04

 着々と強化カードを集め、ラミアをクロスした状態の動きになれるように散策するミチル。

 ブロック塀のゴーレムがいた建設途中の敷地からかなり離れた場所――対極と言っても過言ではない場所に黒い異形が二十体程一塊に集まっている空き地があった。

「十中八九、あれが門番だよね……あむっ」

 少し遠目から空地を観察し、チキンカツバーガーに齧りつくミチル。

「廃校の倍はいるから、大きさも倍くらいになるのかな? それとも二体になるとか? まぁ、それも実際に踏み込まないと分からないか」

 チキンカツバーガーを食べ終え、水で喉を潤したミチルは腰のホルダーから【ラミア;Lv1】のカードを取り出してプロセッサーへと入れる。


『【ラミア:Lv1】クロス』


 黒い靄が彼女のか全身を包み、ラミアの力を授ける。

「っし、いっちょ行ってみますか」

 ミチルは下半身をくねらせて空地へと侵入する。

 空地に地被けば不可視の力が彼女を誘い、見えない壁が空地を隔離する。

 ミチルが空地へと足を踏み入れると、廃校の時のように黒い異形は共食いを始める。二十から十へ、銃から五へ、五から三、三から二。そして、残った二体は大きいものが勝利し、その身体を変化させていく。

 廃校の時は四本脚の蜘蛛と呼ぶに相応しい形であった。しかし、今回は違う。身体はややS字にくねり、鳥の足に羽の無い翼が伸びて行く。

 嘴の無い黒い鳥。羽毛が生えていない身体はやや丸みを帯び、それでいて一歩踏み締める毎にぷるんと揺れる。

 ぷるんぷるんと揺れる身体にミチルは目を奪われかけるも、頭を振って三叉の槍を構える。何せ、相手はミチルの二倍近い大きさを誇っているのだ。決して可愛いとは言い切れず黒い異形そのものの顔がついているので不気味さの方が際立っている。

 鳥の異形は大口を開けると、そのままどたどたと歩みを速め、翼をばたつかせながらミチルへと駆け寄っていく。まるで餌を見付けたかのように。

 ミチルはギリギリまで鳥の異形を近付け、異形が齧り付く為に頭を振り下ろしてきた瞬間に股下を潜り抜ける。

 その際に三叉の槍で股下をひっかく。

 深く切り裂く感覚が伝わり、ミチルは直ぐ様体を反転させて二本の足を切りつける。ざくっと小気味よく切れたが切り落とすまでには至らなかった。

 だが、半ばまで切れたので二本の足で歩く事は困難になった。一歩踏み締めれば体勢を崩し、踏ん張ろうとしても力が入らず鳥の異形はその場に突っ込むように倒れ伏す。

 ミチルは見るからに出来た隙を逃すまいと三叉の槍でまず足を完全に切り落とし、次いで翼を切り裂こうと振るう。

 しかし、彼女が翼へと槍を振るうよりも早く鳥の意魚は翼をはばたかせる。すると、巨体は空へと浮かび飛び始めたではないか。

「うわぁ、あれで飛べるんだ」

 空に逃げられ、槍のリーチを浮かしても届かない場所まで飛翔されてしまい、ミチルは翼をはばたかせて空を飛ぶ鳥の異形を見上げる。

「攻撃は当たらない時はっと」

 ミチルは僅かに口をすぼめ、口笛を吹き始める。

 未だに長時間吹く事は出来ないが、一度区切りをつけて連続で吹く事により疑似的に長時間吹いた時に近い効果を生み出す。

 時折口から空気だけが漏れ出るが、それでも最少一瞬、最大二秒の口笛の音を訊いた鳥の異形ははばたかせる翼の動きが鈍くなり、一気に下降して行く。

 槍が届く歯にまで降りて来た所で、ミチルは一気に左の翼目掛けて槍を突き刺し、力任せに裂くように引っ張る。

 ぶちぶちと音を立てながら翼は裂かれ、跳ぶ事が出来なくなり鳥の異形は地面へと激突する。

「またもやチャンス到来っ」

 ここで【ラミア:Lv1】のクロス時間を終え、排出されたカードを手に取るとホルダーに仕舞い込む。そして入れ替わりに【リザードマン:Lv2】を取り出してプロセッサーへと挿入する。


『【リザードマン:Lv2】クロス』


 黒い靄が纏わり、リザードマンの力を宿したミチルはサイズを首目掛けて振り下ろす。一撃では三分の一までしか切れなかったので、続けて二撃繰り出す。

 ごとりと首は落ち、頭部を失った身体は動きを止め、光となって消えて行く。それと同時にがしゃんと何かが倒れるような音が遠くから響いてくる。

「っしゃ」

 ミチルはガッツポーズを取り、残されたカード三枚を拾い上げる。それぞれ【再生(大)】【スラッシュ:Lv1】【シールド:Lv1】のカードだ。

「にしても、思いの外楽に倒せたね」

 手に入れたカードをホルダーに仕舞いながらミチルは先の戦いを顧みる。

「怪我一つなし。息切れも無し。攻撃は殆ど当たった。これもきちんと強化して挑んだからかねぇ」

 現在のミチルの能力値(力、耐久、速度)はこの階層に降り立った時のおよそ二倍まで上げられている。少しでも死なないようにと強化カードを集め地道に強化し、それが功を成したが故に鳥の異形を苦もせず倒す事が出来たのだ。

「これならあのゴーレムもそこまで苦労せず倒せるかな? いやいや、流石に今の鳥よりも強いだろうから、もう少し強化してから倒しに行こうっと」

 ミチルは空地を出てわざと遠回りになるように建設途中の敷地へと向かい、黒い異形を屠っていく。

 力、耐久、速度を更に10向上させ、そこで漸くミチルはブロック塀のゴーレムへと戦いを挑む事にする。

 見た目からラミアの口笛は効果がないと思い、【リザードマン:Lv2】のカードをクロスした状態で建設途中の敷地へと足を踏み入れる。

 足を踏み入れれば、佇んでいたブロック塀のゴーレムはゆっくりと動き出し、ミチルへと向かって行く。

 ミチルはゴーレムが接近するよりも早くに動き出し、右へと回り込む。

 そして、得物の長さを利用して少し距離を置きながら足の部分のブロック塀を剥していく。サイズの刃をブロック塀とブロック塀の間に入れ、引き抜く次いでに引っ掛けて剥し落とす。

 その間、ブロック塀のゴーレムは腕を振り下ろしてミチルを攻撃していくが、軽やかなステップで彼女はそれを回避して行く。

 腕を振り下ろす毎に地面が均され、落ちていた自身の身体の一部に拳が当たれば粉々に砕け散る。当たればただでは済まないだろう。が、ブロック塀のゴーレムの攻撃は今のミチルにとっては遅すぎる物で、余裕を持って避ける事が出来る。

 ある程度脚部のブロック塀を剥すと、自重を支える事が出来なくなり足が崩壊する。脚を失ったブロック塀のゴーレムは仰向けになるように倒れ込む。

 その間に、ミチルは腕のブロック塀を剥しに掛かる。その都度、腕を振り下ろして攻撃してくるが、避けては反対の腕を、また腕を振るって来れば反対の腕をと行き来しながら着実に剥していく。

 まるで駄々をこねる幼子のようなゴーレムの攻撃は砂煙を上げて行き、段々と視界も悪くなっていく。

 しかし、腕を振るう際に風が吹き、更にはゴーレム自体がその場から動けないので視界が悪くなってもさして困る事はなかった。途中でクロス時間が限界を迎えたが、直ぐ様排出されたカードを手に取ってホルダーに戻し、【ラミア:Lv1】のカードをクロスした。

 サイズよりも長い三叉の槍を持って、ブロック塀を剥していく。腕のブロック塀をある程度剥せば、足と同様に強度が下がり腕を振り下ろした衝撃に耐えられずに粉砕される。

 四肢がもがれた状態のブロック塀のゴーレムは身動ぎをするだけで、攻撃は完全に封じられた。

 後はブロック塀を剥し、攻撃を加えれば勝ちだ。ミチルは単調なブロック塀の剥がし作業を続行する。

 顔のブロック塀を剥し、胸、腹と次々と剥していく。

 人間でいう臍の辺りのブロック塀を剥すと、そこに継ぎ接ぎの人形と同じ赤く光る部分が隠れていた。

 ミチルは三叉の槍を赤く光る部分へと突き刺す。赤い光は明滅し、完全に沈黙するとブロック塀のゴーレムは光となって消滅する。後にはカードが二枚残される。

「倒した……けど、うん。何か弱っちかったなぁ」

 やや不完全燃焼なミチルは頬を少し膨らませながらカードを拾う。一枚は【再生(大)】であり、もう一つは【機能拡張(アナライズ)】だ。


『【機能拡張(アナライズ)】

 使用するとプロセッサーにアナライズの機能が追加され、モンスター及び他者のステータスを見る事が出来るようになる。使用すると消滅する。』


 イラストにはプロセッサーが描かれており、使用すれば更なる機能がプロセッサーに追加される。

 丁度ラミアのクロス時間が終わったミチルは早速【機能拡張(アナライズ)】をインストールする。


『【機能拡張(アナライズ)】インストール』

 プロセッサーの液晶でカードが分解され、それと同時にプロセッサーが光に包まれる。

 光が晴れると、プロセッサーに微細な変化が……見受けられなかった。

「あれ? 全然変わってないんですけど」

 ミチルはプロセッサーをまじまじと見て、更にはボタンを押してみても何ら変化を感じられなかった。

「う~~ん?」

 首を捻っていると、目の前に鉄の扉が出現する。次の階層へとの入口だ。

「……まぁ、アナライズを確認しようにも近くに黒い異形はいないし。次の階層に行ってから確認してみよっと」

 ミチルは重い扉を開け、松明に照らされた階段を下りて行く。

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