Twilight Doll〜黄昏の魔女と小さな人でなし〜

囲味屋かこみ、

第0章 黄昏の線路

 黄昏の線路と呼ばれる空間があった。


 国と国の間を繋ぐ、その異空間には時間という概念が存在しない。


 赤がみがかった空はいつまでも変わることはなく、


 日が昇ることも、 落ちることもなく、


 雲もなく、天候が変わることもなく、


  ただ、昼と夜の境界だけが存在し続けている。


 いつまで経っても黄昏。

 どれだけ待っても黄昏。

 どこまでいっても黄昏。


 故に、黄昏の線路。


 時計の針は動けど、空は動かず。


 時の流れのようなものは確かに存在しているのだが、絶対に変わることのないその黄昏の空が、人間の常識を頑なに否定し続けていた。


 そして、そんな夕暮れに照らされているのもまた異質な光景であった。


 それは見渡す限りの廃墟。

 どこまでも続く、瓦礫の地平線。


 そんな中でただ一つ、その線路だけが悠然と存在していた。


 不思議な光景だった。


 荒れ果てた文明の上を、真っ直ぐに、無傷の鉄道橋が伸びている。大きな、とても大きな橋だ。レンガで造られた巨大な脚がいくつも連なり、アーチを形づくっている。それはまるで、大海原に列車を走らせるかのような規模だった。しかし、足元に広がるのは、高低差の無い瓦礫の平野である。


 いったいこの鉄道橋は何のために造られたのか。何故この橋だけか無傷なのか。何故この空間は黄昏のままなのか。いや、そもそもがこの空間はいったい何なのか。


 その答えはもはや、誰にも分からない。


 たった『二人の魔女』を除いてはーー。


ーーーー


 とある国と国の間に存在する、黄昏の線路ーー国際連盟協定略式路線番号8、通称ルート8の線路の上で、一人の幼い少女が佇んでいた。

 

 広大な線路を支配するかのように、

 長い黒髪を風になびかせながら、

 線路の真ん中で悠然と空を見上げている。

 

 どこか退廃的な雰囲気を纏いながらも、少女の口元には笑みが浮かんでいた。


「やっと見つけた」


 そして黄昏は動きだす。

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