色の肌をした少女。

 細くしなやかな四肢に、丸みの少ない身体つき。

 短く揃えられた髪がボーイッシュな雰囲気を強めていた。

 

 やや遅れてリアクションしたのが、文郷 司(ふみさと つかさ)。

 百八十を超える長身で、整った顔立ちの少年。

 色を抜いた長髪と石付きのピアスが、どことなく軽薄な印象を与える。

 

 三人は小学校からの付き合い。

 菜留、志穂、司と呼び合う仲。

 今日もいつも通り、菜留の席に集まりお弁当を開けていた。

 

「ずっと帰宅部だった菜留が部活に入るなんて信じらんない」

「昨日の帰り、宇宙人に誘拐されましたってオチじゃないよな」

「ふたりを見習って、何か始めようと思ったんだ」

 

 あまりに酷い発言に、菜留は苦笑を浮かべながら説明した。

 

 志穂は一年から陸上部。

 司は手芸部と料理研究部、更に新聞部とテニス部に属している。

 

「菜留、親友として忠告しておいてやるが、部活ってのは中途半端な気持ちでやるもんじゃねえぞ」

「よく言うわね。四つも掛け持ちしてる半端者のくせに」

「女子がくせにとか、汚い言葉を使うんじゃない。確かに俺は四つのクラブに入っているが、目的はひとつだけだ」

 

 びしっと音が出そうなほどの勢いで人差し指を立てた。

 

「女の子にモテたい! ただそれだけだ!」

「はは、司は相変わらずブレないね」

「手芸と料研は七割が女子。しかも家庭的な子ばっかだぞ。新聞部に入ってれば、取材で色んな女の子と知り合えるし。テニスがそこそこ上手ければポイントが高い」

「なるほど、理に適った選択だね」

「もう、菜留。変なところで感心しないの。結局、彼女のひとりも出来ないんだから」

「そこなんだよ。何が悪いと思う?」

「そんなことより、菜留は何のクラブに入るつもりなの?」

 

 やや上目使いになって、「ひょっとして陸上部?」と聞いてみる。

 

 志穂の問いに菜留は小さく首を振った。

 

 

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