空白に綴るイデア
白雪せつか
第1話
想区と想区の間を隔てる深い霧を払うと、今までそう見る機会のなかった、高い建物がたくさん並んでいた。
「こんなに高い建物ってだけでも珍しいのに、これだけ沢山......」
「こりゃまた随分とハイテクな想区に来ちまったなあ」
「見てくださいタオ兄、鉄の車がすごいスピードで走ってますよ!」
「馬がないのに車が走るのね......それはそうと、私たち............なんか、浮いてない?」
あたりを見回すと、道行く人々と自分たちはあまりにも服装や雰囲気が違い、確かに悪い意味で目立っているようだ。
「そ、そうみたいだね......人の少ない所へ移動しようか」
人の居なさそうな路地を選び、奥へ入ってゆく。
「ここで行き止まりか。じゃあこの辺りでこれからの予定をーー」
「............ブツブツ......ブツブツ......」
「ひゃああっ?!な、何なの?」
歩いていたレイナが足元に居た何かに気づいた。
「あー......ほんっと学校行きたくない......進路決まらないし先生に会いたくない......お先真っ暗............」
「ね、ねえ......大丈夫?」
「ふあ?」
蹲っていた何かはレイナに声をかけられてやっとエクスらの存在に気がついたのか、間抜けな声を出して顔をあげた。
「姉御。ちょうど良いですし、この方から色々情報収集をするというのはどうでしょう」
「そうね。......ちょっとお時間いいかしら?」
その人は僕たちを不安そうにきょろきょろと見回している。怪しまれているだろうか。
「はい?私?ですか?」
「お前さん以外に何処に人がいんだ」
「すみません、怪しい者ではないんです」
「はあ......まあ、いいですけど」
やはり警戒されているようだ。だがレイナはあまり気に留めない様子で質問を始めた。
「ありがとう。早速だけど、貴方はこの想区の主役に心当たりはある?もし良ければ貴方の役割についても教えてもらいたいのだけど」
「......ソウク?役割?」
「想区というのはこの世界のこと。私たちはそう呼んでいるの。この世界はどんな物語なの?貴方の運命の書には何が書かれている?」
「運命の、書?」
「......もしかして貴方、運命の書を知らないの?生まれた時に1人1冊与えられるはずでしょう?」
「そんなの持ってないし、周りで持ってるなんて話も聞いたことがないですけど」
「そんなことってありえるんですかね......?」
「こりゃ初めてのパターンだな......」
レイナは彼女に運命の書のこと、想区に住む人々がみなその運命の書の記述に従って生きていること、カオステラー、ヴィランについて等を掻い摘んで説明した。
「そしてそのカオステラーによってめちゃくちゃになってしまった世界を、《調律》して元どおりにするのが私の勤めというわけ」
「へえ......運命の書か。全部決まってるって便利ですね。何も考えなくてよさそう」
「そんなこと......」
決まっているからこそ悩む人もいるのだ、とエクスが否定しようとした時、嫌でももう耳慣れてしまった唸り声が聞こえた。
ーーークルルルルルゥ......
「ヴィランだ!おいでなすったぜ!」
「みんな、彼女を守りながら戦うわよ!」
応の返事と共にヒーローとコネクトする。
「へ、変身した...?」
「さ、こっちへ」
シェインが彼女を少し離れた所へ避難させ、シューターであるマリーとコネクトした。どうやらあそこで彼女を守りながら援護射撃をしてくれるようだ。
ヴィランの数はそう多くない。アタッカーのヒーロー、白雪姫で攻めればすぐに片がつくはずだ。
「さあ、行くわよ!エクス!」
レイナも考えは同じのようで、アリスとコネクトしていた。
「攻撃は最大の防御、ってなあ!」
ディフェンダーのラ・ベットとコネクトしたタオを筆頭に、ヴィランを彼女の方へ向かわせないよう攻めの姿勢でどんどんヴィランたちをなぎ払っていく。
しかし、一匹のヴィランがエクスとレイナの間をすり抜けてしまう。
「しまった!」
目の前のヴィランを斬り伏せて慌てて振り向くと、ヴィランに一本の矢が深々と突き刺さり、霧散していくところだった。
「甘い甘い甘い、甘すぎだわ!」
そう高らかに言い放ったマリーはコネクトを解除するとシェインの姿に戻り、
「......とマリーが言ってますよ。今ので最後だったみたいですね」
シェインに倣ってエクスたちもコネクトを解除し、二人の近くへ寄った。
「うっ......た、助かったよ」
「大丈夫?怪我はない?」
「あ......はい、大丈夫です」
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕はエクス」
「私はレイナ。調律の巫女よ」
「俺はタオってんだ。で、こっちが妹分の」
「あい、シェインです。よろしくです」
「......チトセ、です」
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