スターヒロインズ:1
@megashark_fin
第1話
広大な銀河には数えきれないほどの星々がある。
これは星間を、文字通り数えきれないほどの人間が行き来する時代の話である。
広大な宇宙空間を飛び続ける1隻の宇宙船がいた。
側面に鳥の翼をモチーフにしたマークを付けたその船には、女が二人乗り込んでいた。
「カレンお嬢様、そろそろ燃料が尽きそうです。近くの惑星で補給しましょうよ?」
操縦席に座るメイド服の少女が聞くと、後ろの女性が答えた。
「そうね。・・・前からの戦闘でいろいろ消耗してるし、それもいいわね。カヤ、一番近い惑星は何処かしら?」
「400宇宙キロの距離に惑星リエールがあります。丁度今の季節は感謝祭みたいですね。」
カヤの言葉に、後ろの女性、カレンシアは笑った。
「・・・そう。たまにはそういうのも悪くないわね。進路変更、リエールへ向かうわ!!」
「いえす、まむ!『スパルヴィエロ』、GO!!」
二人を乗せた宇宙船、スパルヴィエロは惑星リエールへと急ぐのだった。
王が治める惑星国家、リエール。肥沃な大地に恵まれたこの穏やかな星では、国民は皆満足そうに暮らしていた。
だがそれでも不満な者はいるようだった。
「今日もこれから習い事。そのあとも習い事。どこまでいってもいつまでたっても習い事、習い事、習い事!!もうこんな生活嫌だわ!!」
リエール王女、メアリアン=ド=リエールは城壁に塞がれた外を見ながら叫んだ。
皇位は既に兄に継承されることが決定事項。ならば自由に生きたいと彼女は願っていた。
しかし曲がりなりにも、彼女は王女。外へ出るには衛兵の一団をつけるようになっている。
オマケに『特の高き者には云々』という周囲の者達の進言により、彼女は幼い頃から教育として様々な事をやらされてきた。
技術、知識、運動・・・・・。挙げれば枚挙に暇はない。
今は数少ない休憩の時間だが、少しすればまた勉学の時間だ。
チャンスは一瞬、ばれれば二度と、外を自由には動けない。
以前民から受け取った質素な服に着替えると、メアリアンは部屋から抜け出した。
お父様、お母様、私は自由に生きます。ごめんなさい!
間もなく狼狽するであろう父達に、彼女は心の中で謝った。
幸い今日は父であるリエール王が感謝祭の視察に出ている。場内の衛兵はまばらだった。
廊下を抜け、裏口へ飛び出し、城壁の穴を潜り抜け、彼女は外へと飛び出していった。
しかし、彼女は誰にも見られなかったわけではない。とある兵は彼女が逃げる姿を見ると、一目散にある男の下へと向かったのだった。
「王女が逃げ出しました。ご予定の通りです。」
彼は目の前の男に向かって報告する。
「よし。宮殿から人は遠ざけたか?」
「は。別方面の警備に回しました。今は陛下の警備に当たっております。・・・・・それと、宇宙港のほうも手配してあります。」
「そうか。あとはあの娘がこの星を飛び出し、そして連中につかまれば、私の野望がかなうわけだ。」
男は口ひげを撫でながら、満足そうに呟いた。
一方、カレンシア達は宇宙港に船を止めると、城下町に向かって歩き出した。
「お祭りとか久々ねえ。故郷を思い出すわ・・・・・・。」
感慨深そうに彼女が言うと、隣のカヤが楽しそうに騒ぎ始める。
「お嬢様、お嬢様。どうしてそんなにおセンチなんですか?この前の仕事で私が王様を殺害したからですか?だってセクハラしてきたんですよこっちを?そりゃ殺しますよ。」
「カヤ、落ち着いて。アレは偽りの国王だったでしょ。・・・それに、外で『お嬢様』って言うのは止めてちょうだい。」
「昔を思い出すからですか?カレンお嬢様は少々女々しいところがありますからね。仕方ないです。でもこういう時は、アゲアゲで~~~!!」
はしゃぐカヤを見ながら、カレンシアは呆れていた。
確かにメイドが欲しいって言ったわ。でも、メイドがこんなハチャメチャなんて聞いたことないわよ。
一人で宇宙を旅していた時だ。人恋しくなった彼女は、とある市場惑星で同年代のメイドを買った。
それこそが眼前のカヤ=アルペンハイム。騒がしい彼女のおかげで、退屈と孤独な気分はあっという間に吹き飛んでしまったのだ。
「言ったでしょ。お嬢様だったのはずっと昔、その後貴族籍は捨てて軍人になったの。」
「そしてすぐやめてしまわれたんでしたっけ。お嬢様は根性がなさすぎますよ。」
「ちーがーう。大怪我して退役したの。それから宇宙に出て、アンタと出会った。いい加減覚えなさい。」
「ああ、だからこんなごてごてした義手付けてるんでしたね。わっすれてた!」
カレンシアの腕をごそごそ触りながら、カヤは思い出したように叫んだのだった。
二人がのんびり道を歩いていると、やがてあたりが騒々しくなってくる。
通りに人があふれかえり、軒先には数多くの露店が並んでいる。
「これが感謝祭、ね。たまには甘い物でも食べましょう。」
そう言いながら二人はとある屋台の前にたどり着いた。
「おにーいさん、リンゴ飴下さいな♪」
カレンシアはにこりと笑いながら露天の店主に話しかけた。
「ヘイ毎度!そこのメイドっ娘も食うかい?」
「もっちろん!いただきますよ!!」
はしゃぐカヤを見て、店主は笑った。
「いいねえ。元気っこにはオッチャンから一本サービスだ。祭り、楽しんできな!!」
彼は1本分の代金を受け取ると、2本のリンゴ飴を差し出した。
「良かったわね、カヤ。アンタの分よ。」
「ありがとうございます、おやっさん。それにお嬢様。このカヤ、一生お嬢様についていきます。」
リンゴ飴を受け取ると、彼女は恭しくお辞儀をした。
ベンチに腰掛け、二人はリンゴ飴を食べている。
人の往来を見ながらのんびりするというのは、普段の二人からすれば最高の贅沢の一つだ。
「やっぱりこういうのは良いわね。次は何を食べる?」
「お嬢様…太りますよ?軍もやめたことですし、最近おなかの脂肪が・・・・。」
カレンシアが聞くと、カヤは心配そうに聞き返した。
「このくらいで太るわけないでしょ!基本貧乏生活なんだから多少は・・・・。」
そうは言いながらも、食べ終わった数分後にはジグザクに歩いて無駄なあがきをするカレンシアの姿があった。
「おーう、其処の御嬢さん。くじびきやってかないかいー。」
「どうせ全部空くじなんでしょ?」
「いんや、こいつは空くじなし!一位は温泉で名高い惑星ユノハラへのツアー招待券だよ!どうだい!」
訝しげな彼女だったが、温泉と聞いて目の色が変わった。
「温泉・・・・。良いわね。引くわ。」
慰安のチャンスとばかりに彼女はくじを引いた。
開くとそこには、2桁の数字が乗っている。。
「四等、あたりー。おもちゃの指輪だよー。」
くじ引き屋のおじさんは、指輪を差し出した。
「指輪、かぁ・・・・。」
彼女はもらった指輪を眺めた。なるほど、確かにメッキの施された、安そうな指輪だ。
しかし、彼女は袋からそれを取り出すと、大切そうに左手の薬指にはめた。
「・・・どうせもらうんだったら、アイツからもらいたかったなぁ・・・・。」
しげしげと彼女は、その指輪を眺めていた。
「お嬢様が悲しんでいる!!ならば私が仇を取ろうぞ!!」
「よーし、頑張れ!おっちゃんも応援してるぞ!!」
今度はカヤがくじを引く。出てきた数字は主人のものより良さそうだ。
「三等、あたりー。景品はライトセイバー・・・・の竹光だー。」
そう言いながらおじさんは光る竹刀のようなものを取り出した。
「わーい♪光るぞ光るぞー。」
彼女は光る刀身を振り回しながらはしゃいでいた。
「これが、感謝祭・・・・!!町の人も、楽しそう・・・・!!」
メアリアンは初めて見る光景に惚れ惚れしていた。
「ここでしか食えないスペシャルホットドッグ、食べていきなー」
屋台の方からは威勢のいい男の声が聞こえてくる。
美味しそうだが、今はそんな暇もない。
「いよっ、そこのおじょうちゃん。くじびきはどうだい?」
今度は別の男性が彼女に声をかけてくる。
「くじ?くじってなにかしら?」
始めて聞く言葉だ。興味を持った彼女に、店主は穴の開いた箱を見せながら説明する。
「ほら、この中にある紙切れから一枚をひくんだ。それで、数字が小さいほど、良いものが当たるって寸法さ。
しかも今回は出血大サービス。外れはないし、一位が当たれば温泉ツアー!!」
外れはない、というのは良い事だ。市民の楽しみ、味わわずに旅立つのも楽しくない。
「やってみようかしら。それっ。」
彼女は箱の中に手を入れて、とった紙きれを開けた。
紙切れには手書きで「21」と書いてある。
「三等、あったりー。ライトセイバーの竹光だよー。」
笑いながら店主は、光る木刀のようなものを差し出した。
「これは・・・・武器かしらね。振り回せばいいの?」
受け取ったものをまじまじと見つめながらメアリアンはめをぱちくりさせる。
「だよー。護身用に使ってもいいけど、くれぐれも乱暴はしちゃあダメだぜ?」
指を振りながら店主は笑った。
「わかったわ。ありがとう、おじさま。」
「毎度あり!!」
一礼した後、彼女は再びとある場所へと向かったのだった。
「おお!お嬢様、また誰かがカヤブレイドを当ててますよ!!」
人混みの中から、少女の歓喜する声が聞こえてくる。
「あいかわらずのネーミングセンスね。あんたは間違いなくカヤよ、うん。」
その隣からは呆れかえった女性の声が聞こえてきたのだった。
祭り会場を抜けたメアリアンは、宇宙港へとやってきた。
柵の向こう側には、様々な形の乗り物がきれいに整列している。
「ここが宇宙港・・・。武器をもらったし、少しは脱出の役に立つかしらね。」
彼女は先ほどの竹光を塀にひっかけ、彼女は柵によじ登る。
成功だ。警備員に気付かれることなく、彼女は発着場に潜り込むことができた。
「発着場に来られたわ。これからどうしましょう。」
逃げ出すためにはこの中のどれかに乗り込まねばならない。
だが、駐機されているそれらの船は、全て赤いランプでロックされているように見える。
焦りながらもさがすメアリアン。だが、とある1隻の前で立ち止まった。
「何でしょう、この機体・・・・。まるで、鳥の様・・・・。」
橙色の船はまるで翼を広げた猛禽のような形をしており、なんだか頼もしそうだ。
そして、操縦席と思しき窓の下には。「Sparviero」と書かれている。
何故かこの船だけはハッチの様な場所のランプが、緑に光っている。
もしかして、もしかすると。彼女はハッチの扉に手をかける。
すると、機体のハッチは静かに開き、彼女を優しく迎え入れた。
「ハッチが開いてる・・・!この船に隠れましょう!」
彼女はいそいそと乗り込むと、宇宙船のハッチを閉めた。
「宇宙港より連絡です。王女の乗った船の情報が送られてきました。艦名はえーっと・・・・スパービエロー・・・・。」
写真を見せながら、兵士はぽりぽりと頭をかく。
「ご苦労。写真があれば十分だ。・・・・私もそろそろ出よう。出迎えの準備をせねばならないからな。」
男は服装を正しながら、宇宙港へと向かうのであった。
「うまうま・・・。おひょうひゃま、こいふはほっへもふまいれふね・・・・。」
両手に花ならぬ両手にチョコバナナのカヤは、上手そうに右手のそれを貪っている。
「人の事言っておいて自分は何してるのかしら・・・・。物資も手に入ったしそろそろ出発するわよ。」
呆れ顔のカレンシアは、愛機の戸を開けて、カヤと共に乗り込んだ。
「それで、お嬢様、次はどこへ向かいます?」
「そうね・・・・・。ユノハラ方面の海賊とかをボコボコにして、財宝とかを奪おうかしら?」
「共食いする気ですね、分かりました!!目標、惑星ユノハラ!!とぇーーーいく、おぅふ!!」
カヤの掛け声とともに、宇宙船スパルヴィエロは滑走路を飛び立ち、リエールを後にするのだった。
と言っても、次に整備を受けるのは何時になるかわからない。
恒星系の中を悠然と進みながら、スパルヴィエロは機体チェックを進めていた。
「・・・追尾機構、よし。信管作動、よし。武装系チェック、問題なし。カヤ、船体はどうかしら?」
銃座に座りながら、カレンシアは操縦席のカヤに向かって問いかけた。
「あいよ。エンジン系ばっちり、燃料庫よーし、貨物室・・・・・。」
そこまでいって彼女は貨物室に生体反応があることに気が付いた。
「おや、貨物室で異常発生とのことです。お嬢様もここにいるのに生体センサーが作動してますねえ。」
それを聞いたカレンシアは、困ったように頭を抱える。
「ええ?・・・まさかアンタ、また変なものでも積み込んだんじゃあないでしょうね・・・。」
カヤは畏れ多そうに主人に尋ねた。
「もしも、侵入者なら斬ってもよろしいでしょうか?」
「船が汚れる真似はよして頂戴。百歩譲って縛ってたこ殴りくらいにしておきなさい。」
「安心してくださいお嬢様、いつもやっていることですのでぬかりありません。血飛沫ひとつ残さず首を断ち切ってやりますよ!!」
張り切るカヤに、カレンシアは鉄拳を食らわせるのであった。
一方貨物室に潜り込んでいたメアリアン。
そろそろ体を伸ばそうと思ったところに乗組員がやってきてしまった。
「お嬢様、こんなものでは痛いと思いますよ。一撃で楽にするのが人間の良心って奴でしょう。」
メイド服の少女は、ライトセイバーを振り上げながら後ろの女性に聞く。
「そんな良心、いらないわよ。止めを刺すときは苦しみを散々味わわせて生まれてきたことを後悔させてからするものよ。」
銀髪の女性は、涼しい顔で答えている。
大変な船に乗り込んでしまった。
今更ながらにメアリアンは後悔し始めていた。
自分と同じような年月の相手。なのにどうしてそこまで容赦ないのだろう。
このままでは、生きて帰ることもままならない。
護身用の竹光を必死になってかまえるも、彼女はがたがたと震えていた。
「さて、侵入者様。あなたはもしかしてゴミですか?それとも今からゴミになりますか?」
にこりと笑いながら、メイド少女はじわりじわりとメアリアンに近づいてくる。
だが、後ろの女性はメイドを掴むと、部屋の外へほおりだした。
「落ち着きなさい。話がややこしくなるから、アンタは検査の続きでもやってなさい。」
「Oh…おじょーさまー。かれんおじょーさまー。」
外からは口惜しそうなメイドの嘆きが聞こえてくる。
女性は扉に鍵をかけると、すまなそうに呼びかけた。
「うちの子が迷惑かけたわ、ごめんなさい。悪い子じゃないのだけれど、ちょっと血の気が多くって・・・。」
ちょっとじゃないでしょう、とメアリアンは言いたくなったが、目の前の相手も恐ろしい相手であることを思い出し、再び剣を構えた。
「・・・・身構えないで。大丈夫よ、侵入者さん。怖くないわ。私の質問に答えてくれればいいだけよ。いいかしら?」
眼前の女性はそう言いながら、にこりと笑う。
少し表情も穏やかになっていた為、メアリアンは静かに頷いた。
その姿を見ると、女性は更ににこりと笑う。
「よかった。私達は今からユノハラに行く予定なの。そこの良い所、知らないかしら?」
ユノハラなら知っている。以前母の静養として行ったことがある。
「ユノハラ・・・・。以前行ったときは確か、大浴場に行きました。普通のお風呂にしか見えないはずなのに、
入ったら何故か体や心が軽くなるような、素敵な場所で・・・・・。」
「ふうん、悪くないのね。まるで天国みたいなところなのかしら?」
目の前の女性は再び笑った。絹のような髪が、空気の流れを受けて揺らめいている。
「ええ、そうです。・・・あ、でもその時見た火山は、地獄みたいでーーーー」
「あら、じゃあもう一つ質問良いかしら?」
そんな声が聞こえた瞬間、彼女は手が後ろに引っ張られるのを感じた。
「えっ・・・・・!?」
「天国と地獄、お好きなのはどちらかしら?今から私が好きな方に連れてってあげるわ。」
耳元に囁かれる女性の声。そしてメアリアンの喉元には甲高い音を放つ刃が近づけられていた。
「!!!!!」
油断しきっていた彼女は、一瞬にしてまともに動けない状態になってしまったのだ。
「やっ・・・・・・あっ・・・・あぅ・・・・・。」
「カヤ!!捕まえたわ!使用済みのケーブルで、この娘をぐるぐる巻きにしちゃいなさい!!」
「あいあい、まむ!」
途端にメイド娘が飛び出して、動けない彼女をぐるぐる巻きにしたのだった。
「さぁて、可愛い鼠ちゃん。どうしてこんなところにいるのか、この鳥さんにお話しなさい?」
カレンシアはとらえた侵入者に向かって、猫なで声で話かける。
しかし、当の侵入者はすっかり怖気づき、ぷるぷると震えている。
「だんまりは良くないわ。そんなことしたらこのナイフが・・・・。」
彼女が次なる脅しを始めようとしたその時、爆音とともに船体が激しく揺れた。
「鼠の次は今度は何よ!?」
彼女が叫ぶと、コクピットに戻ったカヤが慌てた声で叫んでくる。
「お嬢様、宇宙海賊の艦隊が迫ってきてるみたいです!!数は1、2、3……20隻ほど!!」
「20!?要塞侵略でもする気なの!?・・・まあいいわ。操艦お願い。私が行くまで持ちこたえなさい!!」
彼女が叫ぶと、コクピットからは了解の返事が飛んで来た。
カレンシアは侵入者を抱きかかえると、コクピットへの道を一目散に走りだす。
だが、彼女が着くまでに何度も激しい衝撃が起きる。
やっと着いたときには、既に警報が鳴り始めていた。
「ボロっボロじゃないのよ!!」
「集団戦術には敵いませんでした☆」
主人の怒号にカヤは笑って返した。それを無視してカレンシアは被害状況を確認する。
「対ビーム装甲、被害80%、主砲、対空レーザー砲使用不能。無事なのは10連装ミサイルポッド5基・・・。」
燦々たる有様に、彼女は頭を抱えた。
「お嬢様、敵艦隊から通信です。」
「繋いで。」
カヤが回線をつなぐと、モニターにはいかにもな風貌のならず者達が姿を見せた。
「わははははー!!俺の名は宇宙海賊サイアーク!!」
「同じくキョウアーク!!」
「ゴクアーク!!」
「レツアーク!!」
「貴殿は包囲されている!我ら海賊四天王の名に懸けて、アジトまでご同行願おうか!!」
モニターの向こうでは、4人の男どもが押し合いへし合い叫んでいる。
「ご同行って、そんな荒々しく言い寄られてもねえ。断ったらどうなるのかしら?」
カレンシアが聞くと、男の中の一人がふんぞり返りながら答えた。
「断ったならば、我らの不死身艦隊が貴殿の船を動けなくしたうえで連れて行く!!」
「そちらは一隻、こちらは20隻!」
「諦める方が懸命だと思うがねえ!」
「なんなら俺たちと結婚してもいいんだぜ!!」
それを聞いたカレンシアは、楽しそうにケラケラと笑いながら机を叩いた。
「・・・あっはっはっは、良いわね、それ。じゃあ早速結婚の宴でもしましょうかしら?」
「お嬢様!?お気を確かに!!」
カヤが驚きの表情を見せるが、当の主人は楽しそうに笑うばかり。
「おお、受けてくれるか!コイツは嬉しいねえ!!」
海賊の一人が笑うが、その直後にカレンシアはにやりと笑った。
「ええ、お祝いの花火をあげましょう!!・・・花火になるのは、あんた達だけどね!!」
「なにい、そいつはどういうーーーー」
その言葉を最後に、激しい爆発音が巻き起こり、そして通信は切れてしまった。
「カヤ、敵艦隊の様子は?」
「全反応ロスト、全滅確認!!さすがはお嬢様、やることなすことゲスすぎます!!」
海賊に誘いに乗ったと見せた時、密かにカレンシアはミサイルを放っていた。
発射されたミサイルの弾幕は半数が迎撃されたものの、残りが敵艦隊に直撃し、誘爆によって敵は全滅してしまったのだった。
「まずはデブリ回収。それが済んだらいったん戻って・・・・」
今後の行動を考えるカレンシアだったが、すぐにまたカヤが慌てたように叫ぶ。
「大変です!また大量の艦隊が!!今度は倍の40隻で、おまけに通信も入ってます!!」
「・・・まだいたの?こんなことならいくつかのミサイル残せばよかった・・・。」
ため息をつく彼女だったが、追い打ちをかけるように通信が飛んでくる。
「あー、スパービエローとやらの艦長君、単独であれほどの戦闘、お見事である。
・・・だが、我々も暇ではないのでね。二度も同じ手が通じるとは思わない方が良い。
これが最終警告だ。わが母艦に収容され、ご同行願いたい。」
先ほどの前座どもとは格の違う男だ。このままではまず、返り討ちだろう。
「お嬢様、どうしましょう。私達デブリになっちゃうんでしょうか。」
さっきまでとは打って変わって怯えきったカヤ。
カレンシアも考え込んだが、やがて結論は決まった。
「・・・・しょうがないわ。残弾もないし、降伏しましょう。」
「懸命な選択だ。手間が省けて感謝するよ。」
男は満足そうに笑った。
「ただし、私達と船には損害を与えないように。断るなら収容直後に自爆して、アンタも道連れにしてやるわ。」
「おお、怖いねえ。・・・あい分かった。被害無きようにしんぜよう。」
そう言って通信がきれると、こちらより一回りも二回りも巨大な船が、口を大きく開けてスパルヴィエロに向かってきた。
「お嬢様・・・・・。」
「言われなくても悔しいわよ。・・・・でも、生き延びる為よ。すぐにでも脱出してやるわ。」
そう言っていたものの、敵艦内に収容された直後から、怪しいにおいが漂い始めた。
「これ、まさか催眠ガス・・・??」
「その、よう・・・・で・・・・・。」
「・・・・・・・!!・・・・・」
3人はそのまま意識を失ってしまったのだった。
まさか捕まった状態で更に捕まることがあるなんて、全く思いもしなかった。
メアリアンは独房の中で複雑な気分になっていた。
武器も道具も何もかもが奪われ、残っているのは服くらい。さらに、アクセサリーもほとんどが無くなっている。
「ブローチとか、イヤリングとはまだ良いわ。けれど、お母さまからいただいたあの指輪だけは・・・・!」
あの指輪は亡き母から受け継いだ大切な指輪だ。それをなくしたとあれば、もはや母には顔向けできない。
「お探しのものはこちらですか?」
不意に、外から声がする。声のした方を見れば、口ひげを蓄えたふくよかな男が意地悪そうに彼女を見つめていた。
しかも、彼の手には彼女の探していた指輪が、ちゃっかりとはめられている。
メアリアンはその男を良く知っていた。
「その声、まさか・・・・ドゴバン!!何故あなたがここに!?」
リエールの宰相、ドゴバン。父の懐刀である彼が何故こんなところにいるのだろう。
「さすがでございます、姫。貴女様がここにいるのは、正に掃き溜めに鶴と言ったご様子で・・・・。」
「・・・・・しかも、その指輪は!返しなさい!今なら父には報告いたしませんよ!!」
メアリアンの要求など意にも解せず、彼は愉悦そうに話を続けた。
「どうやって逃げるのですか、姫。それに、この指輪は我が野望に必要なもの。おいそれと返すわけにはまいりませぬ。」
そう言いながら彼は自慢の口ひげを撫でた。
「ご安心ください。容姿、髙い知性、それに王族の出。貴女様はどこからどう見ても愛玩に値する御方です。
宇宙のどこかには貴女様を精いっぱいかわいがってくださるお金持ちがいらっしゃいますから、それまでしばしお待ちください・・・・。」
そう言い残してドゴバンは独房の前から去っていくのだった。
一方こちらはカレンシア達。二人は仲良く房に閉じ込められていたのだった。
「お嬢様―。起きてくださいよー。」
カヤが呟きながら、体を揺り起こしてくる。仕方なく彼女は体を起こした。
「・・・起きたからってどうするのよ。こんな狭いとこなら寝ても起きても、って・・・・。」
ここで彼女は、大切なことに気が付いた。
「どうしたんですか、お嬢様。何か困ったことでも?」
「・・・義手が無い。奪われてる・・・・!!」
彼女は青ざめながら右腕を撫でた。
左手に伝うはずの金属の感触はなく、感触は腕の端にまきつけた包帯で止まっている。
「アレは私の体の一部。・・・何が何でも絶対取り戻してやる。」
怒りに燃えながら彼女は叫んだ。
「その意気ですお嬢様!!必ず取り戻しましょう!!こんなまな板じゃあ悔しいですもんね!」
そう言いながらカヤは、主人の体を滑るようになぞった。
「自前で悪かったわね!!」
カレンシアの叫びと共に左腕が、カヤに思い切り撃ち込まれたのだった。
「大体アンタがデカすぎなのよ!リンゴでも入れてるわけ!?」
「残念ながらこちらも自前でして・・・・・」
押し問答する二人だったが、そんな彼女達に、誰かが声をかけてくる。
「お二人さん、なかなか騒がしいね。元気なようで何よりだよ。」
「ん?今の声はカヤ?・・・・じゃあないわよね。誰かしら。姿を見せなさい。」
その声に応ずるかのように、バンダナをまいた青年が二人の前に姿を見せる。
「海賊・・・・・・。何、私に乱暴でもしに来たわけ?」
「乱暴・・・・・くっ殺・・・・。お嬢様は、私が護る!!」
身
構える二人だったが、彼は何も答えずに錠の前に立った。そして、懐からカードキーを取り出すと、認証部に近づけた。
「何をする気?私達を売り飛ばすつもりかしら。」
彼女の言葉に、青年はうつむきがちに答える。
「俺、海賊に憧れて入ったんだ。だけど毎日雑用ばかりの下っ端生活。こんなことしてるくらいなら、カタギに戻りたくてさ。・・・それに、アンタらと一緒に捕まった女の子いたでしょ。」
「ああ、あの侵入者ね。それがどうかしたの?」
「・・・あの娘、奴隷市場への輸送の手筈が整えられてる。しかも取引価格は、王族並みに設定されてるんだ。」
「王族級!?・・・って、貴族を売買なんて、そんなことありうるの?」
その言葉に、待ってましたとばかりにカヤが話しはじめる。
「お嬢様、それがありうるんですよ!私が市場でお嬢様と出会う前、亡国の姫だって人もいましたし。」
「まさかメイドちゃん、アンタも売られたことがあるのか?」
「はい!かつての主人の客が襲ってきたのでお返しにぶっ殺したら売り飛ばされました!!」
海賊の問いかけに、彼女は爆笑しながら答えた。
「・・・それはさておいても、人身売買なんて酷すぎる。だったら、こんなところには居たくないんだ。通信でアンタらの戦いは見てた。強いんだろう?彼女を助けてやってくれよ。」
そう言いながら、海賊は必死に頭を下げている。
カレンシアはそんな彼を見ながら、昔の事を思い出していた。
かつて、彼女が軍に所属していたときのことだ。
ふとしたミスから、彼女は敵に捕まった。
敵の気まぐれで彼女は刃を受け、重症を負った。
それでも彼女が生還したのは、彼女を助けた裏切り者がいたからだった。
「獲物に憐れみをかけるなんて酔狂ね・・・・。たしか昔もそんな奴、いたわ・・・・。」
彼女は昔を懐かしみながら呟いた。
だがその時、通路の奥から銃声が飛んでくる。
「あぶねえ!!」
海賊は慌てて二人を突き飛ばし、その前に立ちはだかる。
こけて海賊を睨みつけた二人は、自分達のいた場所に立つ下っ端に弾丸が打ち込まれるのを見てしまうのだった、
「下っ端!!しっかりなさい!!」
「・・・良いんだ。俺よりも、あの子を・・・・。」
そう言いながら彼はその場に倒れ伏した。
「おいおいおいおい下っ端君よお。組織に損害出しちゃあいけねえなあ。」
「そういう奴は真っ先に解雇されんのがオチだぜ。まあウチの解雇は『死』だけどな。」
そしてにやにやと笑いながら寄ってくる二人の海賊。彼らは倒れた下っ端を見ながら、薄ら笑いを浮かべていた。
しかし、彼らは人質がただの無力な女子供と勘違いしていたらしい。彼らは完全に油断しきっていた。
カレンシアも倒れた下っ端海賊を見つめていた。
情けないわね。大の男が銃弾2発で倒れてどうするのよ。本当はそう言おうと思っていた。
けれどそんな馬鹿でまっすぐな姿がどうしても『アイツ』にそっくりで、見過ごすわけには行かなかった。
「よくも私たちを・・・・そしてコイツを・・・・。」
彼女は一言一言を噛み締めるように囁く。
「ああん、なんだ姉ちゃん。丸腰で俺たちとやろうってのかい?」
「武器もないのに勝てるわけねえだろ。諦めて牢屋に戻れっての。」
「・・・何言ってるのかしら。武器ならここにあるじゃない。空間中に満ちた、空気って奴がね!!」
そういいながらカレンシアは左手を突きだした。
途端に彼女の腕を中心とした竜巻が生み出される。
常軌を逸する力を持つようになった人間、サイキッカー。彼女もその一人だったのだ。
「まずはアンタよ、私の義手はどこにあるのかしら!!」
彼女は竜巻を振り回しながら叫ぶ。
「お、おれは知らん!!」
「あっそう。なら吹っ飛んで気絶してなさい!!」
彼女が竜巻をぶちあてると、海賊の一人は思い切り壁に叩きつけられて気絶してしまった。
「お、おのれ!!竜巻とて中心は無風。この弾丸は吹っ飛ばせねえだろ!!」
残った海賊は相棒を吹っ飛ばした女に狙いを定めて弾丸を放った。だが・・・。
「カレンお嬢様を怪我させていいのは、このカヤ=アルペンハイムただ一人にございます!!」
何処からか奪ってきたダガーナイフを構えながら彼女は叫んだ。
そしてその足元には二つに切られた弾丸がころり。
「カヤ!!・・・じゃないわ、何言ってるのよアンタ。」
感激していたカレンシアは、途中でカヤの言葉に気付いて呆れていた。
「・・・さて、私達の実力が分かったでしょう。義手を返してもらうわよ!!」
再び腕に竜巻を纏わせ、彼女は問う。
「わ、分かった!!そこの部屋の中に義手やら武器はしまってある!!鍵はコイツだ!!」
怖気づいた海賊は鍵を投げ渡して許しを乞う。
カレンシアはそれを受け取ると、にこりと笑って言い放った。
「確かに受け取ったわ。・・・だけどアンタは逃がさない!!覚悟!!」
「え、ちょ、そんな」
命乞いも空しく、彼は竜巻に吹き飛ばされる。
「カヤ、ゴミ処理お願い!!」
「よし来た!!そいやぁ!!」
主の命に答え、カヤは吹っ飛んでくる海賊に狙いを定めてダガーを振った。
そして二人がすれ違った後、海賊は達磨落としへと転職してしまったのだった。
受け取った鍵を差し込むと、錠は開いた。
そこには言った通り、二人の荷物や武器、それに義手まで置いてあった。
「よかった。・・・これで私は万事OK。カヤ、アンタは?」
義手をつけながら彼女は聞く。
「ええ、愛刀もばっちりです。ゴミ処理メイドの本気、いつでも発揮できます!!」
身の丈ほどもある刃を背負いながら、カヤは答えた。
「よし、それなら良いわね。けどその前に・・・・・。」
彼女は倒れた下っ端海賊を連れてくると、一言二言何やら念じはじめた。
するとどうだ。深い傷が見る見るうちにふさがっていく。
「傷はこれで良し。おきなさーい、寝てる暇はないわよー。」
そう言いながらカレンシアはぺちぺちと下っ端の頬を叩く。
「お嬢様!?」
「いいのよ。こっちも助けてもらっているでしょうが。」
慌てるカヤを、彼女は静かに制したのだった。
間もなく、彼は目を覚ました。
「俺は・・・撃たれたはずじゃ・・・・。」
「私が治したわ。血液の流れも空気の流れもいじるのは似たようなものだし。」
戸惑う彼に、カレンシアは優しく答えたのだった。
ドゴバンが去った後も、メアリアンは悪あがきを続けていた。
「開けなさい・・・・。そして指輪を返しなさい・・・・!!」
すると人影がやってくる。さすがに彼にも良心があったのか。
そう思った彼女の思いは、次の瞬間粉々に打ち砕かれる。
「お姫様、お引越しの時間ですよー。」
そう言ってくる男は宰相ではなく、海賊の一味だった。
「あ、貴方は!?ドゴバンはどこ!?」
「あのおっさんか?アレは証拠隠滅の操作してたな。俺らはアンタを運びに来たんだよ。」
彼女はその言葉を聞いて愕然とした。
彼は、いや『奴』は自分の事などもはや姫と思ってはいない。富と野望をもたらす商品としか扱っていないらしい。
何て最低な人間なんだ。そう思うが、今はそれどころではない。目の前の男は、明らかにこちらに良くない感情を向けている。
まずはこいつを何とかしないと。そう思うのだが、今の状態ではなすすべがない。
「うー、でもこのまま出荷とはもったいないんだなあ。」
「味見するぐらい、お頭も許してくれるだろう。」
「ぐへへへ、じゃあこっそり食べよう。いただきます!!」
男たちが姫に襲い掛かろうとした正にその時、奥の通路から女性の声が聞こえてきた。
「カヤ、掃除の時間よ!!」
「いえす、まむ!お掃除のお時間です。ゴミはばらして捨てましょう。後ろからグサッとね!」
その声が聞こえた直後、男たちの腹から、刃が飛び出してくる。
そしてまき割をするように刃が下りると、海賊どもは半身になってしまったのだった。
「お掃除完了!!例の侵入者様も無事です!」
両手に巨大な剣を持ったメイドが誇らしげに叫ぶ。
「カヤ、ご苦労さま。そしてお元気かしら、侵入者(笑)さん。」
そこに現れたのは先刻自分を捕まえた恐ろしい女性だったのだ。
「くっ・・・せめて荷物さえあれば今度は・・・・。」
身構えるメアリアン。だが先ほどまでとはうって変わって女性はけだるそうだ。
「下っ端ー。コイツの荷物、渡しちゃいなさい。」
彼女が合図すると、後ろから海賊服の男が気恥ずかしそうに袋を持ってくる。
「了解っす。姫さん、アンタの荷物はこれで合ってるか?」
メアリアンは彼から中身を受け取って確認する。
銃に弾薬、当座の食糧にアクセサリーまで。確かに、指輪以外の持ち物がそろっている。
「何故、私を・・・・?」
疑問を拭いきれずに彼女は聞いた。
「知れた事よ。私もアンタもここから逃げる気マンマン。どうするかはその後で決めればいいもの。」
女性は屈託もなくそう答えた。だがその時だ。
「全乗員にお知らせです。本艦はこれより太陽を最終目的地とします。操縦の変更はできません。直ちにドックより退艦してください。繰り返します・・・。」
スピーカーから流れる、非情なるアナウンス。どうやら奴は出荷より証拠隠滅を優先したいらしい。
「ここでどうこう言ってる場合じゃない。さっさと私達もドックへ向かうわよ!!」
女性はそう言い残して走り始める。メアリアンも必死で後を追いはじめるのだった。
「ねえ、下っ端。」
ドッグへの道を急ぎながらカレンシアは聞く。
「はい、なんですかね?」
「映像見てたなら知ってるだろうけど、私の船はズタボロよ。・・・・乗ったところでトンズラするのは困難だと思うのだけれど。」
彼女が聞くと、気恥ずかしそうに彼は答える。
「ああ、アレなら大丈夫です。俺こう見えても一級艦船整備士の資格持ってまして。あの船も『ウチの組織で使う』って名目で直しておきました。」
「へえ。なかなか有能じゃない。だったら海賊なんかしなくても宇宙港で働きなさいよ。」
カレンシアは問うものの、下っ端は浮かない顔だ。
「いえね・・・。昔は働いてたんすよ。ただ、そこでトラブっちゃって、そんで・・・・・。」
成程、そう言うパターンだったか。彼女は静かに納得した。
そして4人はドックへと到着した。
大勢の海賊がどんどんと船に乗って逃げだしている。
そして、その一団の中に、奴はいた。
「・・・・ドゴバン!!よくも私を、売り飛ばそうとしましたね・・・・・!!」
宰相ドゴバンは声の主に気が付くと、すぐにへりくだった態度を取り始めた。
「・・・姫様、よくぞご無事で!!このドゴバン、此処まで助けに来た甲斐が・・・」
「そんな口先三寸の言葉で、私が許すと思いましたか?この所業は父に必ずお伝えいたします。」
メアリアンの怒りの言葉を聞くと、彼は態度を改め、本性をむき出しにして叫んだ。
「・・・ふん、ならば話は早い!!かくなるうえは、お前たちを皆殺しにしたうえで脱出してくれようぞ!」
「アンタに恨みがあるのはその子だけじゃないわ!!」
負けじとカレンシアも言い争いに加わる。
「ウチの船の修理費代わりに、アンタの命もいただくわ!!くたばるのはアンタの方よ!!」
彼女がそう叫んでいると、今度は宰相の隣の男が声を張り上げた。
「そうはいかねえぞ、じゃじゃ馬ちゃん。ウチのパトロンはやらせねえ。おい、お前たち、やってしまえ!」
「へい、親分!!」
首領とみられる男の指示により、子分海賊どもが10人ほど飛び出してきた。
「下っ端海賊、ここは私達がやるわ!!アンタは船の、発進準備を!!」
「わ、わかった!でも急げ、太陽の重力圏に飲み込まれたらアンタの船じゃあ逃げ出せないぞ!!」
カレンシアの声に、下っ端海賊は急かすように答えて走っていった。
「言われなくても分かっているわよ。雑魚を蹴散らせ、『ヴィルベルヴィント』!!」
彼女が腕を振り下ろすと、強烈な旋風が生み出される。
「ぬわーーーーっ!!」
折角集めた海賊たちは、こけた一人を除いて全員ふっとばされてしまったのだった。
「惜しかったですね、お嬢様。あと一人でストライクでしたのに。」
カヤは撃ち漏らした主へ、悪態をつく。
「別にいいじゃない。『二刀目』で残りをやれば、スペアになる。そうでしょう、カヤ?」
にっこりと主人は笑いかけた。こちらの事を、信頼する目だ。
ならばこちらも答えねばなるまい。他ならぬ彼女の従者として、残った敵を全力でぶった切る。
それがカヤのやり方であった。彼女は構えた二振りの剣を、残った雑魚に叩きつける。
哀れな雑魚は、数を増やしてその場に崩れ落ちてしまった。
厄介な壁はいなくなった。ならば私は自分の敵を狙おう。
メアリアンは受け取った荷物から護身用のハンドガンを取り出した。
使ったことはないけれど、アーチェリーの要領で撃てば、きっと当たる。
「お母様の形見の指輪、それに指を通した罪は重い。覚悟なさい!」
彼女は憎き男へ照準を定め、引き金を引いた。
「ぐあっ!?小癪な・・・・・。」
宰相と呼ばれていた男は、痛そうなうめき声をあげたのだった。
海賊の首領は焦っていた。
呼んだ部下は一瞬で蹴散らされ、パトロンは撃たれる。このままでは自分の立場が非常に危険だ。
「ボス、私もお助けします。」
後ろの声は、弱そうな優男。だがコイツは風女と同じサイキッカーだ。
「・・・わかった、頼む。」
これ以上失態な出来ないと前に出ながら、海賊の首領は呟いた。
「まずは俺の部下を細切れにしやがったガキンチョからだ、食らえ!!」
首領は眼前のメイド娘に向かって剣を振り下ろす。
しかしその攻撃は、あっさりとメイドの剣によって受け止められる。
「退け、退かねば切るぞ!!」
見た目にそぐわぬメイドの言葉。
「それはこっちのセリフだ!!」
刃を弾きながら、首領は叫んだのだった。
「お嬢様!!私が抑えているうちにあのえらそうなのを!!」
前で激しい斬り合いを続けるカヤが叫ぶ。
「分かっているわよ!!『ヴィーント・シュトゥルム』!!」
先程の広範囲の風とは違う、槍のような細長い竜巻。
カレンシアはそれを、身構える宰相へと差し向ける。
「私が感じた、渦巻く怒り!!その身で味わいなさい!!」
彼女は槍を突きだすように、竜巻を撃ちだした。
細く鋭い竜巻は、小狡い男の体に深々と突き刺さったのだった。
「小癪な!!せめて姫とやらだけでも止めてやろう!!」
怒り心頭とばかりに飛んでくる、敵の炎の矢。しかしそれは途中で消えてしまう。。
「お嬢様たちへ軽々攻撃できると思うな!!」
その隙を狙ってカヤが刃を振りおろすものの、攻撃を中断して回避に専念したサイキッカーに躱されてしまった。
「コイツ・・・結構頭が回る。お嬢様には指一本触れさせない!!」
彼女は悔しそうにそう言った。
「ぐ、あああ・・・姫様・・・・どうか、ご慈悲を・・・・・。」
ドゴバンは苦しそうに嘆願する。
実弾と風の弾丸。2発食らえば並の人間ならば重症だ。
だが、その程度で彼の罪は消えることはない。メアリアンは懐から特殊なカプセルを取り出し、装填する。
「お母さまの指輪を奪った貴方が許される理由はない。・・・せめて苦しみは無いように逝かせてあげる。」
「まさか、こんな、娘、に・・・・」
銃弾を食らった刹那、小さく呻いた宰相は、ぐらりと姿勢を崩し、その場に倒れ伏した。
「あの世でお母様に詫びてきてください。」
彼女は吐き捨てるようにそう言った。
「ぐうっ、よくも、よくもウチの免罪符をやりやがったな!!お前ら、生かして返さねえぞ!!」
怒りに震える首領は剣を滅茶苦茶に振り回すが、そんなものが当たるはずもない。
「お兄さんは後で相手してあげるから!!」
メイドの小娘にまでそう言われるほどに彼の刃は鈍っていた。
「カヤ、アンタはサイキッカーを。コイツは私がやるわ、はぁっ!!」
カレンシアは残り少ない魔力を思い切り注ぎ込み、旋風を巻き起こす。
「ぐあああああ・・・貴様ら・・・・!!」
海賊の首領は必死に踏みとどまりながらうめき声をあげた。
「私も援護します。えいっ!」
侵入者の少女も後ろから飛び出し、躊躇わずに弾丸を放つ。
命中だ。続けざまの攻撃に、彼はがくりと膝をついた。
「そ、そんな・・・。ボス、しっかり!!」
勝敗はほとんど決している。それも捕まえた奴らの方に、だ。
うろたえ、首領を気遣うサイキッカー。しかしそれが、彼の命とりだった。
「油断したね、お兄さん。注意一秒怪我一生!!」
背後から聞こえる少女の声。次の瞬間、背後から飛んで来た2つの刃によって、彼に止めが刺されたのだった。
勝敗はほぼ決した。
宰相とサイキッカーは斃れ、海賊首領も逃げ出す気力がない。
「これで大丈夫ね。さあ、早く脱出するわよ!!」
女性が叫ぶが、メアリアンにはとりかえすものがあった。
息絶えた宰相のもとへ行き、母の形見を取り戻し、彼女は女性たちを追いかける。
そして庫内のなかの見覚えのある船の中に、一気に飛び込んだ。
「まずい!!まずいぞ!!もう太陽の重力圏内だ!!このままじゃあ手遅れになる!!」
船の中では先ほどの下っ端海賊がわめき散らしている。
しかし、女性の方は落ち着き払った様子で操縦席のメイドに指示を出している。
「この船を舐めないで頂戴。カヤ、私が合図したら緊急用ブースターを使ってちょうだい。」
「アイアイ、まむ!!」
まるで普通に発進するように、二人の態度は落ち着いている。
「いや、このままじゃあ逃げ出せないだろう!!隔壁があって・・・・。」
「レーザー出力、チャージ完了。発射!!カヤ!!」
「はっしーん!!」
二人がそう叫んだ瞬間、船の主砲から大出力のレーザーが打ち出され、前方に星空が広がる。
そしてワンテンポずれて宇宙船は轟音をあげだし、船外へと飛び出していく。
「死にたくなければシートにすわってなさい!!」
カレンシアはうろたえる二人に対して声を張り上げた。
その言葉が聞こえたのだろう。あいたシートに二人は飛びこみ、衝撃から身を護ろうとする。
強力な加速Gが加わり続けて10秒、20秒、30秒。
ようやく、その押し付ける力が弱くなってくる。
「カヤ、後部カメラの映像をお願い。」
間もなく映し出された映像には、先ほどまで閉じ込められていた母艦が太陽に飲み込まれる最期の姿が移っていた。
「た、助かったんですね・・・・。」
「もう少しで死ぬかと思った・・・。」
海賊とメアリアンは、危機を脱して一安心していた。
しかし、二人にとってはある意味ここからが本番だった。
「・・・で、其処の密航者のお二人さん。これからの貴方達の処遇を決めるわね。
私としてはリエールに戻って貴方達を捨てていく野が一番良いのだけれど。ご希望は?」
見上げると、其処には銃を構えた女性が立っている。彼女の傍らではメイド娘が今か今かと指示を待っている。
「お、俺はこの船に残りたいです!!雑用でもなんでもしますから、勘弁してくださいっ!!」
真っ先に口を開いたのは海賊だ。彼は顔面蒼白になって懇願する。
「ふうん。それは何で?」
「リエールは法治国家。海賊の罪は終身刑以上が確実です!!戻れば俺の人生は終わり。なので俺は宇宙に生きるしかないんです!!」
彼は見ているこちらが哀れに思うほどに委縮している。
彼女はそれを聞いて考え込んだが、やがて静かに判決を言い渡した。
「なるほど。さすがにそれは可愛そうね。・・・ま、良いわ。変な真似をしないなら精々こき使ってあげる。」
「はっ!!ありがとうございます!!俺、リックといいます。潜入工作と船の整備はお任せください!!」
リックと名乗った下っ端海賊は嬉しそうに頭を下げた。
「よし、じゃあリックは良いわね。次はアンタよ。あんたは何者?答えによっては生かしては返さないわよ。」
女性は今度はメアリアンの方に目を向ける。心なしか、リックの時よりも口調も目線も厳しそうだ。
「そうですよ、コイツは怪しいですよ、お嬢様。」
メイド少女も信頼できないと言った風に、疑いの眼差しを向ける。
「怪しいものではないの!どうか命だけは!」
まさか自分が王女だなんていう事も出来まい。メアリアンは必死に頭を下げるが、女性の口調は冷ややかだ。
「『怪しいものではない』?あの変なおっさんと面識あるみたいじゃない。そのくせ何を言ってるのかしら?」
当然と言えば当然だが、容赦ないと言えば容赦ない。しかしその様子を見ていたリックは、驚きの表情で彼女を見つめた。
「あっ、彼女、まさか・・・・・!?」
「リック、アンタは分かるの?確か王族じゃないかって言ってたわね。」
「はい、・・・見間違えじゃあなければこの子、いえこの方はリエールのメアリアン王女です。愛称は確か、『メアリー』だったはず・・・」
遂にばれてしまった。すると女性は困惑したようにメアリーを見つめた。
「え?王女?本当に?・・・・何で王女がこんな流れ者の船に乗ってるわけ?」
もはやこれまでだ。メアリーはごくりとつばを飲み込むと、落ち着き払ってお辞儀をした。
「ええ・・・海賊さんの言う通り、私はリエールの姫、メアリーと申します。」
女性とメイドは驚いたように目を見開いていた。が、すぐに女性の方は呆れたようにぼやき始めた。
「・・・こんなとこにいても、良い事なんてないわよ。悪いことは言わないから、とっととおうちに帰りなさい。それがあんたのためよ。」
「嫌です。あんな窮屈な生活、もう私には耐えられません・・・・!!もっと自由な、外の世界に私は行きたいのです・・・!」
予定に縛られてきつい状態を思い出しながら、彼女は言葉を噛み締めた。
「窮屈な生活、結構じゃない。外は広いけど危険が多いわ。そのありがたさ、もっと感受することを進めるわ。」
わかってないな、という風に女性は呆れて見せる。冗談じゃない。この為に私は飛び出したのに、その想いが誰にわかるのだろう。
「ええ、それは身をもって知りました。・・・ですが私は井の中の蛙です。城やたくさんの護衛に守られ、今日まで生きてきました。そんな生活よりも、広く大きい星の海に飛び出して、世界を知りたい・・・・!!」
渾身に振り絞るようにして、彼女は言葉を絞り出した。
女性はそれまで静かに座っていたが、不意に立ち上がると、右手を水平に掲げた。
「リック、最初の仕事よ。私の右手を持っていなさい。」
「え?あ、はい・・・・。このようにですか?」
「違う。ひじから先の方を両手でちゃんともって・・・・。」
女性の指示に、海賊リックは不思議そうに手を滑らせていた。
「・・・・うん、その辺で良いわ。そのままの姿勢でしばらく待っていて。」
「・・・何を、しているんですか?」
居ても経ってもいられずに、メアリーは女性に聞いた。
女性は一回深呼吸をすると、おもむろに腕をひねった。
すると、彼女の腕が音を立てて外れた。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
メアリーは予想だにしなかった光景に唖然としている。
女性の右腕は、二の腕の部分で途切れ、先には包帯が巻かれている。
彼女が今まで動かしていた右手は、義手だったのだ。
「そんな・・・・腕が・・・・!!腕が・・・・!!」
「・・・好きなだけご覧なさい。これが『自由な外の世界』への入場料よ。」
義手を外した隻腕の女性は、臆することもなく言い放った。
メアリーは、あるべきものが無い物を見て、目を背けようとした。
しかし、だからといって目を背けることも出来ない。
「・・・・私があんたと同じくらいの年の頃、私は故郷の戦争に参加していた。そして払った代償がこれよ。」
右腕を突きだしながら、女性は言った。
「確かに井戸の中は窮屈ね。つまらないかもしれないわ。・・・だけど、こんな苦悩も、困難も味わう必要はないの。
護ってくれる井戸があるって言うのはね、本当は尊くて、大切な事なのよ・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
メアリーが悩んでいたそんな時だ。
「続報をお伝えします。先ほど太陽で起きた爆発は行方不明のメアリー姫を連れ去った船によるものだと判明しました。乗っていれば生存は絶望的で・・・・・」
電波が届くようになったからか、そんな絶望的な報道が流れてくる。
「論より証拠。報道なんて信用は出来ない。今ならまだ、貴方は家に戻れるわ。さあ、答えを聞かせて、お姫様。」
女性は真剣な眼差しでメアリーを見つめてくる。
帰ろうかな。窮屈でも、平和なほうがいいんじゃないかな。
彼女の心がぐらりと揺れる。しかし、これからの事を考えると、彼女は辛い部分もあることに気が付いた。
お父様に怒られるのは良いとしても、城中の者にお灸をすえられるのは間違いない。更なる重圧がかかってくるかもしれない。
そしてほぼ間違いなく、今日のような機会が得られることはないだろう。
戻れば縛られて苦しい思い。進めば自由で困難な世界。だったらせめて、自由でいたい。
「・・・私は外へ出たいです。もし許していただけるのであれば、この船の一員として。」
彼女は身を切るような覚悟を決めて言い切った。
「本当にいいの?私みたいに身分を捨てて流れ者としてすごすことになるわよ?」
「構いません。閉じ込められて生きるくらいなら、外で死ぬ方が外を見れるだけましですから。」
女性はそれを聞くと、悲しそうに笑った。
「・・・そう。しょうがないわね。」
呆れたように呟くと、彼女は外していた義手を付けた。
「カヤ、こっちへ来なさい。」
「はい、何ですか、ご主人様。」
手招きをされたメイド娘が、不思議そうに女性の前に立つ。
「この子はカヤ。ウチの船でメイド兼操縦士をしているわ。」
「宇宙のゴミ掃除は、私にお任せください!!」
紹介されると、メイド娘は嬉しそうにくるりと回った。
カヤが後ろに下がると、女性は胸に手を当てながら話しはじめた。
「・・・私は、カレンシア。『カレンシア=ド=ラグニア』。この船、『スパルヴィエロ』の艦長よ。リック、それにメアリー。・・・・これからよろしく頼んだわ。」
「・・・はい!!」
「こちらこそです!よろしくお願いします!!」
かくして、新たな仲間を加え、宇宙船スパルヴィエロは次の星へと進むのだった・・・・・。
スターヒロインズ:1 @megashark_fin
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