私と君の交差点

@oto-hu

1.


いつもと変わらない日常にももう慣れてきて、高校2年を迎えた満月明日香。

いつか母に言われた«梦乃行人»はまだ思い出せないけれど、少しずつ死にたいという思いは少なくなってきた。



「あーすか!おはよ」


そう話しかけてくるのは決まって由良だった。

それは高校に入ってから変わる事は1度だってなかった。

それは彼女、満月明日香みつきあすかにはこの士師由良はしゆら以外に友達言える存在が居なかったからだ。


「おはよ由良」



いつからか忘れた笑顔は浮かばないけれど、由良の挨拶を返す。

口数が多いほうではない彼女は、士師が話題を振ってようやく喋る。

なので登校までの道は酷く長く感じる。

しかしその空間が士師にとっても高城にとっても何故か心地がいい物だった。



「そう言えばね、今日転校生が来るんだってさ」


長く空いた間を切り裂くように旬な話題を降る士師


「転校生…?この時期に?」


「結構中途半端だよね」



教室に着くまでその話題で話を進めていれば、驚くほど早く学校に着いたような気になった。

そしてクラスメイトも同じように転校生が気になるようでその話題で持ちきりだった。



「皆席について」



担任の先生の声と同時に開いたドアの側には、噂の転校生が立っていた。

その高い身長に、どこかとてもフレンドリーのような柔かい雰囲気、とても好青年という言葉が似合う少年はクラスの女子の心を一瞬で掴んでしまった。



「今日からこのクラスに入る«梦乃行人»くん。皆仲良くね」



瞬間彼女は普段授業中は上げない頭を上げて、黒板の前に先生の紹介とともに移動した転校生を見やった。


梦乃行人


その言葉は、母がなくなるまで毎日のように聞かされていた名前と同じだった。

そして写真でみた少年の面影が少しばかりあった。




「満月さん…?どうしたの?」




普段頭を上げず、机に伏せている彼女が頭を上げて転校生を見ていることに驚いたのか先生は彼女に声をかけた。

急に話しかけられ、驚いたのは彼女だけではなかった。

«満月»という単語を聞いた転校生もまた同じだった。



満月という苗字は決して多い方ではない苗字だ。

それは一生見かけないかもしれない苗字でもあるほど全国的に少ないものだ。

知り合いに二人もいるとは考えにくい。

なので必然的に転校生の口から出てしまった。



「明日香…?」


「なに」



急に知っている名前の男子から声をかけられた彼女はぶっきらぼうに返事をした。

しかしそれでも転校生の梦乃は嬉しかった。

なにせ何年ぶりかの再会だったからだ。

しかし、梦乃には腑に落ちないことがあった。

それは彼が知っている彼女とは、かけ離れすぎたものだったからだ。






_____君は誰なんですか。

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