CASE1
第1話
「おはよーございまーす」
「おはよー」
女子高の朝は早い。
「ちわっす、ガクエンさん」
「おはようございます、ガクエンさん」
校門を通り抜けた女子生徒がカカシのような人形に声をかける。
通称『ガクエンさん』。このリリアノール女学院の門番代わりとして生徒に親しまれている存在である。
……そして、今の「俺」の身体の代わりでもある。
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時間は少し遡る。
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『そもそも、学園になったということは百歩譲ってわかった……いや全然わからねえけど、あんた俺に何をさせるつもりなんだ?』
この異常な状況に(一応は)慣れたところで、俺は校長――カチュアに当然の質問をぶつけた。
とは言っても発声はされず、学園管理室のモニターに俺の質問が表示されるという形だが。
うん、これはもう慣れるしか無い。
「何を?……えーっと、それはですね……ちょっとお待ち下さい。今考えるので」
今考えるって言ったぞこの女。
見た目からして聡明そうな女性だと思ったが、どうやら見解を改める必要がありそうだ。
「……そ、そうよ!あなたには『学園七不思議』の捜査をしてもらおうかしら!」
学園七不思議と来たか。
異世界の魔法学園にも七不思議という伝説があるというのは多少親近感が湧く。
それに、こんな状態になったからには何かして気を紛らわせたい。
……ただでさえ、学園になったなんて。頭がおかしくなりそうだ。
それとも、既におかしくなっているのかもしれない。
本当の俺は病院のベッドの上にいて、これは狂った俺が見ている夢なのではないか。
そんな考えを振り切るように、俺はモニターを通じてカチュアに返答した。
『わかったよ。それくらいはやらせてもらう。
慣れるまではいろいろ大変そうだけど、あんたがフォローしてくれるんだよな?
とりあえずこの体……体?で何ができるか、色々試させてもらうぞ』
「わかりましたわ。何か不都合等あればご連絡を」
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それから数日、俺はこの体でできることをいろいろと試すことにした。
まず自分の体の感覚について。
「学園そのもの」となったということは、俺の身体の中に女子高生が登校してくるということだ。
それに関しては何かしら背徳的な感覚を覚悟していたのだが、実際にはあっさりしたものだった。
例えて言うなら乳酸菌を身体に取り込んだところで特に何か自覚症状があるわけでもないようなものだ。
……何故かがっかりしている自分を必死で否定する。違う、俺は変態ではない。
視覚・聴覚については、監視カメラで校内を監視しているような感覚だ。
「ここを見たい」と思った場所に意識を向けると、その場面が脳裏に浮かぶようになっている。
一部どうしても閲覧できないエリアが存在するが、女子更衣室などは魔術障壁でガードされているとカチュアから指摘があった。
どうやら閲覧ログが残るらしい。あの女うっかり屋に見えて意外ときっちりしていやがる。
食欲や睡眠欲などはどうやら無くなっているようだ。
なにせ建物である。食事や睡眠は必要ない。
完全にヒトとは別種の生命体になってる感があり恐ろしくもある。
だいたい自分の状態は把握した。
あとは調査のために生徒とコミュニケーションを取れればベストなのだが――
そこで目につけたのが『ガクエンさん』である。
会話こそできないが、生徒から話しかけてくれるので情報収集もしやすいだろう。
何より、ヒト型に近いほうが落ち着く。
そんなことを回想していると、一人の生徒が近づいてきた。
「ガクエンさん、ガクエンさん、聞いてください……」
――さあ、仕事の時間だ。
異世界女子校転生日記 @shio1202
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