《01-05》
「こっちです。去年は二組だったんです」
入り口側に二列、一年二組の下駄箱まで移動する。
「ここです。この下駄箱です」
やや興奮しながら開ける。
そこに入っていたのは菜留のスニーカー。ではなく、白く綺麗な上履きだった。
菜留が申し訳ない表情になる。
「先輩、ごめんなさい」
「何故謝る?」
「いや、その、色々と考えてもらったのに」
「君はとても素直で優しい人間だな。非常に好感が持てる」
「え?」
意外な言葉に菜留は驚いて顔を向けた。
途端に少女の頬が赤くなる。
「ご、誤解するな。素直で優しい人間は好まれるという意味だ。それよりも、君の靴だ」
やや強引に話題を変えた。
菜留が頷くのを見て、少女は小さく深呼吸をひとつ。
凛とした雰囲気に戻る。
「下駄箱に入っていたのは君の靴ではなく。誰かの上履きだった」
「残念ながら推測は間違いだったということですよね」
「君は物事を直線的に捉える傾向があるようだ。物語の探偵に憧れるなら、時には事象を斜めから見ることも必要だぞ」
少女のアドバイスに菜留の表情が強張る。
フィクションに登場する探偵に憧れているなんて誰にも内緒なのに。
「驚くことでもあるまい。さっき、私の推理を否定しようとした時の冗長な口調。そして読んでいた本を考えれば簡単に推測できる」
図星過ぎて菜留はぐうの音も出ない。
「さ、行くとしよう」
「どこにですか?」
「そこに上履きが入っていたということは、君が靴を入れた後に下駄箱の使用者が来たことになる。もし、自分の下駄箱に持ち主の解らない靴が入っていたらどうする?」
そこまで聞いてようやく菜留は正解に辿り着いた。
※ ※ ※
藤見野高校はグラウンドを、東西南北四つの校舎が囲む形になっている。
正門は南側。そこから玄関と特別教室のある南校舎に進み、各学年毎に東西北に分かれる。
西校舎が一年、北が二年。三年は東側だ。
北校舎の一階は食堂。
昼休みには混雑するここも、放課後の今、生徒は数人だけ。
菜留は食堂の隅に置かれたジュースの自動販売機に、コインを入れて促した。
「どうぞ。ささやかですがお礼です」
「ありがとう。遠慮なく頂こう」
少女は軽く頭を下げると、ボタンを押した。
クールな彼女に似つかわしくブラックのコーヒー。
ではなくイメージと正反対のイチゴミルクだった。
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