第4話きらきら星……
<ひとつづつ灯りはじめる街灯に追われて歩く道のりでした>
あたしの手のなかで、またケータイがふるえる。
校門の前でケータイをぱたんと閉じると、吉川美雨さんが歩き出した。
あたし、ブンちゃん、そして速水さんが、あわてて電信柱のかげからそれを追いかける。
目深に帽子をかぶり、メガネで変装し、吉川さんを尾行(!)しているのだ。
「うーん、やっぱり……。着信と吉川さんのケータイ持ってるタイミング、おなじ……」
「そよちゃん、これは間違いないね」
あたしとブンちゃん、小声で話していると、
「おふたりとも、声をかけるなら今がチャンスです!」
と飛び出そうとする速水さん。
っていうか速水さん。変装の帽子まで和柄のハンチング。ばればれだよ~。
吉川さんがこっちを振り向いた!
あわてて壁にはりつく。
うーん、それにしても吉川さんとは……。
モデルみたいにすらりとした背丈、長い手足。小顔。さらさらロングのストレートヘア。
うちの学年で一番の美人と評判。
でも本人はちっとも気取ったところがなくて、さばさばした感じ。
2人姉妹の姉だから、面倒見が良くてしっかりもの。
陸上クラブの長距離走では、いつも代表に選ばれている。
放課後、校舎のかげから見ていたら、準備体操をしてから走り出し、帰りの音楽がなりはじめるまで、ずっとずっと走っていた。
あたし、マラソン苦手だから、そんなに走ったらさぞかしつらかろうと思うのだけれど、吉川さんはどちらかといえば楽しそうに、ニコニコ走っていた。
うーん、すごいなあ……。
でも、そんな吉川さんだからこそ、あたしに短歌を送ってくれているとは思えないんだよね。
なのでついつい、声をかけられず、名探偵ごっこするはめに。
あ、吉川さん、立ち止まった。
おお、門に手をかけて入ってゆく。ばたん、とドアの閉まる音。
「へー、吉川さんち、ここかあ。一軒家なんだねえ。」
こらこら、ブンちゃん、必要以上にのぞきこまない。
ぶるぶるぶる。
あ、また着信! 3人で画面を確認する。
<走ることただそれだけが好きなことそんな少女に育ちたかった>
……やっぱり!
と顔を見合わせた瞬間、吉川さんの家からピアノの音が聞こえてきた。
それは「きらきら星」の曲だった……。
まずはじめは、なんていおう?
「いままで、素敵な短歌をありがとう」ってお礼かな。
「どうしてあたしに?」って聞こうかな。
うーん。
「ありがとう、が先のほうがいいんじゃないの?」
そうだねえ、これからも楽しみにしてます、って続けて……。
「速水さんにも教えてください、っていうのも忘れずにな!」
あ、そうだったそうだった。
「忘れるなよ、もっきゅ!」
……もっきゅって、あ!
あたしは声のする胸ポケットをあわててみた。
ももぷー。おしりが見えてますよー。
「だあって、犯人わかったって昨日いってたから。オレも会いたいー」
もう、しょうがないなあ、大人しくしてるんだよ!
「いえーいもきゅ。そよぎ、さんきゅ!」
中休み、また「ミソヒトチーム」(ミソヒトモジを送ってくれる犯人をさがすチーム、だから。名づけてみました。速水さん提案の「純情可憐短歌捜索少年少女隊」は速攻で却下!)の3人で集まり、吉川さんの机にしのびよる。
や、やっぱり声かけるのはあたし、だよね。
「吉川さん!」
「ん、たかみやさん。どしたの?」
おお、近くでにっこりされるとほんとに美人だなあ。
「あのね、あたし、やっと気がついたの。いままでどうもありがとう」
「え?」
「あたしに、短歌を」
「ええ! あたし、そんな失礼なことした? ごめんね!」
吉川さん、すっごいびっくりした顔。
あれ? でもなんであやまられてるんだろう、あたし?
「口調が乱暴だって、いつも家族にもいわれるんだよー。べつに高宮さんになにかおこってるわけじゃないからね。
ほんと、気にしないでねー」
「ちがう、そっちじゃない」ももぷーがポケットのなかでつぶやいた。
ブンちゃんがおそるおそる、
「あの、吉川さん、そよちゃんがいったタンカってのはね」
「ああ、おじいちゃんが映画で見てるやつに出てくるからわかるって。
『てやんでい! べらぼうめー!』っていうやつでしょ?」
あああ、<啖呵を切る>の<タンカ>!
がっくりするあたしと、ぽかんとする吉川さんを横目に、ブンちゃんと速水さんの大爆笑が、教室中に響き渡ったのだった。
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