誓い

 「そりゃお主、恋だろう。恋しかなかろうっ!」

周りのテーブルのサラリーマンやおっさん達の目線が一気にこっちに集まり、苦笑された。だからこいつと居酒屋に来るのは嫌だったんだ。

 「…頼む。頼むからもうちょっと静かに喋ってくれ、雄大ゆうだい。」

何を隠そう、こいつが自分の最も付き合いの長い友達で、かつ何でも相談できる親友でもあった。まぁちょっと変わったところもあったが。例えば、ところどころ武士語で喋るところとか。たしか高校生のときだった、こいつが武士語を取り入れ始めたのは。歴史が大好きで、特に日本史のテストはいつも満点だった。彼曰く、日本史の勉強のしすぎでいつのまにかこういう喋りかたになったらしかった。おかげでクラスだけにとどまらず、学校中の人気者だった。

 「てかなんでそんな自信満々なんだよ。お前に言われてもどうも説得力が…。」

雄大は机を箸でコンっと叩いて立ち上がって言った。

 「お主、忘れたとは言わせんぞ!儂を誰だと存じておる。高校時代十人ものを落としたかの雄大であるぞっ!はっはっはっはっはっ!」

周りの視線どころか、今度は店中の視線がこっちに集まった。そして隣の酔っ払いのおっさんが煽ってきた。

 「いいぞ、兄ちゃん!よっ、天下一!」

 「はっはっはっはっ、はぁっはっはっはぁっ!」

どうやら雄大は相当酔っぱらっているらしかった。そのまま自分は置き去りにされ、隣のおっさん達のテーブルに一升瓶を持って割り込んでいってしまった。

 しかし、雄大の言う通り、やはり恋をしたら女性は綺麗になるのだろうか。だとしたらやはり咲空愛さんの彼氏になって…いや、無理だ。どう考えても。あの人が俺のことを好きになってくれるはずがない。ん?俺のことを?俺はどうなんだ?咲空愛さんのことをどう思っているんだ?

 すでに温くなったビールを口に含みボーっとする頭で考えた。ちょうどそのとき、隣のテーブルから雄大がフラフラで戻ってきた。雄大は席に着くなり言った。

 「で、お主、その咲空愛とやらをどう思っておるのだ?」

残っていたビールを一気に飲み干して、言った。

 「好きだ。咲空愛さんが、好きだ。」

雄大は二カッと笑って一升瓶の中の焼酎を自分のジョッキに注ぎながら言った。

 「それでいい。あとはお主の度胸しだいではないか。その咲空愛とやら、ちょっと難がありそうだが、心配御無用。お主ならなんとかなるわっ!そら、今宵はとくと飲むがよい!」

注がれた焼酎をストレートで口に含んだ。雄大のこの明るさが、こういうときには本当に助かった。自分がフラれたときも、就職活動で悩んだときも、いつでもこいつが助けてくれた。本当に頼りになる親友だった。

 そうだ、俺はできる!気持ちに偽りはない。咲空愛さんを口説いてみせる。そして、綺麗にしてみせる。そう誓った夜だった。

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