ハイジャック
気がついたら飛竜駆りになっていた。
漠然と空が好きだったわけでもないし、でも親父と一緒に飛ぶ空は格別だった。空の安全とかより、海の地平線を眺めている方がよっぽど性に合っていた。
ただ、地上に居たくないだけだったかもしれない。
「お前アレな、手綱緩すぎんぞ」
「いや、でも、こいつがキツイと飛びづれーかなって」
「緩いと操作に支障出るから」
空の上でも、規則やら人間は変わらないらしい。
なんでえ、ちょっと先輩だからって、手綱なんて飛竜との相性で決めるんじゃないか。何が分かるっていうんだ。
「へー・・・い」
「なんだ」
「なんでもねっす」
締める振りをしただけで、長さは変えなかった。
「なんだよ、ロクに出来ねーのか、オラ貸せよ」
愛竜のエッグが小さく悲鳴を上げた。
「ちょ・・・いやがってる・・!」
「は?人が心配してんのに」
次の瞬間、堪忍袋の緒が切れた。
「やめろっつてんだろ!!」
気が付くと先輩の手を振り払っていた。
「はは・・・こいつやりやがった、なんだ、キレやがって」
「こいつがキツかったら落ちんのは俺だ!!触んなボケ!!」
「報告っすっからな、覚えてろよ」
上等だ、とへの字口に口を結んで哨戒を続けた。先程よりお互いの距離は遠いものとなる。せっかく空に出て自由になれたと思ったのに。
グランはワイバーンの頭をそっとなでてやる。
「気にするでない、空は楽しく飛ばねばな」
「シナモン先輩…あの人、先輩の同期っすよね」
「うむ、シュネッケン殿は我輩の同期である」
「あの・・・その、あの性格は」
「気にするでないのである」
「はぁ・・・」
この人ももうちょっと合理的配慮してくれたらなあ、とグランはシナモン先輩も基本いい人なのに、とフォローを入れた。
「ん・・・?なんだありゃあ」
前方に飛空挺が見えた、飛空挺とは翼を取り付けた造船である。
「観光であるかな?」
「なんでしょうね、極楽鳥の渡航はまだ先ですよ」
「お前、見て来いよ」
「嫌です、連絡なく近づくのは渡航違反ですから」
「あぁ!?」
「飛竜がおびえます、わかりました、俺行きます」
少々のことは仕方ないが、あとで説教かレポートは避けられないだろう、だが、ジャスミンもこの先輩のことは把握しており、わざわざ言ったりはしない。
「全く、ジャスミンのおっちゃんも人が悪いぜ…あんなやつと二話目から組んで哨戒なんて・・・」
近づいてみると様子がおかしい。全員が同じ雰囲気ではなかった、顔を隠した数人は武装しており、元の乗組員と思われる数人は手を頭の後ろで組んで伏せている。眺めていたら、軽い破裂音が鳴り、こちらに向けて発砲しているようだ。
「うわ、うわわっ!!」
急いで飛竜をUターンさせて、二人に報告する。
「やべえっす!!あの飛空挺襲われてる!!」
「本当であるか!?」
「どうしましょう、人質に取られてて、助けないと」
「はぁ・・・?お前さ、俺ら関係あるか、国際問題になる可能性あるぞ」
「っ・・・!」
こういうときの理屈だけは達者だな、と、無理無理行こうと手綱を握る。
「はぁ!?てっめ待て!!」
その瞬間、先輩の飛竜はびっくりしたのか、暴れてしまう。
「大人しくしろ!!このっ!!」
無視を決め込んで行こうとも思ったが一応ペアなので
「手綱離して!」
と声をかけたのもつかの間。
飛竜は頭を大きく下に向けた。その反動でシュネッケン先輩は腕ごと前に持って行かれる。
「うわっとお!お!!お!!」
上半身がずり落ち、投げ出された。
「あぶない!」
グランは手をつかみ、なんとか持ち直せそうであった。
「はぁ・・はぁ・・・」
「はぁ…!はぁ…!大丈夫ですか」
「お前が勝手な行動するから…」
「あ、握力限界ですわ」
「なっ、てめえええええええぇぇぇぇぇ…ぇぇぇぇぇ…ぇぇぇ………」
先輩はそのまま海に落下していった。
「先輩っ・・・!俺、整備を怠らない先輩の注意、マジ感動しましたっす!マジありがとうっす!!これまでクソありがとうございました!!クソありがとうございます!!クソありがとうございます!!」
同行していたシナモン先輩もグランを見ると
「うむ、救助しようとしたがやむなしであるな、では飛空挺に参るか」
「参りまっしょ!」
ちなみにあんまり落下すると適性無しとなり空には上げてもらえなくなる。彼は確かもうすでに今期2回落下しており、もう空に上がる可能性はあまりないだろう。手綱をきつくしていたのもそのせいなのか。ワイバーンは人の心に聡い、きっとそれが彼の飛竜駆りとしての寿命だったのだ。
空になったワイバーンのクリスタルホルダーに新しいクリスタルを入れて、安全なルートでソルベットの飛空挺団に帰るよう指示をした。
「大丈夫であるか!!」
「ソルベット国飛空挺団参上!!武器を捨てなあ!!」
ところが一同はきょとんとした風情である。
「?おい、あんたさっき、俺に発砲したろ!!」
「いや、あれは空砲ですよ、ハンドシグナルで『積乱雲アリ、風強シ注意』を送ったはずですが・・・」
「えっ・・・」
伏せていたのは風が強かったからのようである。
「見たであるか?」
「いや~~~ハハハ・・・じゃ、じゃあ!その武装した人たちは!!」
「あっれー、グラン兄ちゃんじゃん」
「ペッパー、どうしてここに!?」
「どーしてって、そりゃあ、俺達はこの船の警備の点検をしに来たんだよ、なっ!」
おうともよ、と、近くで見れば可愛い顔をしている強面の武器商人たちがズラリである。
「勘違いだったようであるな。平和で何よりである」
グランは顔が真っ赤になり、穴があったら入りたい気分だった。
ドラゴンスカイ 但野新一 @negimiku
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