第2話

「それでチトセ、話の途中だったわね」

「運命の書、の話でしたよね。それにさっきの栞を挟むと変身出来るんですか?」

「そうよ。空白の書、つまり何も書かれていない運命の書の持ち主に限るけれど。ヒーローたちの魂とコネクトして力を借りることができるの」

「レイナたちの書はみんな空白なの?......ですか?」

「普段通りに話してくれて構わないわ。......ほら、真っ白でしょ」

そう言いながらレイナは書のページを広げて見せた。

「本当だ。普通ならここに、いつ何をして、結果どうなって、っていうのが書いてあるってこと?」

「ええ。私たちはストーリーテラーに何の役割も与えられなかった存在なの。でも、だからこそできる事もあるのよ」

「調律すること?」

「ええ」

「そっか......なら、その調律、手伝わせて」

「ええっ?まあ、気持ちはわからなくもないけど......」

エクスは自分がレイナ達と共にシンデレラを助けに行くと決めた時のことを思い出し、苦笑いしつつ言った。

「そうは言うがよ、危険だぜ?さっきの奴らも出て来るんだ」

「もちろん戦闘は専門外。でも、情報提供くらいは出来るでしょ」

「それはありがたいですけど......なんでまた」

「だってこんな面白そうなこと、滅多に無いじゃない。首を突っ込む他ないでしょ?」

「......あきれた。でも、助かるわ」

ーーークルルルルルゥ............

どこからともなく、ゆらり、ゆらりとヴィランが現れる。

「じゃ、戦闘は任せるから」

「まったく......どっかの魔女を思い出すわね......」


先ほどよりもヴィランの数は増えている。

時折レイナが仲間の傷を癒しつつ、エクスたちは全てのヴィランを片付けた。


「いやーおみごと。私もちょっとその、コネクトってのやってみたいなあ」

「......貴方は今まで運命を知らずに、それに縛られずに生きてきたのよね?」

レイナははっとしたような顔で、チトセにそう尋ねた。

「うん。レイナたちには不思議なのかもしれないけど、この世界ではそれが普通だから」

「ということは、貴方の運命......いえ、この世界の全ての人の運命が、空白なのかもしれない」




「......全ての人の運命が、空白?」

「全員が空白の書の持ち主ってことですか?」

「ええ。ストーリーテラーが書を与えなかったから空白なのか、空白だから書を与えなかったのかはわからないけど。そう考えれば納得はいくわ............そうだ!」

「どうしたの?」

「もしかしたら、チトセが運命の書の存在を知ってしまったことがこの想区の運命から外れてしまっているということなんじゃないかしら」

「なるほど......ということは、この場でチトセさんを調律してしまえば万事オッケーなのでは?」

「へ?私を?」

「そうね......いつもなら。でも、皆が空白の運命ということは、正しくあるべき運命が定まっていないということ。調律をしたところで元の運命に戻る保証はない、というか、戻すべき運命がないというか」

「ややこしくなってきたな......」

「でも、全ての人が空白の書の持ち主ということは、カオステラーはこの想区の人々の運命を書き換えられないということよ。それに、これだけの時間この想区に居ても全くカオステラーの気配を感じないし」

「なるほど。ということは、霧の中の時点で姉御のカオステラーアンテナは誤反応を起こしていたと」

「そういうこったろうなあ。......まあ、お嬢だしな」

タオはわざとらしくため息をつきながら言った。

「ち、違うわよ!霧の中ではこっちの方に何かあるような気がしてたんだもん!っていうか何よその言い方!」

「あー、こりゃ完全に方向音痴スキルが発動した結果だな。目的の想区とずれた方向に進んでたパターンか」

「そんなパターン化はされてない!」

「いや、結構ありましたよ今まで......」

「まあまあ、落ち着いて。それなら、僕たちはさっさとこの想区を出た方がいいみたいだね」

「そうですね。さっきから出てきているヴィランたちはチトセさんにいらんことを吹き込むシェインたちを追い出そうとしているやつだと思いますし」

「えっ、もう行っちゃうの?この世界は調律しなくても大丈夫ってこと?」

チトセが慌てたように聞いた。

「逆に僕たちがいる方が悪影響が出てしまうみたいだ。次の霧が出た時に他の想区へ向かうよ」

「そっ............か。残念だなあ。もっとみんなが闘うのとか、調律とか、見てみたかったけど。行っちゃうなら、仕方ないね」

「私たちから聞いたことは、他の世界にはそういうのもあるんだなーくらいに思えばいいわ。それじゃあ、色々教えてくれてありがとう。もう行くわね」

「うん。......ばいばい」

僕たちはにっこりと笑って手を振るチトセに手を振り返してその場を離れた。



次の霧が出てくるまで、手分けして食料などを補充することになり、いざ解散となったその時。

レイナの顔が急に青ざめ、僕らにこう告げた。

「............カオステラーが現れたわ」

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空白に綴るイデア 白雪せつか @shirayuki_usagi

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