第2話「騎心のララバイ、遮って」

 全宇宙へと版図はんとを広げる人類同盟じんるいどうめいの、その全軍を統制する独立特捜部隊どくりつとくそうぶたい……憲兵艦隊M.P.F.。その性質上、主力がいかなる場所で展開中かは、軍でも一部の人間にしか知らされていなかった。

 ゆえに、ラルス・メルブラッドが着任した場所が意外な宙域でも、驚きはない。

 憲兵艦隊の中枢はここ、アンスリア星系の地球型惑星、マルビーレの残存衛星われたつきにあった。


「ごらん、ヴィリア。惑星マルビーレ……周囲を取り巻くリングは全て、400年前の真征コンクエストによる会戦で砕かれた他の衛星の破片さ。残ったのはここ一つだ」

征暦せいれき627年、第五次マルビーレ攻略作戦。僅か12機のエインヘリアルが星々を砕き、衛星軌道上から主要都市を消し去った戦い。その時の歌も、わたしの中に』

「うん。比較的高度な科学文明で徹底抗戦を選んだマルビーレ人たちは、住む惑星をかれて屈したんだ。そして、今は確か――」

『マルビーレ人は二級奴隷種にきゅうどれいしゅとして繁殖を禁止され、絶滅しました。惑星マルビーレも資源の採集を既に終えています。今は戦略的価値のない場所として航宙図チャートからも削除されてますね』


 ラルスの肩に乗った小さな電子の妖精が言の葉を紡ぐ。それは、立体映像で浮かび上がった相棒のヴィリアだ。まとった薄布が揺れているのも、全て投影されたデジタル映像である。

 そのヴィリアの視線の先へと、ラルスも目を向ける。

 ここは憲兵艦隊に所属する輸送艦【クレインダッツ】の格納庫だ。そのデッキに立つラルスは、目の前の小さな窓から眼下の光景に目を細める。見るも絶景、そして異様な光景が広がっていた。

 赤錆あかさびて乾ききった、茜色カーマインの惑星マルビーレ。

 その周囲を幾重いくえにも取り巻き、星自体の質量が生む重力で漂うのは、無数にあった月の破片だ。破壊し放題で殺し尽くされ、搾取の限りの末にてられた星……それが惑星マルビーレだった。


「なるほど、遺棄いきされた惑星圏とは考えたな。人類同盟の各軍も憲兵艦隊を見つけられない訳だ」


 周囲では補給品を詰め込んだコンテナが、順次搬入されている。格納庫に並ぶのも、各艦を行き来して物資を運ぶ内火艇ランチだ。ラルスも先程この宙域へ次元転移ディストーション・リープし、憲兵艦隊に合流した艦から内火艇で【クレインダッツ】に乗艦したのだ。

 広い広い格納庫では今、コンテナの選別作業に皆、忙しい。

 だが、その誰もが手を止めた。無重力を宙に浮く者も、逆さまに天井を歩く者も、皆が等しく一箇所を見詰めて敬礼をする。

 その先へと視線を滑らせたラルスも、同じように身を正して敬礼した。

 敬礼を返しながら、女性の士官がこちらへと歩いてくる。


「お疲れ様です、ラルス・メルブラッド大尉。わたくしが輸送艦【クレインダッツ】の艦長、リナンナ・ハルシュカ大佐ですわ」


 そう名乗って、美貌の女艦長は地を蹴った。ヒールの高い靴を、カン! と鳴らして低重力を一足飛びに舞う。自然とラルスは手を伸べ、彼女の痩身そうしんを受け止めた。

 リナンナは恐らく、年は三十代前半だろうか? 大人の女性の落ち着きと気品がある。

 貞淑ていしゅくな印象そのままの、穏やかな笑みがラルスに向けられていた。


「光栄ですわ、大尉。噂に名高い若きエース"白閃の星騎士クライヤー・オブ・ノヴァ"にお会い出来るなんて。歓迎します、ようこそ【クレインダッツ】へ」

「お世話になります、艦長」

「早速ですが、特務分室とくむぶんしつへご案内します。ふふ、少し驚かれるかもしれませんわ」

「多少の驚きには慣れてるつもりですが……ま、覚悟しておくとしましょう」


 にこやかなリナンナの笑みは、優しくラルスを連れて歩き始めた。ふわりと飛ぶような歩調で、二人は格納庫を奥へと進む。

 輸送艦【クレインダッツ】は、その船体の大半が格納庫だ。

 用途別に区切られた艦内を移動しながら、ラルスはふと疑問に思う。そのことを口にしてみたら、リナンナがすぐにこころよく説明してくれた。


「あの……ハルシュカ大佐」

「あら、リナンナと呼んでくださいな。艦内でだけは、皆さんにリナンナでお願いしていますの。我ら憲兵艦隊、軍規にはうるさいですが……それはそれ、これはこれですわ」

「はあ。では、あの、リナンナ大佐」

「はい。なんなりと、ラルス大尉」

「この艦は……【クレインダッツ】は、エインヘリアルの運用を前提とした母艦ではないですよね? 失礼ですがかなりの老巧艦ロートルですし」


 ラルスも軍人、そして人類同盟で最強の絶対戦力、エインヘリアルを駆る戦士だ。現在の人類同盟で運用されている兵器には一通り精通しているつもりで、その知識を頼れば自然と知れる。この艦は輸送艦……【クレインダッツ】は物資や弾薬等の兵站へいたんになう艦なのだ。

 エインヘリアルを運用する艦は、それ自体が特別な機能を求められる。

 まず、エインヘリアルが精密機械の塊であると同時に、たやすく建造や量産ができぬという実態がある。エインヘリアルは宇宙に僅か700騎、どれもが単騎で星系一つを殲滅せんめつする力を備えている。その整備には莫大な時間と予算と、専用の設備が必要だ。また、そうしたエインヘリアルを運用する母艦は、必ず専用の艦艇となる。ただエインヘリアルをベストなコンディションに保ち、速やかに戦場へと運搬、投入するための高速強襲母艦こうそくきょうしゅうぼかんがそうだ。


「ふふ、ご心配はごもっともですわ、ラルス大尉。でも、我々は憲兵艦隊……わたくしたちに想定された敵は、未開の蛮族でも辺境宇宙の異文明でもありませんの。同じ人類同盟の、軍規を犯した同胞……最悪、エインヘリアルとも戦う必要が出てきます」

「ああ、なるほど。つまり、専用母艦ではエインヘリアルを出して対処することを、相手に伝えてしまうということですね」

「ご名答です。ふふ、流石さすがはラルス大尉。メルブラット家の名に恥じぬ答ですわ」

「……光栄です」


 やはり、家の名は重い。

 代々軍人の一族で、過去に歴戦の星騎士クライヤーたちを何人も輩出はいしゅつしているのがメルブラッド家だ。何百年もそうして戦士の純血を誇りとしてきた家風が、ラルスには息苦しかった。

 両親や一族の望みに沿う形で従軍し、エインヘリアルのパイロットにはなったが……ラルスが栄えある"白閃の星騎士"の名で呼ばれるようになったのは、あらがえぬ状況の連続が生み出した結果でしかない。それなのに、周囲には生まれと育ちがとやっかみ勘ぐる者たちが多いのだ。

 きっと難しい顔をしてしまったのだろう。

 前を進むリナンナが、ふと不思議そうな顔でラルスをのぞんできた。

 後ろに手を組み上目遣うわめづかいに見つめてくる姿は、一回り程も年上の女性とは思えない愛らしさが感じられた。


「ごめんなさい、ラルス大尉。……お家のこと、好きではないのね」

「生まれは誰も選べませんから」

「そうね……ふふ、私の友人もそう言ってましたの。これから紹介する特務分室の室長ですわ」

「ああ、ええと、確か」

刑部依歌オサカベヨリカ中佐。きっと大尉ならといい仕事ができるわ。期待してますよ? ラルス大尉」

「依歌ちゃん!? そういえば、刑部中佐も僕を、あ、いや、自分をラルスと」

「似た者同士ですもの、許してあげて頂戴。さ、ここですわ。きっと驚くと思いますの」


 ついにリナンナは、ラルスを連れて一番奥の格納庫ブロックへとやってきた。

 【クレインダッツ】は、かなり古い世代の輸送艦だ。その構造は、船体下部にブロック単位で収納スペースをぶら下げた形になっている。1G下の大気圏でも運用でき、当然ながら単体での大気圏突入、及び離脱ぐらいは可能だ。ラルスが見た感じでは、艦齢は400年程だろうか?

 プシュッ! と圧搾空気エアの抜ける音がして、合金製の扉が開く。

 そして、うふふと優雅な笑みを浮かべるリナンナの向こうに、ラルスは驚愕の光景を見る。


「これは……信じられない。これ程に見事な設備が……? しかし、何故」

「憲兵艦隊の所属艦ですもの、大尉。これくらいの偽装フェイクは心得てますわ。意外でしょう? こんなオンボロのおじいちゃんが、中に完璧なエインヘリアルのメンテケイジを備えているんですもの」

「ええ。正直に言って驚きました」


 最後尾の格納庫ブロックは、それ自体が外からは判別不能なエインヘリアルのメンテケイジを内包していた。そこだけが最新鋭の装備で、行き交う空気まで先程とは別物のように感じる。

 そして、メンテケイジの中央には……巨大な黒いエインヘリアル。

 ラルスがぱっと見て騎種や年代の判別がつかないということは、かなり古いエインヘリアルだ。いつの世も貴重な切り札であるエインヘリアルは、基本的に新しい程高い性能を持っているが、千年の歴史の中で極端な開きはない。

 今は神話や伝説となったたぐいだが、最古のエインヘリアルエンシェント・シリーズの眷属などは、凄まじい力を発揮したという。だが、エインヘリアルの力を完全解放するディーヴァ、その核となる結晶クォーツは入手方法も製造法も不明で、希少な動力源……故に、エインヘリアルの数はいつの時代も限られているのだ。


「かなりの年代物だな……腰部にケーブルのプラグ差込口がない。つまり、ディーヴァによる解放出力は全て、本体の駆動と、あとは肩のキャノンでの砲撃に回されるんだな」


 漆黒の巨神が今、ラルスを見下ろしている。

 腕も脚も肥大化して太く厚く、胸部や肩周りまでビッシリと装甲でおおわれている。関節部の可動域にあたるマグネイト・ジョイントが見えない程の重量級だ。そして、同時に高火力を誇るであろう、太く長い一対二門の砲身が背から突き出ている。

 相当古い機体だとラルスの観察眼は察した。

 今の時代、エインヘリアルがシンガーダインの歌でディーヴァを発動させた時、その力は全て腰部へ有線接続することで、携行武装へと伝えられる。プラグを介してケーブルで繋がった銃や剣は、粒子の光で全ての敵を粉砕するのだ。

 だが、目の前の騎体には有線接続用のソケットがなかった。

 つまり、ディーヴァで生まれたパワーは全て固定武装で消費するタイプらしい。


「ほっほっほ、兄ちゃんがこいつの……【カーテンライザー】の新しいパイロットかい?」

「乗りこなせるかねえ? もんのすごーいジャジャ馬だからのう」

「なぁに、若いんだから大丈夫じゃろ? 心配は無用じゃて」


 気付けば、ラルスの周囲には老人たちが集まっていた。そのツナギ姿は、恐らくエインヘリアルの整備を担当する技師たちだろう。エインヘリアルが年季の入った古参兵アンティークなら、携わる者たちもまた歴戦の古強者ベテランらしい。

 ラルスは一人一人と握手を交わし、名を聞いて自分も自己紹介をした。


「ラルス・メルブラット大尉であります。こちらに配備されてる、ええと、【カーテンライザー】? でしょうか。そう、こいつの専任パイロットに着任いたしました。こっちはパートナーのヴィリア。ヴィリア、御挨拶を。いいね?」

『はい、マスター。皆様、シンガーダインのヴィリアと申します。マスターのラルス様と共に、こちらでお世話になりますので、よろしくお願いいたします』


 ラルスの肩の上に立った立体映像が、ペコリと大きくこうべを垂れる。

 その姿に目を細めて、周囲の老人たちはニコニコと笑っていた。

 だが、辺りをキョロキョロと見渡し、リナンナは腰に手を当て溜息を一つ。


「依歌ちゃんは? また中かしら。全く、本当に仕事をしない子なんだから」

「ふぉっふぉ、まあまあ艦長さん。大目に見てやらんかのう」

「おじょうならほれ、いつもの場所じゃ。コクピットの中におるでの」


 老人たちが指差す先を見上げれば、【カーテンライザー】と呼ばれたエインヘリアルの胸部ハッチが開いている。

 ラルスは「失礼」と言うなり床を蹴り、ふわりと低重力の中で浮かび上がった。

 騎体にそって飛びながら、巨体の膝、腰にと順々に踏んで昇る。

 開きっ放しのハッチにつかまり、中を覗き込んでラルスは絶句してしまった。


『マスター、このコクピット……』

「ああ、妙だな。広過ぎる。複座型タンデムタイプ? という訳でもない、いや――!?」


 それは奇妙なコクピットだった。

 今まで搭乗していた【ゼオリアード】と違い、全周囲360度の視界を確保する球形のコクピットは二回りも三回りも広い。そして、その中心には見慣れた操縦席がある。ラルスたちエインヘリアルの戦士が座り、半ば拘束されるようにして埋まる場所だ。

 その背後、少し高くなったところに……舞台ステージがあった。

 舞台としか思えぬそれは、ちょうど操縦席の後頭部あたりに広がっている。直径2m程の円形で、周囲にはパイプ構造の手すりがあった。

 そして、異様な光景はそれだけではなかった。


『あの、マスター……寝て、ます。女の子が……寝てますけど』


 ヴィリアの戸惑う声も、もっともに思える。

 目の前のコクピットの、本当の中央……サークルの真ん中に少女が突っ伏していた。膝を抱くように丸まり、ぼんやりと光る丸いプレートの上で眠っている。広がるあおい長髪はんだ空のようで、白い肌とのコントラストがまぶしい。

 古き鉄巨人の心臓に沈む、妖精のような眠り姫。

 呆気あっけにとられていたラルスが、我に返って手を伸べると……少女は「んっ……」と鼻から抜けるような声を発した。そして、長い睫毛まつげれる瞳を、ゆっくりと開く。豊穣ほうじょうの秋を閉じ込めたような金色こんじきの眼差しが、ラルスを見詰めて何度かまばたきを繰り返した。


「あの……刑部依歌中佐でありますか? 自分は――」

「遅かったな。ふぁ……ん、よく寝た」

「ええと、その」

「ああ、言いたいことはわかる。だが、がいなくては仕事もできんだろう? しかし、中央の連中も良い運転手を手配してくれたものだ。なあ? "白閃の星騎士"」


 身を起こした少女は、どうやら刑部依歌らしい。

 依歌は眠そうに両目をゴシゴシと擦り、大きなあくびを一つ。まなじりに涙の大粒を浮かべながら、アンニュイ極まりない笑みをラルスに向けてきた。

 どうにも要領を得ぬままに、率直な言葉をラルスは投げかける。


「ええと、刑部中佐」

「依歌でよい。その代わり貴様のことも私はラルス……いや、運転手と呼ぶぞ? いいな?」

「はあ。それは構いませんが……その、依歌中佐」

「うん? なんだ、運転手」

? そんな格好でなにを」


 そう、裸だ。

 依歌は下着こそつけているが、白い柔肌やわはだも顕な裸だった。ぺたんと座ってぼんやりラルスを見詰める寝起きの少女は、華奢きゃしゃな肩から柔らかな曲線で織り上げられた肢体が美しい。やや痩せ気味の小柄なからだは、出るとこが主張の限りに出っ張っている。それも、神をかたどる大理石の彫像のように美しく張り出ているのだ。

 ラルスは、ツンと上向きに黒いブラを盛り上げてる胸から目を逸らす。

 だが、依歌は悪びれた様子がない。


「寝ていたからに決まっているだろう。おかしな奴だな、貴様は寝る時に脱がんのか?」

「脱いだあとに、寝間着を着ますが」

「ふむ……そういう人間もいるにはいる。しかし、私は違うぞ? 違うからな」

「見ればわかります。……とりあえず、なにか着てください」


 見れば、自分が座るべき操縦席に軍服が脱ぎ捨てられている。無造作に脱いだままに散らかったそれを、依歌はしぶしぶといった顔で拾い始めた。

 その散漫で野暮ったい姿を見ながら、ラルスは改めてこの異動人事を呪った。

 どう見ても依歌は、十代の少女、小娘だ。

 中佐という肩書は、普通に考えれば不釣り合いである。

 この時代でも少年兵や少女兵は多いが、多くの場合は課せられた兵役義務を消化する下士官かしかんである。こうした子供の頃からの士官、それも佐官クラスというのは、貴族趣味の特権階級を気取る連中が時折んでくることはあるが……そして、ラルスの生まれ育ったメルブラット家でも頻繁にやっているが、あまり好ましくは思えない。

 だが、そんなラルスの心を読むように、依歌は上着だけ羽織はおって立ち上がる。

 ラルスの目線の高さに、黒いレースの下着ぱんつが、その奥にささやかなしげみを薄っすらと浮かび上がらせていた。見たくて見る訳ではないが、思わずラルスの喉がゴクリと鳴る。


『マスター! なにを想像してるんですか! まったく、どうして男の子ってこうなんでしょう』

「いや、僕は男の子という歳では……そもそもだね、ヴィリア」

「さて、運転手も到着したことだし、我々の商売を始めようか? リナンナ!」


 振り向けばハッチの上に、艦長のリナンナが来ていた。彼女は、愉快でたまらないといった感じでクスクスと笑みを手の中にこぼしており、依歌が再度呼ぶと「はいはい」と笑顔で話し始めた。


「では、命令書を開封しますわ、依歌ちゃん」

「ああ、頼む。おい、運転手! お前もちゃんと見ておけよ」


 たじたじで苦笑するラルスを前に、依歌は不遜な態度で唯我独尊ゆいがどくそんのマイペースだ。そんな二人の間に割って入ると、リナンナが操縦席でタッチパネルを操作する。

 程なくして、艦長権限でアクセスされたデータが、光学ウィンドウとなって現れた。

 そして、そこに映された関連資料を目にした依歌の顔つきが変わる。

 あどけなさを残す少女の可憐さが、魔女のように口元へ残忍な笑みを浮かべたのだ。


「ふむ……なるほど。最精鋭部隊スペシャルズのゾディアック・サーティンで、相次ぐ高官の連続殺人事件。しかも、全てがエインヘリアルをもちいて行われ、手がかりもなく、死体すら残らず多くの兵を巻き込んでいる。はは、

「依歌ちゃん、頼めるかしら?」

「無論だ、リナンナ。至急、艦をゾディアック・サーティンの、そうだな……サジタリウス艦隊に向けてもらおうか。スケジュールや航路は任せるが、急いでくれ。手早く片付けなければ、これは……ふむ。死体なき殺人は続くぞ」


 そう言って、形良いおとがいに手を当てる依歌の、その表情が玲瓏れいろうな笑みに冴え冴えと輝く。ラルスは一抹の不安を感じつつ、憲兵艦隊の特務分室で最初の任務に……初めての事件へと挑むことになったのだった。

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