第1階層ー5
それは、犬の頭を持った小人だった。
小人と言っても通常の大人よりも小さいというだけで、大体120~130cm位であろうその体格から、小人…というよりももしかしたら子供と言った方が的確かもしれない。
―――――コボルトだ。直感でそう思った。
犬の頭に体は人間。上半身は裸だが少し筋肉質で手も指もある。右手に何か持っているようだが、ここからでは良く見えなかった。指は人間と同じ見た目で、五指ちゃんとある。下半身はズボンを穿いているが靴は履いてないようで素足が見える。足の方は犬だった。
化け物だ、と思った。
クローラーはまだ見れた。現実に見たことのあるイモムシがただデカくなっただけだから。それでも最初はちょっと驚いたが今では少し情すら出てきた。
ゼリーはどこかポップな感じがして可愛かった。確かになんでこんな塊が動いているんだろうという疑問があったが、その見た目もやっぱり現実で、しかも食べ物として見てたからか恐怖感もさして無かった。
だが、目の前のアイツは違う。一度もあんなの見たことも無い。当たり前だ。現代日本にあんなの居るわけが無い。漫画やアニメで見るのとは違う。圧倒的リアルな質感。
ゴクリと喉がなった。
恐い。どうする?
怖い。逃げるか?
コワイ。倒すか?
こわい。どうやって?
駄目だ。パニクるな。まずはさっきの通路に逃げるべきだ。行き止まりではあったが、アイツはまだこっちに気づいていない。一度身を隠して考えを纏めるべきだ。冷静になるべきだ。
後ろに並んでいたララに後ろ手で下がれと合図しながら、自分も後退する。
ザリと、足音がなった。凄く小さな音のはずなのに、それがやけに大きく耳を打った。背中が冷たくなる。冷や汗なんてレベルじゃなく。
グルンと、コボルトがこっちを向いた。
「イ…ッ!?」
ビックリしすぎて声が掠れる。碌な音は出なかった。
なんで?足音が聞こえたのか?そうか、頭が犬だから耳は良いのか?どこかそんな見当違いな事を考える。そうじゃないだろう。今はこの場をどうすれば良いのか考えろ!
「―グルルッ」
唸り声が聞こえた。当然前方コボルトの方向から。明らかに此方を睨んでいる。なぜだ?戦闘が苦手で好戦的な種族ではないんじゃなかったのか?野生のモンスターは違うってか?ズルすぎるだろその設定。クソゲーじゃねーか。
その時揺れた松明の灯りの反射でキラリと、コボルトの右手に持っていたものが何なのか見えた。見えてしまった。
刃物だ。あれは、モノを切るものだ。なら、コイツが切ろうとしてるのは何だ?
俺、か。
コボルトが地を蹴った。結構な速さで、近寄ってくる。
おいおい、こんな狭いところで走るなよ。そんなんじゃすぐ
すぐ、届いちまう。
「う、あ…!」
死なないとは聞いていた。でもそんなもの確証がない。確証を得る為に死ぬのも嫌だ。痛いのも嫌だ。
でも、足も、手も、動かなかった。逃げることも、剣を振ることもできなかった。
思わず剣を落として、腕で顔を庇った。お腹を刺されるかもとか、そんなことは考えなかった。そもそも防御の為に顔を庇ったわけじゃない。
ただ、眼を逸らしたかっただけだ。
ただ、恐怖そのものから眼を逸らしただけだ。
また石の剣が床とぶつかりガシャンと大きな音を立てた。
恐怖でぎゅっと眼を
そして、キーと奇声のような良くわからない音が鳴った。
「え…?」
衝撃はいつまで経っても来なかった。その代わりに鳴った音にビックリして、俺は目を開けた。
そこには、刃物に刺されて緑色の血を流すララと、それに刃物を突き立てるコボルトの姿があった。
「ラッ…!」
お前は、さっきまで俺の後ろに居ただろ!なんで、俺の前に居る!?
「グルルッ」
コボルトは俺に眼もくれず刃物をぐちゅぐちゅとかき回し肉を抉った。キーと奇声が響く。どうやら、ララの鳴き声らしかった。声帯があったのかお前とか、俺のこと庇ったのかとか色々言いたいことはある。
だが、今はそんなことはどうでも良かった。
「イッ…い加減にしろぉ!」
思わず取り落とした剣を飛び越えて、そのまま蹴りかかった。鼻先を掠ったのか手ごたえは少なかったものの、コボルトはキャンと鳴いて後ろへと下がった。ちゃっかりと刃物は握ったままだった。緑色の血と思わしき液体が滴り落ちる。
その隙に振り返って石の剣を拾う。
「ララ、お前はここにいろ!」
薬草を使うことも考えたが今そんな暇はない。ならば、さっさと倒す。どうせゼリーの次に表示されるような奴だ。大したことはない!
さっきまであった恐怖感を、ララを傷つけた怒りと、自分の不甲斐無さで吹き飛ばす。もしかしたら、一種の恐慌状態だったのかもしれない。それでも、この時はその怒りに任せるしかなかった。
石の剣を抱えて走る。重いし、剥き出しの刃物だ。専用の防具をつけてるわけでもないので肩に担ぐことも出来ないため、そのまま手で持つしかない。速度は出ない。それでもコボルトに追いつくには十分だった。剣を振る。
しかし、ガン!と剣は地面を叩いただけだった。外した。手が痺れるが我慢して、一度逃げる。バックステップなんて格好良いことはできない。無様だが、どうでも良かった。今は、コボルトを倒す。それだけ。
もう一度剣を振る。が、当たらない。振る。当たらない。
コボルトが器用に攻撃をかわしていた、というわけではない。
俺の剣の振り方が雑で、つまり、下手すぎたのだ。
「クッソ!」
こんなことなら剣術スキルを取って置くんだったと後悔するが、もう遅い。
そろそろ腕が上がりづらくなって来た。と、思ったときだった。コボルトが刃物を此方に向けて突っ込んできた。
上等だ。そのままぶっ殺してやる。と、後々になって冷静に考えてみればよくそんなこと考えられたなと思う。いつもなら絶対恐怖でその攻撃をよけるかどうかした筈だった。
しかし、コボルトの持つ刃物はどうみてもナイフ程度の小さいもので、リーチは此方の方が上だ。スピードは劣るかもしれないが、やってやる。と、その時は思ったのだ。
「おおおっ!!」
剣を持ち上げて、振るう。しかし、どう見ても俺の方が遅い。持ち上げるのに時間を掛けすぎた。
刃物はお腹へと吸い込まれ―――――
「グルァ!?」
その時だった。真横から、何かが飛んできてコボルトの腕ごと刃物に巻きついたのだ。コボルトはそれを引きちぎろうとするが中々解けない。
ハッと何かが飛んできた方向を見てみると、シュルシュルと不思議な音を出しながら口から糸を吐き出しているララの姿があった。
確かに、そんな特技も説明文にはあったな。忘れてたよ。
剣を、力一杯振った。
剣は糸ごとコボルトの腕を切る。糸は切れたが、切れ味が悪すぎたのか腕は切り落とすまではいかなかった。しかし見るからに肉が抉れ、白っぽいナニかが見える程の大怪我だ。手に持っていた刃物も取り落としている。吹き出たコボルトの血が顔にかかる。今は、どうでも良い。
武器をなくし大怪我を負ったコボルトが不利を悟ったのか逃げ出そうと背を向ける。させるか!
俺は最後の力を振り絞り体当たりをし、そして、その背中に剣を突き刺した。
ギャンと、何かが押しつぶされるような声を出したかと思うと、コボルトはゼリーと同じように光となり消え去った。断末魔だったらしい。
そして俺は、
「うがっ。」
体当たりをしたままコボルトが消えてしまったため、支えがなくなり倒れこんでしまった。ガシャンと石の剣をまた落としてしまう。
「ってぇー…。」
でも、勝った。
寝転がったまま俺はこぶしを握り締めた。
気づけば息も切れ切れで、腕も痛いが。
でも、なんとか生き残れた。
《カイのLevelが2に上がりました。能力値が上がります。初回LevelUPボーナス。Pointが100pt加算されます。》
《ララ(クローラー)Levelが2に上がりました。調教スキルで成長させる能力値を選択することができます。》
《ララ(クローラー)Levelが3に上がりました。調教スキルで成長させる能力値を選択することができます。》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます