第6話届いた気持ち

件名;長文メールです。


 そよぎさん、匿名でメールを送ったりして、ごめんなさい。びっくりしたでしょ?

 それから素敵な手紙、ありがとうございます。さっきポストに入っていたのを見つけました。

 スイーツデコ、去年よりもすっごく上手になっていて、おどろきました。

 ほんとに食べたいくらい!


 メールの送り主、私だってわかってくれて、すごくうれしかったです。

 ちょうど、そよぎさんたちが4年生で、私が3年生のときの兄弟遠足からあと、学校へ行こうとすると、微熱が出てしまい、ずっとお休みしていました。


 遠足のときにそよぎさんにもらったスイーツデコ付の手紙、あんまりにもかわいくて、何回も何回もながめていました。


 私からもお礼の手紙を書こう! と思っても、なかなかうまく書けなくて……。

 昼間、家にいるときにネットをしていたら、短歌のホームページを見つけました。


 はじめは暇つぶしのつもりで作っていたのですが、だんだん思いがあふれて、誰かに読んでもらいたい、と思うようになりました。


 それで、そよぎさんに返事の代わりに短歌のメールを送ってしまいました。

 アドレスは……姉のケータイをこっそり見てしまいました。

 あとで正直に告白して、美雨おねえちゃんにおこられておきます。

 早く元気になって、そよぎさんにあいたいです。


 <ほしいのは勇気 たとえば金色のおりがみ折ってしまえる勇気>

                                    

               吉川 美夜


 件名;Re:長文メールです。


 美夜ちゃん。こちらこそ、気がつくのが遅くなってごめんね。


 なんてニブイんだあたしは! ぽかぽか(←グーで頭をなぐっている音)。

 スイーツデコにはまって、はじめて人にプレゼントしたのは美夜ちゃんでした。


 遠足の前に、仲良くなるためにいっしょに給食を食べる機会があったよね。

 そのときの美夜ちゃん、すっごくかわいかった。お姉さんの美雨ちゃんが美人タイプなら、美夜ちゃんはキュートなタイプだなあって。プリンをにこにこしながら食べてたね。


 あたし、ひとりっこだから、こんなかわいい妹がいたらいいのに、ってとってもうらやましかったです。


 だから遠足の前の日に、慣れなくてすぐ固まっちゃうシリコンと、思うような色にならないアクリル絵の具と戦いながら、スイーツデコ付きのお手紙を書いたんだった。


 今見たら、あまりにへたっぴで落ち込みそう。

 さっきポストに入れたのは、いまのあたしの最高傑作だから、そっちを見て~。


 あたしね、美夜ちゃんの短歌のメールのおかげで、お友達がたくさんできたよ。


 そう! 美夜ちゃんに短歌を習いたいって子もいるの。


 いま、みんな外で待ってる。

 このメールを見たら窓から見てみて!

                                      

             高宮 そよぎ


 

 ゆっくりとカーテンが開いて、美夜ちゃんが顔をのぞかせた。

 去年より、少し大人びた顔で。


 「わお、ほんとだ、かわいい子だもきゅー」


 「まあ、こんなかわいい先生に短歌を習えるなんて、光栄です!」


 「ボクは短歌に関連する雑学、教えてほしい!」


 「見て! 千晶ちゃん、吉川さんにそっくりな瞳!」


 「ほんとだー。ねえ、みおちゃん、鼻も似てるよ!」


 「ええー、そうかな。あたしのほうが美夜よりも鼻が高いと思うんだけどなあ……」


 「美夜ちゃん、よかったら降りておいでよ! みんな紹介するから!」

 あたしは大きな声で叫んだ。


 窓辺から、美夜ちゃんが離れていった。



 玄関のドアは、なかなか開かない。


 ……やっぱり、ダメなのかな、と思ったとき、あたしのケータイがふるえた。


 件名;綿菓子へ!


 <綿菓子へザラメが変わる力学を明日のわたしに向けて応用>


 そうだよ、美夜ちゃん! かたいザラメが、ふわふわのやさしい綿菓子になるあの魔法みたいな力で。


 出ておいで、美夜ちゃん!


 あたしの祈りが通じたように、玄関のドアが、ゆっくりと開いた。


 なかから現れたのは、一年ぶりの、でも変わらずにかわいらしい美夜ちゃんの笑顔だった。

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