第1階層ー4



 飯を食い終わった後、俺とララは並んで扉の前に立った。勿論石の剣の存在は忘れていない。扉の隣に立てかけてあるそれを持ち上げて見る。長さは大体70~80cm位といった所か。自分目安ではあるが。


 造型は西洋に良く見られる両刃の剣だ。これをショートソードと呼ぶのかロングソードと呼ぶのかはわからない。そこまでそういうことには詳しくはない。


「重ッ…?!」


 思わぬ重量に手が滑って剣を落としてしまった。ガシャンと石と石とがぶつかるデカイ音が鳴り響いた。隣でララがビクリと反応した。すまん。


 しかし考えれば分かることだった。確かにこんなただ剣の形をした石の塊、重いに決まっている。造型は粗末なもので、ソレは本当に「ただの石で出来た剣」だったのだ。多分、8~9kgくらいはあるだろう。しかしこれが使えないとモンスターに対抗する手段がない。素手で殴るなんてのも考えたが、まず喧嘩慣れしてない俺のコブシでは威力が期待できないし、そもそも殺傷能力が無い。


 それなら、多少重くても、刃物を使った方がいいだろう。さっきは想像していたよりも重くてビックリしたから落としてしまったが、片手でも持てない程の重量ではない。両手を使えば振ることもできるだろう。


 剣なんて振ったこともないため、振り方もわからないし、重量で体が振り回されてしまうのは目に見えているが。


 剣を持ち直し扉に手を掛ける。



 剣とは逆に、扉は軽々と開いてしまった。石の様な重量感が感じられず楽々と押せた。ズズズと地面を引きずる音と共にジャリジャリとした感触もする。どうやら外側は内とは作りが違うらしく、砂利がっていた。


 剣をガリガリと引きずり、外に出てみる。


 外は、一本道となっていた。広さで言うなら大体横に6人くらいは楽々通れる広さだ。ただそれに対して天井は低く、腕を伸ばすと剣が擦れて破片が俟った。材質は土だったり、石畳だったり。どちらかというと石作りの壁や床が目立つ。土はたまに穴が開いていたから、そこからこぼれてしまっているのだろう。


 まさにダンジョンというか遺跡っぽいというか、そんな感じがした。別の属性を選んでいたらどうなっていたんだろうか?火だと火山とか?そう考えると初心者向けというのもなんとなく分かる。進みやすそうな道だし。



 俺とララは横に並んで歩き出してみる。そういえばここも閉鎖された空間だが光源はどうなっているんだろうと思ったら、たまに松明が壁に掛かっているのが見えた。うーん、ダンジョンっぽい。そういえば最初の大きい空間も松明が…あれ?あったか?いや石壁と石畳しか見えなかった気が…。ま、まぁ良いや。



 少し進んでみると変な音が聞こえてきた。ここまで一直線で曲がり角もなく、いつモンスターが出てくるんだろうと思っていた所にだ。驚かせるな心臓がバクバクする。


 その変な音とは、ビチャリという粘質な塊が落ちたような音だった。それは、前方から。


 ビチャリビチャリと断続的に聞こえてくる。


 それは、青い半透明な塊だった。


「これがゼリーか?」


 Monsterモンスターの欄の一番上に載っていた一番安い奴の説明文を思い出す。確かこんな奴だった筈だ。弱いって言われてた奴か。確かに弱そうだ。某ゲームのスライムとかとは違って目と口があったり、塊の中に核があったりはしなかったが、ただプルプル震えているその塊はなんだか見てると…。


 確かに、これはゼリーだ。うん。食べたくなってきたな。あ、いや、コイツをじゃないぞ?


 と、誰に向けた弁明かも分からず頭を振る。



 とりあえず初戦闘だ。ここはララを仕向けてみる。幾らシステムから弱いと断言されていても未知のモノは恐い。当たり前だ。


「行け!ララ!」


「…。」


 返事はないがキチンとララは反応してゼリーへと向かってくれる。返事がないと少し寂しい気もするがそこはしょうがない。虫に声帯なんてものはないのだ。多分。


 ララはゼリーに体当たりした。ポヨンと、ゼリーが跳ねる。


「…ん?」


 それだけだった。ゼリーはただ跳ねただけでなんの反応も起こさないし、体が欠けたりなど、ダメージを負ったような素振りも見せなかった。


 これはゼリーが元々そういうモノで、ダメージが目に見えないだけなのかそれとも



 ララが弱いのか?


「と、とりあえずゼリーを倒してみろ。」


 ララは続けて体当たりをしてみるが、ゼリーはポヨンポヨンと跳ねるだけだった。どうすれば良いだろう。思ったより時間が掛かっている。


 と、何回目の体当たりかも分からなくなったとき、大きくブルリと震えたかと思うと溶けて消滅した。


 やっと倒せたってことなんだろうか?


 Point残高を見てみると26になっていた。確か此処を出る前、食材を買った後に見てみると25だった筈だ。


 ゼリー一匹で1pt…?一匹購入するのに20pt必要なのに…?二十匹倒してやっと一匹計算?割りに合わない。そもそもそういう計算の仕方ではないのかも知れない。もしくは購入して手に入るモンスターはちょっと補正出て強くなって…あり得ないか。


 まぁでも決めた。ゼリーは今後も買わん!



 そんなことを心に決めるとまたビチャリビチャリと音が鳴った。今度は赤色のゼリーだった。うーん色でなんか違いがあるのかな?ララの時もそうだったがモンスターの能力値は見れないみたいだしそこは確かめようが無かった。


 次は自分で行って見る。さっきの様子から見て、痛い思いはしなさそうというか楽勝だと思ったからだ。


 ゼリーの前まで来て石の剣を思いっきり振り下ろしてみる。ザクンと多少の手ごたえはあったがすんなりと真っ二つになり…また溶けて消滅した。


「えっ」


 あれで終わり?Pointを見てみると27になっていた。ちゃんと倒したらしい。そ、そうか。ゼリーはそんなもんなのか。これはカモ…にはならないな。どうせ弱いってことは経験値は少ないはずだ。Pointから見てそれは確実だろう。ゼリーじゃ話にならない。Level5になるまでいつまで掛かるか。


 仕方ないので先へ進む。途中でゼリーと何度か会ったが、全部自分で斬り捨てた。ララだと時間が掛かるというか、圧倒的に時間の無駄だ。



 多分、十四匹目くらいだっただろう。ゼリーを斬り倒すと例通り溶けて消滅した。のだが、その後に不思議なことに見慣れないものが落ちていた。さっきまでこんなものはなかったと思うんだが…。


 拾ってみると何かの草、というか、葉っぱだった。広葉だ。良くわからないが多分ゲームでよくあるドロップアイテムという奴だろう。そして序盤で手に入る草と言えば薬草関係。HP回復アイテムだ。


 実際これがそうなのかは全然わからないが、なんだが捨て置くのももったいない気がしたので拾ってポケットに詰めておく。


「…食べてみるか?」


「…フルフル」


 ララは首を横に振った気がした。お腹一杯か。




 その後もゼリーうごかないまと相手に無双しながら道を進んでみる。


「…お?」


 そこで初めて別れ道に出た。道は三つに分かれている。特に何かヒントがあるでもなくただただ分かれているだけみたいだ。正解のルートがあるとかそういうのではないらしい。適当に右端の道へと進んでみる。


 しかしその道はゼリーが数匹居るだけですぐ行き止まりに当たってしまった。特に何もなし、か?


 もはや作業と化したゼリー潰しで掃除をする。お、またドロップアイテムか。また草だな。しかも同じ草。うーん。もしや食材ドロップで雑草なんてことはないだろうな…。いや、さっき買った雑草はもっと見た目が違ったしアレはまさに雑草って見た目をしてた。それに大してこれは葉っぱだ。大丈夫だ。きっと。


 掃除が終わった後周りを見てみる。本当に何も無い行き止まりかどうか見るためだ。


 そういえばララはどうしてるんだろうと見回してみると、見逃していたゼリー相手に体当たりをかましていた。うん、命令しなくても自分から攻撃してくれるのはありがたいんだが、どう見ても遊んでるようにしか見えない。まるでボール遊びをするペットのようだ。ポヨンポヨン。



 行き止まりになっていた壁を調べていると、その隅っこに草が生えているのが見えた。む、もしやとポケットに突っ込んでいた草と見比べてみると同じ見た目をしていた。ラッキーと思いながら草の採取に入る。せっせと摘んでいるとララが隣に戻ってきた。どうやら倒し終わったらしい。そうだ。草食のクローラーならこれらが同じ草なのかわかるだろうか。


「これって同じ草か?」


 それに大してララはコクンと縦に頭を振った。やっぱりか。というか今更だが虫なのにこっちの言葉を理解するんだな。クローラーが人間の言葉を理解できる者なのか、俺がダンジョンマスターだからなのか。


 続けて質問してみる。


「これって薬草…あー、傷を治す効果とかあるか?」


 薬草と言って理解するかどうかわからなかったので言葉を言い換えて見る。ララはまた頷いた。


 その反応に満足した俺はララにお礼を言って薬草採取を続ける。薬草があれば長時間モンスター退治が出来るかもしれない。そうすればすぐにLevelも上がるだろうと思ったからだ。


 全部で12枚くらい摘めた。ドロップと合わせて14つの薬草をゲット。




 しかしゼリーも結構倒したがLevelが上がった気配がない。試しにステータス画面を開いて見る



Level 1


Point 47



 うーん。二十二匹ゼリーを倒してLevelは上がらずか。そこまでゼリーは経験値くれないものなのか。それともそもそも弱すぎて経験値のないモンスターだったりしないだろうな?…それはないか。


 俺はため息を吐きながらさっきの分かれ道の小部屋まで戻る。









 するとそこには、まだ見たことのなかったモンスターが居た。

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