何時までも、待ちましょう

雨宿 宵一

何時までも、待ちましょう

 あの日、あの時、貴方が言ってくれたあの言葉から、幾つの月日が経ったのでしょう?

 貴方の事はあの時の面影のままで今はどのような背格好なのか私には分かりませんが、それでも何時か必ずあの約束を果たしに戻って来てくれると信じています。

 その為に私はあの日から大人になってしまった今でもこの場所にいるのですから。


 私と貴方が初めて出会ったのは、この場所でしたね。

 あの時は桜が舞い散る春先の事でしたが、それは今でもはっきりと覚えています。

 あの日、貴方は貴方のご両親に連れられこの場所を訪れましたが、思えばあの時から私達の運命は決まっていたのでしょうか?

 あの日を境に貴方はよくこの場所を訪れ、私と一緒に遊んでくれましたね。

 時には笑い合い、時にはケンカをしたりと毎日が充実していった日々だと、思い出すだけで今でも笑みがほころんでしまいます。

 それから一緒の小学校に上がり、一緒に登下校を繰り返し、やはりこの場所で変わらず一緒に遊び、時には近所の男の子達から暴力を受けた事もありましたが、それでも貴方は変わらない笑顔のままで、『君を守り続けるから、君は変わらない笑顔のままでいて欲しい』なんて大人ぶった事を言ってくれて、


「…私、本当に嬉しかったのですよ」


 なんて、今この場所で呟いてみたりもして。

 そう言えば中学生に上がってから、私とあまり話さなくなりましたよね。

 思えば貴方と私は思春期というものに入っていたのでしょう。中学2年生になると丸っきり話さなくなって、私から声を掛けても顔を赤らめてばかりで何も話してはくれませんでしたね。

 登下校の際も別々でしたし、同じ班になった時でもずっとそっぽを向くばかりで。私、胸にぽっかりと穴の空いたような気持ちで。

 その気持ちが寂しいと気付いたのは何時だったでしょうか?

 確かその頃は3泊4日の野外活動が丁度あり、その予定のなかにキャンプファイヤーでフォークダンスという項目があって。私は意を決して貴方に何度も声を掛けましたがはぐらかされる一方で、貴方と会話する事もままならないまま遂に野外活動の当日にまでなってしまいました。

 私と貴方は同じ班だったので、2日目の夜に貴方が無理矢理連れ出して一緒に星を見ましたね。その時の会話は酷くちぐはぐなものになっていたかもしれませんが、私にとっては久しぶりの貴方との会話で、本当に楽しかったです。

 暫くの会話を楽しんだあと私がいよいよ部屋に戻ろうと思った頃、貴方は『俺と一緒にフォークダンスを踊ってくれないか』と言ってくれて、私は感極まって涙を流してしまいました。

 その時の貴方ったら何か悲しませるような事を言ってしまったのかと思ったのかひたすらに謝ったりもして。その姿があまりにも面白くて笑ってしまったじゃないですか。

 その後、一緒に部屋に帰る途中で引率の先生に見つかってしまいましたが、お互い先生の言葉なんて一切耳に入って無くて、お互いの顔ばかり見つめ合ったものですね。

 そんな事があった数ヶ月後、野外活動の次の日からまた一緒に登下校していたときの帰りにこの場所で貴方は立ち止まって、私が呆然と立ち尽くしている中で私の事を好きって言ってくれて。

 私、嬉しくて嬉しくて、貴方に抱きついてしまいました。


「それから、ですかね?

 貴方の事が一時も忘れられなくて、我慢出来なくて、何度もお邪魔してしまいましたよね?」


 高校に上がると、私達の関係はそれ以上のものになり、学校でもおしどり夫婦なんて呼ばれるようになってクラスの皆からもて囃されるようになって、貴方は恥ずかしかったかもしれませんが、私はその言葉を聞く度に誇らしい気持ちになったものです。

 だってそうでしょう?

 私達は結婚の約束までした仲なのですから。


 それでも運命というのは、何かと試練を与えてくるもので。

 高校2年生になる直前、貴方から唐突に告げられた引っ越しの言葉。

 親の都合で遠く離れた地へと向かう事になってしまった貴方。

 それでも貴方は『必ずこの場所に帰って来るから』と言ってくれて、その後に続けざまに『俺が…俺がまたここに戻ってきたら、俺と今度こそ結婚しよう』とも言ってくれましたね。


「あの時から幾年と季節を何度も繰り返してきました。

 …貴方は今、何処で何をしているのでしょうね?」


 そう呟いてみた。

 …つもりだったのですが、


「何をしているって、それは酷い言い方だなぁ」


 向こう側から話しかけて来る人影に、私は体が少し浮き上がってしまいました。

 けれどもその姿は記憶には無く、ここ最近では見た事がない人でした。

 が、それでも彼はどうやら私を知っている様子で。更に滅多に人が訪れない、貴方とのとっておきの場所も知っていて。


「もしかして…貴方は」


「そ、俺だよ。

 あの時からもう5年、こんなに待たせてしまってゴメン」


「ううん、いいの。

 だって約束どおり帰って来てくれたのだから」


 あの日、あの時、貴方が言ってくれたあの言葉から、幾つもの月日が経ち貴方が約束を果たしに帰ってきてくれた事が本当に嬉しくて。


 そうして私達は初めて出会ったこの場所で、再び巡り会えました。

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