第5話 記憶は呼び戻され、

 イマルが国家魔術師の家系であったのは知っていたが、まさかこのタイミングで一緒に仕事をすることになるとは思いもしなかった。

 自分ではどうしようもなかった禁書庫への侵入もイマルの付き添いならば堂々と行える。

 

「俺が悩んでたのがバカみたいだな。でも結局、王都じゃなくてアスタムの図書館である必要性ってなんだろうな」

 

 俺が書いた論文は確かに様々な危険性について書いていたが、そのうちどれが王国の脅威となっているのかを教えてくれないままイマルは帰ってしまった。


 一番可能性が高いとすれば魔法を作った犯罪の増加だが、その場合動くのは自警団とかであって国家魔術師が動くような話ではない。

 国家魔術師が動いているということはかなりの大事なはずだ。

 

「俺そんな大層なこと書いていたっけな? なんせ超大作だったからな……」


 大戦後の平和な生活の中で魔法は広く使われるようになった。

 俺はそこに今までは存在しなかった危険があるのではないかと思い、論文を書いた。


 俺が想定したのは「破壊」「異常」「進化」の観点からみた危険性だ。

 大戦が終結したことにより「破壊」による危険は低下しているといえる。

 

 しかし、他の二つについては危険性が十分にあった。

 「異常」は魔法を使うことによって生じる通常起こり得ない環境への影響。

 実際にデルセトでは異常な量の雨が降っている。

 これがもし都市部で集中的に魔法を使う生活をしている影響だとしたらすでに「異常」は始まっていることになる。


 もう一つの進化については禁書が悪用されない限り危険ではないので、現状は心配ない。

 もし、利用されたとしても相当の魔法の知識と魔法開発のノウハウがなければ不可能である。


「デルセトの異常気象しか論文の中で可能性あるのないよな? いや、だとしても二人でどうこうできる問題じゃないけど」


 国が生活に魔法を広めたのだ。

 魔法を使わないレベルまで生活レベルを戻すと、道具の発展のおかげで多少はましかもしれないが、大戦前の魔法が発展する以前の生活に戻ってしまう。


 進化こそしないものの魔法は今でも生活の要なのだ。

 リスクが具体化したところで今更辞められるほど人は強くない。

 頼りにしていたものがなくなると別のものを頼るようになる。

 

「そういう時って大概痛い目見るんだよね……」


 その日、俺は早めに床に入り、明日に備えた。

 とにかく明日は禁書とご対面だ。

 俺は希望と不安を胸に眠りについた。

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