第1階層ー2


 気づくとそこは異世界でした まる。


 俺はまた異空間に突っ立っていた。今度は真っ黒なんてことはないが。


 見た目はコンクリート打ちっぱなし、というよりは白っぽい石で出来ているような無骨な部屋だった。大体四方20m位の正方形の部屋でそれ以外は何もない部屋だ。いや、部屋と呼んでもいいのか分からないようなただちょっと広いだけの空間だった。


 俺はその部屋のほぼ真ん中に立っていて。視界に入るのはそんな石でできた床、天井、壁。そして、正面に見える壁に大き目の扉。


 手前に、何で出来ているのかわからないような台座だった。


 扉はこれまた石造りで、自分から見て前方の壁に備え付けられていた。開くかどうかは分からないが重そうだ。一瞬、外に出られると考えて、やめた。そんな確証はどこにもない。もう少し調べてからでもいいだろう。何よりこの空間は、さっきの真っ暗な空間よりは人の手が掛かっているような感じがして安心感がある。圧迫感もないし、心に余裕を持てる。


 台座は、眼と鼻の先にあった。大体腰ほどまでの高さのそれは四方50cmもないような細長い台座だった。


 しかし、一番眼を引くのはその台座の素材が、鍵と一緒に見えるような幾何学の文様が走った全体的に青っぽい材質であったことと、台座に鍵穴があったことだった。


 まさに鍵を|挿≪さ≫せといわんばかりの穴だ。鍵穴の大きさもピッタリだろう。



 挿そうと思ってちょっとびっくりした。そういえば俺またこの鍵を持ってる。さっき手を離したままだった筈なのに。


 まぁ今までも、というか今までの現象全てが不可思議だったし、今更気にするレベルでもなかった。


 そのまま俺は鍵を挿してみる。


 すると、またホログラムが出てきた。今度は鍵ではなく台座から出ているようだった。



《貴方は今日この時よりダンジョンマスターと成りました。今よりダンジョンマスターとは何か。そしてダンジョン運営をするには何をすれば良いのか。ご説明をさせて頂きたいと思います。》



 今更かと思わず呟いてしまった。しかし、外に出るヒントが隠されてる可能性は高い。それ以上は黙って聞くことにした。


《貴方はこの多種多様なモンスターが巣食っているダンジョンを攻略し、自分の領地を広げていってください。攻略されたダンジョンは貴方のモノになります。放置するもよし。モンスターの楽園にするもよし。罠を沢山しかけてプレイヤーを騙し殺すもよし。貴方の自由です。》


 ここで気になる単語が出てきた。「プレイヤー」とはなんなんだろうか。直訳すれば遊ぶ人、なわけだが。


《ファンタジーな世界を疑似体験していただくのがこのダンジョンの趣旨となります。思う存分遊んで下さい。



 ちなみに、外に出るにはLevelを5まで上げる必要があります。この世界になれて頂く為のチュートリアルとしての措置ですのでご了承下さい。》


 おィ!?ちょtマジsYレにならんしょこれは…?と、思わず謙虚なナイト語になるが何もおかしくはないな。


 いやいや、マジでマジかよ…。


《Levelを上げる方法はただ一つ。モンスターを倒すこと。モンスターを倒せばレベルも上がるしポイントも稼げるしマイダンジョンは広がるし、一石三鳥です。》


 絶望の中、そんなアナウンスが流れる。追い討ちですわ。モンスターってなんだよ。そのまんまの意味なんですか?そうなんですか?スライムとかドラゴンとか出ちゃうんですか?あ、いや最初はゴブリンとか?駄目だ。また混乱してきた。


 ていうか、闘うすべが今の俺にはない。素手だし。持ってるものは昼飯と生卵だけだし。どっかの世界には生卵を弾として打ち出す狙撃手がいるらしいが。


《モンスターと闘うのが怖いという貴方も安心!この世界では怪我は勿論、病気や呪い等にも掛かってしまいますが。死ぬことは決してありません。瀕死状態になったと見なされた瞬間マスタールームまで戻されます。安心して目の前の扉の向こうへ突貫しましょう。》


 それもそれで怖い。どういう原理なのかが全くわからない。もしかしたらこれは全て夢で、俺はあのコンビニで何も無くお昼を買っただけで普通に帰り、今大学の講義中に寝てしまったんじゃないかと錯覚してしまうが、それはないだろう。なんとなくだが。しかし、御話でよくあるように頬を抓って夢かどうか確かめるなんて馬鹿な真似もする気にはなれない。

 今はただ、説明を聞くだけだ。


《それでも怖いと思う方はPointを使いましょう!この説明が終わり次第表示される画面でポイントを消費し、スキルを習得するもよし。モンスターを購入して従えるもよし。残念ながらPointで買えるモノに装備の類はありませんが、救済措置として石の剣が用意されています。しかしそれでモンスターに勝てるかどうかは貴方の気合次第です!》


 気合って、ふざけてんのかコイツ。


 そして確かに、良く見ると前方の扉の横に細長いものが立てかけてあるのが見えた。あれがそうだろうか。



《Pointの画面を終了させたい場合は台座から鍵を抜いてください。また、表示させたい場合は逆に台座に挿していただければいつでもPointを消費してモノを買うことができます。目指せ快適なダンジョンマスターライフ!


 ※ちなみに、ダンジョン運営に最終的な目的は設定されておりません。飽くまでファンタジーな世界を疑似体験していただくための遊戯コンテンツとなります。》



 そこで説明は終了した。ホログラムが消え、その下からこんな画面が現れた。



―――――――――――


Skill▼


Dongeon▼


Monster▼


Daily▼


Food▼


―――――――――――



 なるほど。Pointの画面には5つの選択肢があった。


 どういうわけかわからないが、とりあえず俺は自分のLevelを5まで上げないといけないらしい。なんの冗談かとも思うが、冗談なんかじゃない。今、目の前でおこっている実際の出来事だ。


 ならば、割り切るしかない。とっとと5までレベルを上げてとっととここから出るだけだ。順応人間YESマン。


 ここから出た暁には、思いっきりあの店長ぶん殴ってやる。何の説明もなしに放り投げやがって。


 そして俺はSkillの欄をタップ…せずにそのまま飛ばし、Monsterの欄をタップした。


 実はこの一瞬で既に方向性は決まっていた。


 俺は育成モノのゲームが好きだ。バケモンファームというバケモンを育ててコロシアムで勝ち上がりファームの生計を立て直すというゲームはシリーズ全作持っているし相当やり込んでいたりする。


 自分自身で剣や魔法で闘うのも憧れるし楽しそうだが、パスだ。何より怖い。本当に死ぬことがないのか。モンスターなんてものが出るなら、少しでも慎重になるべきだし、痛いのなんて嫌だ。なら、モンスターに戦わせれば良いじゃない、なんて。



・ゼリー      20pt

・コボルト     50pt

・スモールドッグ  70pt

・クローラー    90pt

・ゴブリン     100pt

・ゴースト     150pt

・グール      250pt

  etc



 なるほど。ほっほー。ふんふんと上から順々にモンスターの名が連ねられている。どうやら安い順・・・というか弱い順のようだ。なんだか楽しくなってきてしまった。


 コボルトやゴブリンは分かるぞ。確かどっちも小人みたいなモンスターで、コボルトは身体は人間だが頭がまんま犬っていう種族だった筈だ。犬ってくらいだし従順度は高そうだが。


 ゴブリンは皆が知ってるアレだと思う。緑の気持ち悪い小人。


 スモールドッグとゴースト、グールもなんとなくわかる。多分名前の通りだろう。しかし、ゼリーとクローラーってなんだ…?

 気になったらタップである。



 ゼリー…ぷるんとした謎の物体。色は赤や青や緑と色々。しかし黄色はいない。弱い

 購入しますか?20pt消費します   Y/N



 スライム…みたいなもんか?俺の想像とはちょっと違うが。黄色は居ないって、なんか意味あんのか?しかも弱いって、弱いってシステム側から断言されちゃったよ。

 一度NOを選択し、今度はクローラーを見てみる。



 クローラー…大きい芋虫。体長は1m~2m程にもなる。しかし動きが鈍いため倒すのは苦労しない。動きを鈍らせる糸が唯一注意すべき点か。※成長しやすい

 購入しますか?90pt消費します   Y/N



 あー、なるほど。確かにそういうのもファンタジー系のゲームとかなら良くみるな。小説だとあんま見ないが。しかし気になる点が一つ。最後の「成長しやすい」とはなんだろうか。


 試しにNoで戻り、コボルトの欄をタップしてみる。



 コボルト…身体は人間だが、犬の頭を持った小人。人の世話をするのが好きで懐き易く家のお手伝いさんとして有名。従順だが戦闘は苦手で余程じゃないと逃げ出すこともある。

 購入しますか?50pt消費します   Y/N



 な、なるほど。ファンタジーのテンプレートとも言えるが戦闘できないのはキツイな。長期でこのダンジョンをプレイ(?)するならまだしも、とりあえず早く出たい俺には関係なさそうだ。


 しかし、肝心の「成長しやすい」のコメントは無かった。良く考えればゼリーにもこの表示はなかった。ぐぬぬ。これは臭い。におうぞ。使えそうなにおいだ。いやしかし早熟って意味で成長の打ち止めも早いってことになったら大変だな…。


 そういえば美人店員が言っていたモンスター無料生産チケットってなんだったんだろう。そんなものは貰わなかったし今も50pt消費されようとしてるし…。もしかして現金で買った場合と景品で当たった場合は違うのだろうか。やっぱり殴ったほうが良いか。


 ていうか、高いモンスター買えば良いのか。さっさとLevel5にして帰るだけなんだし、Point残高1000全部使って強いの一匹とか、そこそこの二匹とか。



 グラスリザード    870pt

 ジャイアントバット  960pt

 大蜘蛛        1000pt



 1000pt近くのモンスターはこんなところだった。大蜘蛛をタップしてみる。



 大蜘蛛…大きいもので全長3mにもなる大蜘蛛。尻から出る糸は刃物でもなまくらでは斬ることが出来ないほどの弾力性と粘着力、堅さを誇る。また、口からでる溶解液は有害で毒性が強い。

 ※現在のLevelだと購入することができません。



 …そうそう上手い話はないということか。それ相応のレベルじゃないと強いモンスターというのは買えないらしい。


 確かめてみた所、結局買えるのは最初に見えるゴーストくらいまでだった。グールすら買えない。


 ま、そうと分かれば一択なんだがな

 ………ポチっとな。



《クローラーを購入しました。》


 残Point 910

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