03

「うわぉ。下半身真っ裸になっちゃったよ」

 早速【ラミア:Lv1】のカードをクロスし、ミチルはその姿を変えた。

 上半身の変化は犬歯がやや長くなり瞳孔が縦に細長くなった意外に見受けられない。しかし、下半身は蛇のそれへと変化した。とは言っても、先程戦ったラミアほど胴体は長くなく、精々元々あった腰から下の部分より少し長いくらいである。

 また、剣は三叉の槍へと変化した。柄の長さはサイズよりも十センチ程長く、三叉の穂先は一度突けば抜けにくくなる返しが備えられている。

 そして、蛇としての形となったからか黒い靄が晴れると着ていた衣服は消えていた。

「う~ん、これって変身解けたら服も元に戻るかな? ……流石に元の姿で腰から下を露出しながら出歩くのはいくら他人がいないからと言っても勇気がいるんですけど……」

 うねうねと下半身をくねらせて移動の練習をしながらミチルは不安を吐露する。

 下半身をくねらせるのは意外と難しく、慣れるまでまだ時間がかかるだろう。ミチルの移動は拙く、あっちへふらふら、こっちへふらふらと真っ直ぐ前に進む事が出来ていない。

「あ、この状態での能力値確認しておこう」

 変身して直ぐに下半身の露出に目が行き、そして移動の練習をしていたミチルははたと思いつき、直ぐ様プロセッサーのボタンを押してステータスを表示する。


『月影ミチル(ラミア:Lv1)

 力 :35

 耐久:32

 速度:25

 精神:9

 耐性:15         』


「おっ、全体にそこそこ上がってるね。って、耐性が10以上増えてる……けど、この耐性って何に対して効力発揮するんだろ?」

 クロス後のステータスを見て、ミチルはふむふむと頷く。

 ラミアを倒した際のミチルのステータスは道中で手に入れた強化カードによりある程度は向上していた。


『月影ミチル

 力 :29

 耐久:27

 速度:21

 精神:6

 耐性:3 』


 今の所精神と耐性の強化カードが手に入っていないので、初期値のままだ。ここまでモンスターを倒して出てこないとなると発生率が限りなく低いのか、それとも次の階層以降手に入れる事が出来るのかもしれないとある程度予測をつける。

「まぁ、まだLv1だからかリザードマンより力、耐久、速度の能力の上り幅は小さいけど、耐性が上がるのは嬉しいな。……本当何に対しての耐性か分からないけど」

 ミチルはステータス表示を消し、再び蛇の身体での移動の練習を始める。

 【ラミア:Lv1】をクロスしておよそ三分が経過した段階でエナジーが切れ、カードがプロセッサーから排出される。それと同時に黒い靄が彼女の身体に纏わり付く。

 黒い靄が晴れれば元の姿に戻り、衣服もきちんと着ている状態となった。

「あ、よかったちゃんと復活した」

 自分の下半身が露出していない事にほっと胸を撫で下ろし、ミチルは町の散策を再開させる。

 道中で遭遇する黒い異形を屠り、強敵のいる場所やそこへと通ずる道を封じているモンスターを探す。

 クロスカードのエナジーが溜まれば、少しでも慣れる為にとクロスして敵を屠っていく。その過程で、【ラミア:Lv1】のカードをクロスした状態で口笛を吹けば、その間モンスターの動きを鈍らせる事が分かった。

 これを活用すれば、強敵と相対しても幾分か戦いやすくなるだろう。問題はミチルは口笛を吹くのが下手で、ガラスをひっかくような音や空っ風が吹き荒ぶような音が口内から発せられる。長くて二秒しか持たない。下手をすれば音を奏でず空気だけが無情に流れるだけだ。

 今まで口笛を吹いた事があまりないのが原因であり、それでも一応音として発する事が出来るのは幸いだ。

 あとはきちんと一定の音が出せるようにする事と、長時間吹き続けられるようにすれば実戦でも活用出来るだろう。

 相手の意表を突くには一瞬だけも吹ければ上々だが、音が出ない時があるので練習は必要不可欠だ。

 散策時に口笛を口ずさみながら、そしてチキンカツバーガーを頬張りながら黒い異形を屠り、着々と能力値を強化していく。

「あ、あれ倒せば次の階層に行けるんじゃない?」

 町の外れまで来ると、そこに進入禁止用の黄と黒の縞模様のバリケードが設置され、立ち入り禁止の看板と工事中の建物が存在していた。建設途中の建物の前にブロック塀を適当にくっつけたような巨人が佇んでいる。容姿としては前の階層の継ぎ接ぎの人形に似てるが、左右の腕は同じ程度の大きさであり、より人間らしくなっている。

「強敵って、ドール系やゴーレム系で固定なのかな? という事はここを塞いでいるモンスターはあの黒い異形の強化体ってパターンになるのが濃厚だよね」

 ミチルは立ち入り禁止の看板の無視してバリケードを避けて立ち入ろうとするも、見えない壁に阻まれ建設途中の敷地内へと入る事が出来ないでいる。

「あー、やっぱ行けないよね。場所は分かったから、ここ塞いでる奴を探しに行こっと」

 踵を返し、ミチルはある種門番となっているモンスターを探す為町中へと戻っていく。

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