第1階層ー7



 「ララ、正座だ。」


 ララのステータスを開き、成長させる能力値をINTに選んだ後、宝箱の前で俺はそういった。しかしララはそもそも虫で、二足歩行動物ではないので勿論そんなことはできない。キューと今までとは少し違った声が聞こえた。困惑しているらしい。


 仕方ないので俺がララの前に正座する。


 ダンジョン内の宝箱前で、デカイ芋虫と共に座る男。シュールだ。




 俺は怒っていた。


 「なんであんなことした。」


 俺の雰囲気が違うことに気づいたのかララがそわそわしだした。いや、もぞもぞしだした。


 別に命令にないことをした事だったり、命令を無視したことを怒っているわけではなかった。


 勿論それもあるが、どちらかというと瑣末さまつな事で。使役モンスターだからといって命令で束縛する気もないし、そんな傲慢でもない。行動の自由くらいは与えてやるつもりだ。


 だが、だからといってしつけはキチンとしなければならないだろう。



 俺が今回怒っているのは、もしララの行動が失敗したらどうなっていたかという事だ。


 もし糸が巻けずに外れたら。もし俺が着く前に糸が千切れたら。どうなっていたか。



 ―――――二匹のコボルトと同時に戦闘をしなければならなかっただろう。その危険性を分かって欲しかった。


 今回は運が良かったと見たほうが良い。コボルトが背も小さい小人だからこそ、体重も軽かったという点も大きかっただろう。もう少し大きい固体だったら重さに耐え切れず千切れていた可能性もある。


 二本同時に糸を吐くと、まだ細い糸しか出せない。今回のレベルアップでINTを上げたので多少は二本同時でも太くは出来るようになっただろうが、それでも抵抗されても千切れない強度というのは一本で太い糸を吐いた時の話。


 もしかしたら、もう少しコボルトの息が続けば千切れていたかもしれない。刃物で糸を切られて脱出された可能性もある。


 今の俺たちにはまだ二匹のコボルトを同時に相手取れる力がない。


「わかるか?そうなれば俺も、お前だって危なかったんだぞ。」


 キューと鳴いた。うーん、わかってるんだろうか。というかなんで俺は虫相手に真剣に説教してるんだろうか……。


 馬鹿らしくなってきたので、「もう無茶はするなよ。」と締めくくってその場を収めた。



 なんだか雰囲気が重たくなってしまったので、早々とその空気を変えるべく箱を開けることにした。


 ダンジョンっぽい。まさに宝箱。装飾などはないが木製で鉄っぽい外枠、形などは誰もが知っている蓋部分が蒲鉾かまぼこ状の保存箱。


 宝箱と向き合いしゃがみ込む。どうやって開けるんだろうかと思ったが意外と口の所に取っ手があるのが分かった。


 罠とかは合っても判らないし、解除することもできないのでさっさと開けてみる。


 ガパッと開けてみると、毒矢が飛び出してきた!なんてことは一切なく、一つのアイテムが大事そうに仕舞われているだけだった。


 少しボロい布が巻いてある細長いもの。中から取り出して布を引き剥がしてみると、その全貌が見えた。


 「剣、か。」


 全体的に赤茶けたそれは、日本人なら誰もが硬貨でみたことのある色合い。


 装飾も特に凝った様子はなく、ただ柄と刃があるだけのそれはまさに何かを斬るためのものというものが分かる。長さは石の剣とあまり変わらなかった。ただ、切れ味はその色合いからあまり良さそうに見えない。


 ―――――銅の剣、てやつか。


 石の剣を一度置いて、銅の剣を握ってみる。振ってみた感触からすると、石の剣よりは少し軽い気もする。



 そういえば、武器を持ってから一度もステータス画面でEquipment、つまり装備画面を見たことなかったような気がする。



Equipment

Weapon  ブロンズソード

head     無し

hand     無し

body     無し

leg      無し

foot     無し


point 281



 ブロンズソードか。なんというか、そのまんまだな。石の剣よりかは軽く、その刃の光から、切れ味も良さそうなのは素人目にもわかる。これなら多少は小回りも利くようになる、と思う。……無理かな。俺の技量的に。


 そういえばコボルトのドロップアイテムもこの方法で見ることができるんじゃないだろうか?


 そう思いブロンズソードを石の剣の横に置いて、刃物を腰のベルトから引き抜く。


 ステータスにはこう表示された。



Equipment

Weapon  コボルトナイフ



 まぁこう表記されるのは当たり前だ。名前はコボルトナイフというらしい。見た感じ何の金属かは分からない。鉄っぽい色をしているが、金属って殆どはこんなんじゃないだろうか。


 確認が終わったので、コボルトナイフを腰に差込み直しブロンズソードを拾って―――



 あー、どうすっか。石の剣。もう持ちきれない。両手装備!だなんて格好良いことも勿論できない。技量的にも、重量的にも。


 なんとも不便だ。なんかこう、便利な機能とかないのか。ゲーム風に言うなら、インベントリとか。



 ないか。ないな。



 仕方ないので石の剣は置いていくことにした。そのまま棄て置くのも忍びなかったので、ブロンズソードを巻いていた布をそのまま石の剣に被せ直し、宝箱の中に入れておくことにした。


「よーし、行くぞララ。」


 この道も行き止まりだった。先に進むのならば正解は真ん中の道だったのだろう。しかし薬草が生えていた壁を見つけたりブロンズソードの宝箱を見つけたり、その道筋は順調とも言える。幸運かもしれない。


 湧いたゼリーを叩き斬りながら、俺達は道を戻っていくのだった。






 はて、何か忘れている気がする……。

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