コンビニダンジョン

お水

入口ーお手軽ダンジョン運営権




   ダンジョン運営権ウンエイケン   ¥100,000,000




 それは、ここ数日で日課となったコンビニにお昼ご飯を買いに行くという現代日本の、一般人なら誰しもがするような日常的な自分自身の行動ルーチンにしたがった結果だった。


 普段通りだった。ついさっきまで。このコンビニに入る時までは。何も不思議なことはない。


 俺、山野辺ヤマノベ カイは北海道に住み、この春から地元の某大学に現役で入学したどこにでもいる一般人だ。大学だって別にそこまで進学校というわけではないので偏差値も入学倍率も高くない、入学も難しくないような普通な場所だ。


 ただ少し言うならばちょっとだけ人見知りする癖があり、入学から1週間。未だサークルにも入れず、同じ講義を受けている人達とも交流が取れていない一人ぼっち学生だということ。


 それ以外は、自他共に認める普通な男だ。運動も中の上程度で、勉強もさっき言った大学の通り、中の中。身長も175cmと高くもなく低くもなく。バレンタインで貰ったことのあるチョコは全て義理。モテた試しもなし。可愛い幼馴染も居なければエロイ姉妹も居ない。運もなくはないが、雑誌の懸賞で当たったことがあるのは一番倍率の低いE賞が1回とかその程度。ちなみにノート数冊とペン各種という文房具セットだった。いや、寧ろそういう時だけ当選するのは運がないのだろうか。


 まぁそんな話は置いておいて。


 いつも通りの筈だった。大学の近くの通りでたまたま見つけた、新築っぽいコンビニ。今日でそれから3日目。このコンビニで、あの”新商品”を見かけるまでは。



   ダンジョン運営権   ¥100,000,000



 何度見ても、そこにはそう書いてあった。


 それはコンビニの入り口のすぐ眼の前に入ってくる場所。コンビニによってはガムなどの嗜好品が並べられてたり。はたまたドラマやアニメ、ゲームなどのメディアとのコラボ商品が並べられているようなレジの真向かいにある棚だ。そこに、ババンと飾りつけられて盛大に”店長の一推し”POPまで貼り付けてある商品は、昨日まではなかった筈だ。昨日昼食を買いに来たときはまだ普通の棚だった。確か置いてあったのは某アニメの一番くじだったか。


「あのー、これ何ですか?」


 聞かずには居られなかった。俺は運営権と書かれた大きいパネルを指差しながら真向かいのレジで作業していた店員に尋ねた。


 店員は女性であった。まだ3日間しか通っていないがこの時間はいつもいるし、手馴れた感じだったのでこのコンビニでももう長いのかもしれない。見た目20台前半のオトナのお姉さんといった彼女は肩まではありそうな長めの艶のある黒髪を頭の後ろで束ね、目元の泣き黒子ボクロが印象的で、美人であり体系も少しスレンダーだがくびれもくっきりとわかるナイスなそれは、俺が思わず小さくガッツポーズし行きつけにしようと思った大きな理由のひとつであるのは秘密だ。


「はい、それは初期ダンジョンお一つと、そのダンジョンを運営する権利がセットになった商品ですね。この店一推しの商品です!今ですとモンスター無料生産チケットが一枚付いてきますよ!」


 良い営業スマイルだ。ポニーテールがぷるんと震えて、活発的な印象を与える。後光まで見える良い笑顔だ。大人だと分かる艶っぽさがあるのにそんな笑顔のギャップが素敵だ。ぶっちゃけ惚れてしまいそうだ。でも言ってることは全てがちんぷんかんぷんだ。


 初期ダンジョン?それを運営する権利?モンスター生産?俺はそのダンジョンていうのが何なのか知りたいんだが。


 しかしそれ以上説明することがない!と言った風に彼女はその笑顔を貼り付けたままだった。なんだこの人。電波さんなのか。今時ダンジョンて。ゲームじゃあるまいし、ファンタジーでもないこの現代日本で、ダンジョンて。いや、もしかしたらゲームのタイトルなのか?


 ただ、どっちにしろ1億円という目が飛び出る値段はゲームではまずありえないし、コンビニで扱う商品としてもありえない。


 あぁ、駄目だ。どんどん萎えてきた。大学から近くて美人店員もいる良いところを見つけたと思ったのだが、何もかもが怪しく思えてきた。1億円て意味がわからないし、ダンジョンて意味がわからないし、美人店員さんは電波だし。意味がわからない。大事な事なので何回も言いました。なにこここわい。


 クソ!こんな所に居られるか!俺は帰るぞ!(フラグ)


 ということで俺は今日をこのお店最後の来店にすべく、経営権の横を素通りして惣菜パンやら飲み物やらを手に取っていく。さっさとこんなお店出て行くべきだと適当に食いたいもの飲みたいものを手にとってパッパとレジに持っていく。そのまま帰らなかったのは、話しかけた上顔を見られて何も買わずに出ていくのは気まずかったという小心者の深き|業≪ごう≫である。



「合計で1,628円になりまーす!」



 買いすぎた。大学生の昼食代のみにしては破格過ぎる額に眩暈めまいがした。馬鹿だ俺は。あぁ馬鹿だ。


 しかしやっぱやめますなんて小心者の俺には言えないんですよ、ええ。ということでさっさと財布から2,000円取り出す。


 おつりを受け取ってさっさと出て行こう。あぁそうだ最後になるんだし店員さんの顔をじっくりみて眼の保養をしておこう。そう、最後だし。


「今キャンペーン中でして、700円以上お買い上げのお客様にくじを引いて貰ってますー。よろしければどうぞー。」


 と思ったら、美人店員さんがレジの下からくじ箱らしきものを取り出してそんなのことを言い出した。キャンペーン中らしい。そういうことならと手を突っ込んでみる。こういうくじも大して良いのが当たった記憶はない。なので、パッパと選んでしまう。中身を混ぜっ返すなんてことはしない。山になっているくじの一番上からパッと取る。



    タマゴ  6個入り1パック



「おめでとうございまーす。商品はこちらになりまーす。」


 う、うーん。今まで人生でしてきた中でも良い商品であるのには間違いない。普段甘いものを食べないのにプリンとか当たってもと思う時がある時に比べれば使い道はあるだろう。

 しかしこれ、大学にもって行かなきゃ駄目なのか…?後で引き換えといっても、もう来る気ないしな。アパートに帰る時間ない。


 どうもと言いながら受け取る。


「今回お客様には1,400円以上お買い上げ頂いたので、よろしければもう一回どうぞ!」


 どうやらもう一回引けるらしい。次はあまり嵩張かさばるものじゃないと良いんだがと、やっぱりパッと一番最初に指に触れた、山の上からくじを引く。



 思えば、この時もっと良く考えて引けば良かったんだ。というか、≪≪当たり≫≫が山の一番上に来るだなんて、誰も思わないだろ?








      ダンジョン運営権








 くじには、そう書かれていたのだ。



 というか、1億なんて商品をくじなんかに入れとくんじゃねーよ!!

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