第4話 その4


 勝負の場所は、村の広場です。ぐるりと大きく円を描いて、試合場としました。


 珠美さんの武器は、木の枝です。


「ちょっと、私、これしか持っていないんだけど」


「勇者殿なら、それで十分でしょう」


 騎士のアルルさんは、しれっと言います。本当に勝たせるつもりがあるのだろうか。


 対するリタは、剣を持ち出して来ました。


 あ、あれは。


「私はこれで戦います。聖剣! エクスカリバー!」


「えー、ずるいー」


 珠美さんが膨れっ面になりますが、そんなものがこの国に存在しているとは、僕も知りませんでした。あれはよその国の聖剣だと思うのですが……。


 アルルさんも不思議そうな顔をしていますが、これはこれでよしと思ったようです。……本当に珠美さんに勝たせるつもりがあるのだろうか。


「ちょっと、その聖剣、どこで手に入れたの?」


「森で拾いました」


「ずるい! 私も森の中で聖剣を召喚しようとしたのに、来なかった」


 いやですから、聖剣ったってただの剣なんですから、召喚しても飛んで来やしませんよ。


「私が先に拾いました」


「ずるいー」


「勇者殿、いざ!」


「えー」


 リタが聖剣を構えました。しかたがないので、珠美さんも木の棒を構えました。


 アルルさんが片手を挙げて宣言しました。


「はじめッ!」


「てやーっ!」


 リタが聖剣を大きく振りかぶり珠美さんに襲いかかります。そして全力で剣を振り下ろしました。


 振り下ろしただけで、珠美さんは軽々と避けました。次の攻撃も、珠美さんは避けました。


 基本的に振り回しているだけでなので、避けるのは簡単なのです。木の棒で振り払う必要もありません。


 この子、想像以上に素人でした。


 ザシュッ——サッ。


 ザシュッ——サッ。


 ザシュッ——サッ。


 終わりが見えません。しびれを切らしたアルルさんが、低い声で「勇者殿」と言いました。


「了解」


 幾度目かにリタが剣を振り下ろした時、身をかわした珠美さんが地面を蹴りました。俊足で間合いを縮め、一気に懐に入ります。リタが顔をあげる間もないうちに、珠美さんが木の棒で彼女の手首を打ち据えました。剣道で言うところの小手の打ち込みです。


「痛いッ」


 リタが剣から手を離し、聖剣は地面に落下しました。


「勝負あり!」


 アルルさんが片手を挙げました。リタが膝を屈し、泣き崩れました。


 えーと。


 いや、僕は神様ですけれど、こんな展開予想していませんでしたよ。茶番劇にすぎると分かっていたら、最初から茶番劇だと言っていましたから。これはガチが茶番劇になったよい事例です。後世に伝えておきたいですね。


 アルルさんがリタに向かって言いました。


「少女よ。意気込みは評価する。本気で騎士になりたいのであれば、腕を磨き、訓練校のドアを叩きなさい。それと、この聖剣は没収だ」


「……はい」


 今度は珠美さんに向かって言いました。


「勇者タマミ殿。我々はあなたを歓迎する。ようこそ、ローレンシア皇国騎士団——われらが家族へ」


「家族……」


 その言葉に吸い込まれるように、珠美さんはアルルさんの手をとりました。


 彼女にとって、それは異世界で見つけた自分の居場所でした。


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