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泣き腫らした目で、のろのろと日紅(ひべに)は着替えた。
『彼』がいなくなってからもう2週間が過ぎていた。
探そうにも手はなく、結局日紅は『彼』のことを心配しながらもいつもの日常を繰り返すしかないのだ。それがどうにももどかしくて、日紅は自分が嫌になる。
『彼』は日紅にとってとてもとても大事な人で、いなくなるなんて絶対に考えられない。
そのはずなのに、なぜ日紅は眠れて、ご飯も食べれて、こうしていつもと同じ時間にいつもと同じように制服を着て、学校に行っているのだろうか。頭の中はやるせなさと疑問でいっぱなのに、また今日もこうして友達に笑顔を向けている。笑える自分が信じられなかった。でも心と裏腹に顔は笑みを形どる。
『彼』のいない日常に、慣れてしまいたくなんてないのに。
たすけて、と日紅は時折心でつぶやいた。
誰に向かうでもなく、それはぽつりと日紅のお腹の奥に落ちる。
助けて欲しいのは、『彼』のほうかもしれない。日紅なんて、ただ『彼』の事を心配しているだけで、別に命の危険があるわけでもない。けれど胸は苦しく涙は枯れなかった。『彼』のいない窓を見るのが苦しかった。それに慣れてきてしまっている自分が憎かった。
巫哉(みこや)。
巫哉。
巫哉。
いま、どこにいるの?
『彼』がいなくなってちょうど3週が過ぎた夜、日紅は熱を出した。
うなされて、朦朧としながら見る夢は『彼』のことばかりだった。
犀(せい)と、日紅と、『彼』と3人で笑いあっていた中学校の頃。
転んだ日紅をよく抱き起してくれた幼稚園の頃。
月光の下(もと)で一際輝く白銀(しろがね)の髪。
生意気そうな釣り上った瞳。
ぶっきらぼうで、だけどその掌は他の誰よりも日紅のことを思ってくれていると知っていた。
いつだって、『彼』は日紅に優しかった。
『日紅』
日紅は薄く眼を開いた。
開けられたカーテンから月光が日紅の顔を照らす。
「待ってる」
言ったときは無意識だった。耳で聞いて、心で噛みしめたら、その言葉はすとんと胸に落ち着いた。
そうだ。『彼』は待っているのだ。日紅を。
布団から床に足をつけた。立ち上がるとふらりとよろけた。でも行かなければならないのだ。『彼』が日紅を待っているのなら。
熱に浮かされたせいか定かではない頭で、日紅はゆっくり歩き出した。
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