第1階層ー8



 忘れてた事と言えば、ララが覚えたスキル《麻痺攻撃》の事だった。


 Point消費以外にもスキルを習得することが出来たんだなと思ったが、多分これはモンスターだけだろうし、そのモンスター固有のスキルのみだろう。ダンジョンマスターはPointを消費しないと習得しない可能性が高い。まだ探索を始めて数十分しか経っていないのでなんとも言えないが。




 それを思い出したのは、コボルトが真横に湧いポップした時のことだった。


 どうやらこのダンジョンはモンスターが自動で復活するらしく、そこらへんもゲームっぽいなぁと思いながらポップしたゼリーを倒していたのだが、コボルトが真横にポップしたのは初めてだったので物凄くビックリした。ララもビックリしてキーと鳴いていた。コボルトもビックリして目を点にしていた。


 俺は頭の中が真っ白になってしまって咄嗟の判断が出来ずにいると、コボルトがナイフを構えて此方へとそれを突き出してきた。


「ッッ!」


 後ずさって攻撃をなんとかかわしてみようとするが、無情にもそれは右腕をシャツとともに切り裂く。


「ぃぎッ!?」


 今まで感じたことの無いほどの痛みと熱さに、顔を歪める。


 不運は続く。無理な体勢で攻撃をかわそうとしたために足をもつれさせてコボルトの目の前で尻餅をついてしまったのだ。


 格好悪いが、俺はその体制のまま後ろへと下がる。少しでもコボルトから離れて体制を立て直せなければいけない。腕の傷も、恐らく薬草で治るがそれどころではない。


 やがて、背中が壁に当たってしまう。もう、逃げ場がない。


「ララッ!!」


 叫んだのは本能にしたがって。何か特別な考えがあったわけではなかったが、ここまでコボルトを倒したあの作戦は、まだ失敗したことはない。それを信じて。


 ララは命令したのと同時に四本の糸を吐き出した。この時点で少し違和感はあった。さっきINTを一回上げたのだから、糸の数が増えるのはわかるのだが、幾ら細い状態の糸でも一気に二本も増やせるようになったのかと思った。


 糸はコボルトをはりつけ状に首と両手に三本巻き付き拘束した。コボルトは抵抗したが、硬さも上がっている上に片手片手が独立して拘束されてしまっているために、力一杯引きちぎるということも出来ずにいるようだ。


 今のうちに俺は薬草を使って傷を治す。あれなら少しの間は持つだろうし、右腕が痛すぎて剣が碌に持てる気がしなかったのだ。これが利き腕と逆の腕ならまだ無茶もできただろうが、ここは急いで治療することを選ぶ。ポケットから薬草を2枚程取り出して傷口に押し当てる。薬草が傷に光となって吸収されるまでのラグで、力強く押し付けすぎたのか痛みが一気に増したが歯を食いしばって我慢する。さっきのララもこんな痛かったのだろうか。悪いことをした。


 と、その間も勿論俺はコボルトから目を離しては居なかった。いつ何が起こっても良いように立ち上がりながら治療を続ける。


 その時、ふと気になったのが、コボルトを拘束している糸の数だった。


 コボルトを拘束しているのは、首と右腕左腕の三本。しかしララが出した糸は四本だった筈だ。



 その四本目は、コボルトの目の前でふらふらと浮いていた。何をしているんだろうと思っていると、なんとその糸がコボルトの胴体へと突き刺さったのだ。


「なっ」


 思わず驚嘆の声が出る。幾ら硬くなったとしても、糸は糸。刺さるとは思わなかったのだ。


 しかし、驚きはそこで止まらなかった。


 チャリーンと、金属音が鳴る。ビクリと驚きながらコボルトを良く見ると、ナイフを手から落としているようだった。どうしたんだと良く観察していると、コボルトの手が小刻みに震えていた。その震えは次第に大きくなり、ビクンビクンと脈動するようになる。抵抗しているわけではないようだった。その目は焦点が合わず、どこを見ているのがわかない。


 何が起こっているのか良く分からなかったが、好機だと思った。


 すっかり傷口の消えた右腕を確かめブロンズソードを握り直す。


 そのままコボルトの後ろへと回って、十二分に体重を掛けて突き刺した。


 数秒もすると、コボルトは、光となって消えた。




《カイのLevelが3に上がりました。能力値が上がります。》




 久しぶりに聞いた自分のLevelUPのアナウンスに少し嬉しくなったがそれより気になることがある。


「今のなんだ?」


 ララの前にしゃがみ込み聞いてみる。


 すると、ララは二本の糸を生成し―――――いや、良く見ると、それは口からではなく、腹の下から出ているようだった。色も白っぽいが、質感は糸とは違う感じがした。腹の下から出てきたそれは細長く、先端が少し丸まっているような形状で。触手、のような見た目をしていた。


 さっきまではこんな事できなかったよな…?と思い、そしてこの時にやっと思い出したのだ。先程Levelが5に上がった時に確かスキルを覚えていた事に。



――――――――――――――――――――――――


Name ララ


Type クローラー


Level 5


Status 健康


Skill 《麻痺攻撃》


――――――――――――――――――――――――



 ダンジョンマスターよりも簡素なモンスターのステータスを見ながら麻痺攻撃のスキルをタップしてみる。



 麻痺攻撃…全身を麻痺状態にする。効果はLevelによって上昇する。



 成る程、中々使えそうなスキルだ。糸による拘束と、麻痺攻撃による拘束。2種類の技を身に付けたわけだ。もし糸が引きちぎられてもその前に麻痺攻撃を使えていれば万々歳だろう。


 ただ、効果はLevelによって変わるみたいなのでDEXやINTは多分関係ないだろう。未だにこのLevelって言うのが何を指しているのか少し曖昧だが。やっぱりその者自身のLevelで良いんだろうか。


 うーん、ここらへんも説明が足りないよなー。チュートリアルだとか言いながら色々不親切な点が多い様な気もする。


 今は、良いか。別に完全攻略を目指しているわけじゃないし。Levelが5になるまでだ。うん。


 俺はそう頭に良い聞かせながら道を進んだ。









 恐い思いも一杯した。痛い思いもしたばかりだ。


 でも、どこか非日常でゲーム的なこの世界を楽しく感じてきてる自分も居て


 それに――――――


 もし、俺がLevel5になった後、一度もこの世界へ来なかった場合。


 ララは、どうなるんだろうと。


 今はあまり、考えたくなかった。

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