第7話 扉は開け放たれ、

 俺が何度も開けたいと思ったドアはなんとも簡単に開けられており、侵入者のことがなければもっと素直に驚いていたと思う。


「もう、誰も居ないみたいね。サイガ、ちょっとドアのとこ立って見張ってなさい。禁書庫の中を見てくるわ」


 イマルは禁書庫へ警戒をしたまま入っていく。

 俺は扉がしまらないように抑えて、館内に侵入者がいないか目を光らせる。

 

「ん? まてよ、司書さんはどこいったんだ? まさか襲われたなんてこと無いよな?」


 俺はカウンターの方へ目をやって、司書さんが無残な姿でぶっ倒れていないかを確認するがなにもなかった。

 さらに言えばいつも司書さんが仕事しているスペースも片付いており、今日はまだそこを使っていないことが伺えた。


「おーい、イマルよ。司書さんは今日立ち会う予定だったんだよな?」


 俺はしびれを切らして、禁書庫の中に呼びかける。

 

「あんたは黙って見張りもできないの? 鍵は司書が管理してるんだからいてもらわなきゃ困るでしょ? まぁその必要もなくなっちゃったわけだけど」


 ということは今日司書さんは今日俺達が来る頃にはここにいるはずだったってことになる。

 でも、いない。

 しかし、扉は開かれている。


「おい、イマル。もしかしてこれ、司書さんが脅されて、その上誘拐されてるかもしれない?」


「もしくは司書本人が鍵を開けて逃げた可能性もあるわね。まぁその場合は司書が国家魔術師だったっていう衝撃の事実が必要なわけだけど」


 はは、その可能性は勘弁願いたいな。

 その場合、犯罪者と一緒に毎日お話してた俺がぞっとしない。

 

「やっぱり、とっくにもぬけの殻ね。何を持っていったかは分からないけど数冊抜き取られたあとがあったわ。おそらく司書を脅してそのまま本と一緒に逃げたのね」


「一応聞いてみるがお前の他に国家魔術師がおんなじ任務を受けていて、お前より早く任務をこなして今頃どこかの喫茶店で司書さんに朝食をおごっているなんてことは?」


「それもないわ。今回の任務は禁書が関わっているから任務自体他の人に知らされることはないはずよ」


 俺と同じ時期に卒業してなんでそんな大層な任務を任されているのかは甚だ疑問ではあるが、まぁいい。

 そんなことより、確認しなければいけないことがある。

 「ピオニロ」が盗まれていないかどうかだ。

 俺はそれとなく聞いてみる。


「それで目的の本が盗まれたかどうか確認する方法はないのか? やっぱり一冊一冊みてみるしか無いのか?」


 イマルは禁書庫の中を歩きながら答える。


「残念ながら無いわね。確認には時間を有するから私は今から本部に事態を説明して対応を求めるわ。盗んだやつが禁書を使って人助けするとは思えないし」


 それは間違いない。

 少なくともそれは禁書であり、訳あって封じられていたのだ。

 それに禁書庫には国家魔術師がいないと入れないはずだ。

 となると、相手は国家魔術師、もしくはそれを伴った組織の犯行ということになる。

 どう考えてもこの場の判断で動けるようなことではない。


 俺は推奨を使って本部と連絡をとろうとしているイマルを尻目に禁書庫の入り口から見える範囲の本棚を見ていく。

 盗まれた本の中に「ピオニロ」がなければ、一応俺の目的の達成はまだ可能なはずだ。


 しかし、俺はそこで考慮するべき一つの可能性を忘れていたことに気付いてしまう。


「おかしいわね。流石にこの時間だとすぐ応答してくれないのかしら。流石に誰かいるとは思うんだけれど」


 本部の応答が無いことをイマルがいぶかしがるのを見て、予感が確信に変わった時、館内に武装した兵士たちが押し寄せてきた。

 俺がしまった頃には獅子と豹の文様が入った銀の盾を持つグローラ王国の守護者、ヤグアーロ騎士団が俺たちを取り囲んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る