第10話 大円団?

 抱きかかえたまま、禅雁は指定された場所まで歩く。

「叔父さん、迎えに来た」

「おや、ありがとうございます」

「叔父さん!?」

 何故か尋花が驚いていたのはそこだった。

「この子は、兄の一番上の子供です」

 そう言いながら後部座席に尋花を乗せ、その隣に座った。

「珍しく助手席じゃないんだ。というか妹を拾うから、叔父さんは前で」

「いえいえ。知らない人間と隣同士よりも、知ってる人間の方が……」

「歩く猥褻物の叔父さんがそばよりまし」

「酷いものですねぇ」

 そんな話をしながら、寺へと向かっていく。


「まぁまぁ、大丈夫ですか?」

 兄嫁がすぐに出迎え、尋花を連れて行く。


 そして、兄と報告会をしている間に尋花が戻ってきた。


 目の毒である。

 風呂に入り、髪を少しアップにして浴衣を着ただけなのに色香が凄い。

 己の下半身の一部に意識が集中する。

「……兄さん」

「何だ? ふざけたことならすぐ殴るぞ?」

「どうやらまだ健全……」

 最後まで言わぬうちに見事に拳骨を落とされた。

「……こんな弟ですまん」

「い……いえ。色々と助けていただきました」

 二人揃って頭を下げあっている。

「尋花さん、どうしますか? お兄さんと縁を切ります?」

「え?」

 兄嫁の言葉に、尋花が驚いていた。

「今までも色々と面倒を起こして、その度に尋花さんが迷惑を被っていたようですから。そういう意味では禅雁さんも色々と面倒を起こす人ですけど」

「義姉さん……」

「何なら禅雁さんを追い出して、尋花さんを保護したいくらいです」

「酷いですよ、義姉さん」

「冗談ですよ。縁切り寺として有名なのは禅雁さんのおかげですし。ただの煩悩まみれの坊主でしたらとっくに外に追い出してますよ」

 やはり一番怖いのは兄嫁である。

「……えっと……その……」


 驚く尋花に禅雁は爆弾を投下した。

「出来れば、この寺にいていただけませんか? 私と一緒に」


 あまりにも色々省きすぎたプロポーズは、兄一家全員から非難を買うことになった。




「早い話が、あなたに惚れてしまったんですよ。二周りくらい違う男でよければ嫁に来て……」

「だからまだ早いっつってんだろ!? こんないい女性をお前の生贄にするつもりはないっ!」

 お礼と称し、寺に足を運ぶようになった尋花。尋花が来るたび兄弟の心温まる会話がなされ、また一つこの寺の風物詩になっていた。



 そして、尋花が禅雁のプロポーズに承諾するまでこれは続き、承諾したあとは「本当にいいのか? 人生諦めるのはまだ早い」と禅雁の兄に言われる羽目に陥り、結婚後も別の心温まる会話がなされるのはまた別の話である。

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