第5話仲直り
「そーよぎ、そよぎってば」
ももぷー、ちょっとほっといてー。みんなに笑われて落ち込んでるんだから。
「ねえ、そよぎー、これみてってば」
あんまり勝手に走り回ると見つかるよ。先生に没収されたらどうするのよう。
「これ、そよぎがデコしたカガミだよなあ。オレ、ここちょっとかじったから、おぼえてるぞ!」
え、ちょっと見せて。 ほんとだ!
みおりちゃんと千晶ちゃんの友ミラーじゃん!
「うしろのロッカーの上に置きっぱなしになってたぞー」
ふりむくと、みおりちゃん、めずらしく席にいる。いつも千晶ちゃんと窓際にいるのに。
あたし、ミラーを持つとみおりちゃんのところへいった。
「みおちゃん」
声をかけると、ぱっとみおりちゃんが顔をあげた。
「なんだ、そよぎちゃんか……」
「どうしたの? なんか、落ち込んでる?」
「ちょっとね……。あれ、そのミラー」
「ああ、これうしろのロッカーにあったって、ももぷーが、じゃなかった、あたしが見つけたんだけど」
「千晶ちゃん、ミラーまでほったらかしにするなんて、ひどい!」
みおりちゃん、机につっぷしてわっと泣き出してしまった。
教室のみんな、いっきに注目。そしてあたしを見る冷たい目。
ええっ、あたしなにもしてないよー。
なにごとかとミソヒトチームのふたりもよってきた。
「みおちゃん、泣かないで~。どうしちゃったの? あ、そうだ、千晶ちゃんは?」
「ちあきちゃん。……ちあきちゃーん」
あああ、本格的に泣きはじめちゃったよ。どうしよう。
「ちょっと、落ち着けるところにいこうか」
あたしはみおりちゃんの腕をひっぱると、人気のない理科室の前まで連れていった(もちろんミソヒトチーム付きで)。
「ケンカしちゃったの、千晶ちゃんと……」
やっと落ち着いたみおりちゃんが、ぽつんといった。
「ケンカ!? どうして?」
「お笑いのココナッツ・ミルクって知ってる?」
「ええ、<抱腹絶倒ブルーカーテン>で一番人気の。もちろん存じてますわ」
「たしか、突然『ココナーツ』と叫ぶさざらくんと、それを後ろから回し蹴りするアインさんのコンビだよね」
さすが雑学王、お笑いネタもカバーしてる。
「うん、その話になって、ついわたし、アインさんが好きで、アインさんがおもしろいからココナッツ・ミルクが人気なんだよねっていったら、千晶ちゃん急に怒りだしちゃって……」
「さざらくんのファンだったんだね」
「えええ、そんなことでケンカ!?」
ブンちゃん、なんてことを!
「やっぱり男子にはわからないんだ。ママだってそう、『そんなことで』って。でも、わたしたちにとっては大事なことなの。
簡単に『そんなこと』なんていわないで!」
「ごめんなさい……」うんうん、ブンちゃん、素直でよろしい。
「そうだよ、素直にごめんなさいっていってごらんよ」今のブンちゃんみたいにさ。
「休み時間になると、どこかへいっちゃうの。授業中はもちろんむりだし」
「あ、そうだ。メールは? メールであやまればいいよ」
「何度も書こうとしてるんだけれど、書きたいことがありすぎて、上手く書けない」
ぶるぶるぶる。
「あ、みおちゃん、ちょっとごめんね」
あ、やっぱり短歌メールだ!
件名;遠足は
<遠足はいかなくていい そのかわり前日のあの気持ちだけでも>
そうだ!
「ねえ、みおりちゃん、気持ちを短歌にしてみたら?」
「え、短歌?」
「そう、書きたいことがありすぎて書けないんでしょう? だったら逆に、さっくり短い言葉で書いてごらんよ。
いちばん伝えたい気持ちだけ、短歌にすればいいよ。
短いからこそ、ぐっと伝わる、魔法の呪文みたいなんだから、短歌って!」
「う、うん。……伝えたいのは、いっしょにいなくてさみしいってこと。
ふたりでまた、おしゃべりしたり、デコミラーに変な顔写して、笑ったりしたい!」
「そう、それを57577に込めるんです!」
「ええと、<ミラーには>」指を折って数えながら、みおりちゃん。
「んーと、<わたしひとりの>」後を引き受けて、速水さん。
「<泣いた顔>」ブンちゃんも、がんばる。
「<はやくふたりの>」よし、なかなかいいかんじ。
「<笑顔写して> 」祈るように、みのりちゃんが最後の7音をつぶやいた。
「できた!」
「よっしゃ、みおりちゃん、千晶ちゃんに送信!!」
件名;ごめんね
<ミラーにはわたしひとりの泣いた顔 はやくふたりの笑顔写して>
みおりちゃん、ケータイをぎゅっと胸に抱きしめている。
着信を知らせる青いランプが、ふうわりとともった。
メールを読んだみおりちゃんの目から、ぱたぱたっとなみだがこぼれた。
でも、今度は笑った顔で。
「そよぎちゃん、みんな、ありがとう。教室、いってくるね!」
かけてゆくみおりちゃんをみて、ミソヒトチーム3人でガッツポーズ。
「やったね!」
「よかった!」
「バンザーイ! ……でもやっぱり雑学はわかっても、女子っていまいちわかんない!」
あはは、ブンちゃん、雑学より女心はずっと複雑なのよ!
すごいなあ、伝えたい気持ちをぎゅっと閉じ込めるんだね、短歌って。
……伝えたい気持ち。
……もしかして。
あたしはさっき届いたメールを開いた。
<遠足はいかなくていい そのかわり前日のあの気持ちだけでも>
遠足。 そうだ確か去年の遠足のとき……。
それから、いちばんはじめに届いたメールを画面によびだした。
<ひだまりに置けばたちまち音たてて花咲くような手紙がほしい>
手紙……。そうか!
あたしの頭の中に、花火が開いたみたいに、その瞬間にすべてが光って明るく見えた。
短歌の送り主、わかった!
件名;Re:ひだまりに
<ひだまりに置けばたちまち音たてて花咲くような手紙をあげる>
<ひだまり>の歌の最後のところだけ変えると、あたしははじめて、kirakira☆@keitaimail.comあてに返信をした。
「ブンちゃん、速水さん! 放課後、いっしょに来てほしいところがあるの!」
もちろん、ももぷーもね、あたしは忘れずに胸のポケットにささやいた。
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