入口ー2
あらすじ。俺、山野辺 海が1億円相当の商品をくじで引いた。ありえん。
俺は何度も手元のくじを見た。真後ろに飾られ、デデンと描かれたプレートにも引けを取らないような金の縁取りと装飾に眼がチカチカするが、何度見てもそこには「ダンジョン運営権」と書かれていた。
思わず俺は目の前の美人店員さんの顔を見る。店員さんはいつまでもくじを渡してこない自分に首をかしげた。ポニーテールが揺れる。可愛い。可愛いけど今から起こる面倒事を考えると不安でしかない。あぁ可愛いなぁ。間違えた、不安だなぁ。
念のため、俺は後ろに飾られたプレートを見る
ダンジョン運営権 ¥100,000,000
うーん、何度見ても1億円だよなぁ。そしてこのくじに書かれているのも、同じものだよなぁ。
「あの、お客様?」
とりあえずいつまでもこうしてるわけにも行かないので、俺はくじを美人店員さんに渡す。結局ダンジョンが何なのかもわからないままだし、危なそうだったら受け取り断れば良いだろうと思っていたのだ。
「――――――――ッ!!?」
しかし、美人店員さんの反応は、予想にもしていなかったものだった。なんだか心底驚いているというか、ありえないものを見たかのような顔で、そのくじを凝視していた。よくみると肩なんて震えている。どうしたんだろう。なんかいけないことでもしてしまったかと思ってしまう。
「も、もうしわけありません!しょうしょうおまちいただけますか!?」
動揺が隠せないと言った感じに声を震わせた彼女は、顔面を蒼白に彩ったままくじを持ってどこかへと行ってしまった。あれは多分セリフを文字とかに書き起こしたら全部平仮名かカタカナになる勢いの動揺具合だ。
うーん。どうしよう。面倒なことになりそうだし、このまま帰ろうかなぁ。と思っていたら、美人店員さんの声が聞こえてきた。どうやら店員の休憩所へと行っていたらしい。
『て、店長!大変です!』
でも、彼女の声が大きすぎてこっちまで聞こえていた。こんなお昼時でも客が俺しかいないのはこの立地のせいなのか、それが幸いといえば幸いだ。でも逆に不安だ。今俺は一人だ。面倒事が起こったら頼る相手が居ない。むしろ昼時なのに客が俺一人だというのが逆に不安を掻き立てた。唐突に世界に一人だけになったと錯覚する程足元が覚束ない。1億円
しかし店長居たのか。まぁ客が少なかろうとこんなお昼に店員が一人というのもおかしいと思ってはいたが。
彼女の声は続く。
『特賞の「ダンジョン運営権」がくじで出ちゃったんですよ!あれキャンペーン最後の日までくじから抜いとくって話じゃなかったんですか!?』
『何ィ!?』
彼女の声の後に、初めて聞く声が聞こえてきた。野太く、どう聞いても男性だと分かるそれは店長のものだろう。というか今聞いてはいけない裏事情を聞いてしまったような気がしたが、やっぱりそういうのをするところはあるんだなぁと思った。まぁ確かに入れるにしてもいきなり放出しちゃったら補充するわけにも行かないだろうな。額が額だし。それに多分このキャンペーンは今日が初日だろう。昨日まではなかった商品だし、そもそも昨日買い物した時、くじなんてなかったのだから。むしろ同情してしまう。
まぁ、本当に1億円の価値のある商品なのかどうかは知らないが。
『そんな筈は、今朝確かに抜いてここに……こ、これは!?』
『だ、「ダンガイン無料券」!?店長間違ってるじゃないですか!』
ダンガイン無料券!?なんだそれ?ダンガインて確か今子供に人気のロボットアニメだったよな。フィギュアサイズのロボットを闘わせるだかなんだかっていう。その無料券ていうのが何を無料にしてくれる券なのかわからないが。ていうか「ダン」しか合ってないのにどうして間違ったんだろう。
…今更ながら、当たったのが卵1パックで良かったと思う。何が入ってるのか怖すぎるあのくじ。小心者的にはハズレで貰えるキャンペーン応募券とかで全然構わないのだ。
なんてアホなこと考えてたら、ガチャガチャと後ろから聞こえてきた。どうやら美人店員さんが店長さんを引き連れて店の方に出てきたようだ。
しまった、今のうちに逃げるんだったか…。
「大変お待たせ致しましたお客様。お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありません。」
話しかけてきたのは、店長と思われる男性だった。ピシッとのりの効いたコンビニ制服と汚れの見えない綺麗な作業エプロンを付けた彼は、野太い声のイメージとは少し離れた細身で白髪混じりの壮齢の男性だった。不潔感の感じられない姿とルックスは好印象である。むしろなんでコンビニの店長なんてしているんだろうと思う。貧困なイメージで申し訳ないが、社長とかやってそうなのに。
っていうか、この人がこんな致命的なミスをしたのか。人は見かけに寄らないとはよく言うが。
「つきましては、特賞のご当選おめでとうございます!こちらがダンジョンの入口兼運営権でございます!」
どうやら、特賞を放出してしまったことは店側の不備として諦めたらしい。こちら側まで会話がもれていたのは…気づいてないんだろうな、この様子だと。
しかし、彼は今なんと言ったか。ダンジョン経営権までは、まぁ当たったのだから分かる。それがどういったものなのかは一旦置いといてだ。
しかし彼はこうも言った。「ダンジョンの入口兼―――――」と。
彼の指す出す手を見てみた。彼の手の上には、一つ、運営権と思わしきものが乗っている。
しかし、それはどっからどうみても
「…鍵?」
そう、全体的に少し青みがかった、幾何学の文様が描かれた大き目の鍵だった。どちらかとその印象はダンジョンといったファンタジーよりも、どこかSFチックなデザインだ。
俺はそれを
くるりと回して裏側なども見てみるが、どこからどう見ても鍵だ。材質はつるつるとしていて、しかし手に吸い付くような感触がして冷たく、心地よい。
しかしこのまま受け取ったままというわけにも行かない。何からナニまでわからないのだから。
「あの、ところでダンジョンて――――」
と、言いかけたところで店長さんがにっこりと笑みを浮かべながら食い気味に話しかけてきた。
「ささっ、早速使ってみて下さい!」
「いや、あの説明をしtくぁwせdrftgyふじこlp;@:」
店長さんは話を聞かず俺の背中をグイグイと押してくる。
連れて来られたのは何故かトイレの前だった。店長さんは笑みを浮かべたまま俺の後ろにピタリとくっついている。その後ろには美人店員さんもいる。彼らはどこかワクワクした表情を浮かべて俺を見ていた。
いやごめんなさい、怖いですボスケテ。
しかし小心者の俺はそれ以上何も言えず、流れに任せるだけだった。激流に身を任せ同化するのが極意とどこかの世紀末覇者は言ったらしい。嫌だめだ。これは身を任せた結果海まで流れ着き水平線の彼方へ消えゆくアレだ。
俺は困惑しながらもトイレのドアを見てみる。どうすれば良いんだろう。鍵を使ってみて下さいって言ってるんだし、鍵を刺せば良いのか?え?てことは何、トイレ=ダンジョン?ダンジョン経営ってトイレ掃除かなんかですか?
しかしどうやらそれは杞憂だったらしい。だってトイレに鍵穴ないんだもの。
「あ、申し訳ありません。その横の用具室の鍵穴をお使い下さい。」
店長さんもそんなことを言いながらその横の細いドアを手のひらを示す。体一つぎりぎり通れるかどうかというドアだ。普段
鍵穴を使うっていう表現もおかしいなと思いながら俺はその鍵を鍵穴に突っ込んでみた。
そのとき、やはり不思議に思うべきだったのである。明らかに鍵穴よりも大きい鍵がすんなりと刺さった事に。
「それではいってらっしゃいませ、新しきダンジョンマスター様。またのご来店お待ちしております。」
そこで、俺の意識は一度途切れた。
た、卵を…冷蔵庫に………。(ここでフラグ回収)
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